氣志團・綾小路 翔インタビュー|「One Night Carnival」はいかにして生まれ、愛されてきたのか (3/3)

WANIMAに脱帽、木梨に完敗

──ayuに続く2組目はWANIMAですが……僕は正直これが一番驚きました。アレンジの解釈も細かい作り込みもすごくて「WANIMAってこんなテクニカルなバンドだったのか!」と。

時を同じくして彼らは10-FEETのコラボレーションアルバム(3月23日発売「10-feat」。参照:10-FEETコラボレーションアルバム全曲トレイラー公開、ゲスト10組を4分に凝縮)にも僕らと一緒に参加しているんですけど、そっちもすごいんですよ。WANIMAっていわゆるメロディックパンクとかラウドロック系のバンドの中では極めて異質な存在だと思っていて。なんというか、亜流なんですよ。楽曲はド真ん中なんだけど、ライブに対する概念が違う。KENTA(Vo, B)くんはMCも抜群にうまくて、会場を煽っているときはあえてベースを弾かなかったりもするんですけど、本来スリーピースのシンプルな編成なのに、ベースが抜けることも想定した演奏になっている。そして遂に自分がインするタイミングも絶妙なんだよね。レコーディングとは違うアレンジをしているのに、まったく音の厚みの違いを感じさせないし、実にエンタテイナー。弾けるような若さと老獪な職人芸が同居する不思議なバンドだなあとずっと思っていて。本当の意味でケンカが強いタイプというか、どこだろうと誰が相手であろうと関係ない。相手がどんな客でもジャンルでも関係ない強さがある。

──ちゃんとWANIMAっぽさがありながら、WANIMAファンでもちょっと驚くのでは?という新鮮さもあって、かつ氣志團のファンもしっかり納得させるような、お見事なカバーだなと思いました。

僕はどこか彼らに一方的なシンパシーを抱いていて……僕らはずっと芸人でありたいと思っているんです。芸人イコールお笑い芸人のイメージあるかもだけど、そもそも芸事で生計を立てる人は皆芸人。どんな場所でも「お前らここでなんかやってみろ」と言われて、そこにいくばくかのギャランティが発生するなら何をやってでも目の前のお客さんを満足させなくちゃいけない。それと同じイズムを彼らには感じるんです。アーティストでありながら、そのイズムも強く感じる。どんな場所であれどんな相手であれ、お客さんを満足させるという気持ちを僕らも持っているけれども、WANIMAはちょっと次元が違うのかもなと。あと、タイトなスケジュールの中、納品までの速さが尋常じゃなかった。それでこの完成度たるや。ホント脱帽ですね。

綾小路 翔(Vo)

──このアルバムは曲順もいいですよね。

何万通りと試しました。快心の曲順ですね。アルバムって最初の2曲で決まると思うんです。2曲目まで聴いて「買ってよかった!」と思うかどうか。それをWANIMAにお任せしました。

──言っても全部同じ曲が並んでいるので、続けて聴いていると飽きがくるのかと思いきや……。

3番バッターにノリさんという稀代のトリックスターが現れて、全部をぶっ壊すという(笑)。いきなりラッセーララッセーラと和の方向で始まって、こう始まったらサビあたりでオリジナルに近い形に戻ってきてくれるだろう……と誰もが思うじゃないですか。でも聴き進めていくうちに、まだしも前半のほうがまともだったことがわかる(笑)。狂言のような世界に入っていって、それでも最後の最後は帰ってくると僕も思ってたんですよ。でも結局一切帰ってこない(笑)。まだ誰も見たことがないピリオドの向こうへサクッと行っちゃった。しかも2速ぐらいで。でもこれがめちゃくちゃカッコいいんだからスゴい!

──そこはさすがの木梨憲武さんですね。「お前らにこれがやれるのか?」と問いかけられるような。

いやあ、もうね。僕はかなりそばで「みんなの想像を超えてくるノリさん」を見てきた人間ですけど、その僕の想像すら全部裏切るかという。ぶっ飛びましたね。完敗です。これぞ木梨憲武という、天下無双のトリックスターですよ。木梨の前に木梨なし、木梨のあとに木梨なし。ここで1回みんなの脳みそをシェイクしちゃおうかなと。

「俺の師匠は俺の10倍強え」みたいな

──そして4番手の湘南乃風は、見事に「One Night Carnival」を自分たちのフィールドで鳴らしているような印象です。

そうなんですよ。湘南乃風はカバーというよりは、フィーチャリング寄りのスタイルを選んできた。僕はHAN-KUNが歌う主メロも聴きたかったですけどね(笑)。そういえばある日突然HAN-KUNから「今レコーディングしてるんですけど、翔さんちょっとこのセリフ送ってくれないですか? iPhoneで録ってそのままでいいんで」と連絡が来て。1人ぼっちの部屋で録音して送って、いったい何が起きるんだろうと思っていたら、このような仕上がりになっていました。うれしかったなあ。曲順は本当に何度も何度も考えたんですけど、ここで来る湘南乃風がすごくいいなあと。彼らは同世代なんで、東京湾を隔てて千葉と神奈川のヤンチャなやつらが初めて手を組んだという。連合ですよね。こういう場でそれができたのはうれしいし、ありがたいことですね。

──BiSHは壊しにくるところも想像していたのですが、思いのほかエレガントな仕上がりで。

本来は外に出たら一番“やらかし”をするのがBiSHのはずなのに、今回は周りがぶっ飛びすぎてるから、むしろBiSHが真っ当に聴こえるという(笑)。「ああ、『One Night Carnival』ってこういう曲だった」と思い出させてくれる、引き戻し担当みたいなことになっていて、これがこのアルバムの恐ろしいところですよ。あとは僕らメンバー全員がガチの清掃員(BiSHファンの呼称)と化してしまっているので、メンバーみんな「あそこの誰々のパートがいいよね」ってキャッキャキャッキャと大騒ぎでした。尊いわ……。

──(笑)。正統派なBiSHが見られる珍しい作品ですね。

そう。本人たちはきっとそのつもりはなかったと思うんですけど、トータルで見ると一番の正統派です。いやあ、2023年までの間にこれを生で聴ける機会はあるのかなと。限りある時間の中でこれをセットリストに入れてくれというのも図々しいですけど(笑)。

綾小路 翔(Vo)

──m.c.A・TさんとISSA(DA PUMP)さんのコンビは、もう“節”が出すぎていてちょっと笑ってしまいました。

今回「何しろとんでもないボーカリストに『One Night Carnival』を歌ってもらいたい」という気持ちがあって。僕は歌がうまい人は誰かと尋ねられたときに最初にパッと顔が浮かぶのは森山直太朗とISSAなんですよ。僕はもともとDA PUMPが大好きでよくライブを観に行ってたんですけど、あるときm.c.A・Tさんがゲストで突然出てきて、僕の大好きな「Coffee Scotch Mermaid」をDA PUMPと一緒に歌ったことがあって。とても自分には歌えないISSAの超高音をさらに超えてくるA・Tさんのハモに「師匠すげえな」と衝撃を受けたんです。それを思い出して、あの超人師弟コンビをここで引き合わせることはできないかと企んで。「俺の師匠は俺の10倍強え」みたいな。幻想が現実になりました。

──夢がありますね。

こちらの期待に100億点で応えてくれました。しかし、ISSAが歌うとやっぱりISSAのメロディになるんですよね。同じ譜割りで同じメロディのはずなのに。そういう意味では次のスカパラも、こちらが期待していた100億点の答えを出してくれましたね。基本ご参加いただいたすべての方々に「何やってくれてもけっこうです。好き勝手やっていただけたら幸いです」とお伝えしたのですが、スカパラ兄さんたちには「どうか俺たちに寄せて面白くしないでください! スカパラ兄さんがスカパラ兄さんらしく演奏してくれたやつ欲しいです!」と心の中で念じていて(笑)。パーフェクトすぎるの来ましたね。マジ一生の宝。これも置きどころに悩んだんですけど、レコードで言うB面の1曲目、ここでもう一度流れが変わる、みたいなところを担ってもらいました。しかしこの音源が送られてきたときは、あまりにも最高すぎて……そのときちょうどランニングしてたんですけど、これだけ14回聴いて(笑)。谷中(敦 / Baritone Sax)さんにLINEで「こんなに気持ちよく10km走ったのは初めてです」とお礼しました。

これを家宝に、そして国宝に

──そして鬼龍院翔(ゴールデンボンバー)さんも、非常に“らしい”カバーですね。

ちゃんと“らしい”感じで「そこから始まるんだ」という。彼は歌い手である前に音楽プロデューサーとして途轍もなく優れている人で、いろんな音楽をさまざまな角度から研究して研究して作品を作るというタイプなんだと思うんですよ。今回も彼の得意な水っぽさだったり元ネタの掘り起こしがあったりと芸が細かい。ホラ、あいつ去年はなんやかんやでほんのり叩かれていたからさ(笑)。そろそろ本業である音楽をやっているキリショーに出て来てもらいたい、というちょっとした老婆心もありつつ(笑)、彼の傑出した音楽的能力をこの「One Night Carnival」を使って発揮してもらえたらうれしいなという思いがあって。

──打首獄門同好会もいろんな攻め手が想像できましたが、こう来たかと。

大澤会長(大澤敦史[Vo, G])が言ってましたよ。このメンツを見て「どうしたらいいのか」と悩んだみたいで。ミシュランのスーパートップシェフが並んでいる中で同じ具材を渡されて、チャーハン作れと。こんな無理ゲーはあるかと。自分たちの特性を生かしたヘビーなサウンドとスピード感……そこにはWANIMAがいる。女性ボーカル枠で行くか……と思ったらayuがいてくぅちゃんがいてももクロがいてBiSHがいる。ならばネタに走ったらどうだろう?と思ったらキリショーがいる。八方塞がりで「常識にとらわれない、それが打首獄門同好会だ!」と心に決めたら、ノリさんがはるか彼方までブッ飛ばしていた……的な(笑)。しかしながらさすがの打首。彼ららしさが爆発してる。実は今回ロックバンドが意外と少ないんですよね。その中で、ロックバンドの気持ちよさを存分に味わわせてくれていますね。あと流暢な英語はjunko(B)さんによるもの。戦後GHQで通訳として働いていた説が急浮上中です。そしてドラムはついに(河本)あす香ちゃんが復帰してくれています。

──確かにロックバンドのトリビュート盤としては珍しい面々で。次は倖田來未さんですからね。ayuと倖田來未というエイベックスを代表する歌姫2人が、ここで並ぶ!?という。

いや本当に。こんな無茶なお願いにも関わらず、皆さん僕らの意図を汲んでくれて。くぅちゃんらしいクールな歌声とサウンドで……本来「One Night Carnival」はこんな妖艶な曲にはならないはずなんですけどね。「そうか“クール”ってのは“熱い”ってことなんだ!」って気付かせてくれましたね。あと、これはこのアルバムに参加してくださったすべてのシンガーに共通していることでもあるんですけど、聴いたら一発でわかる歌声を持っている人はやっぱすげえなって。くぅちゃんもこの歌声の説得力で「One Night Carnival」を一切コミカルにさせず、よりグラマラスに昇華させてくれた。また、フィナーレ直前にここで登場するのが、自分で何度聴いてもグッとくるんですよ。

──フィナーレはももいろクローバーZに委ねたんですね。

ラストは誰にするかもいっぱい考えたんですよ。ももクロは亜流に見えて正統派ができる珍しい人たちで。彼女たちの楽曲にしても振り付けにしてもキャラクターにしても、もともと正統派とは思えない印象があったんだけど、実際は基本を押さえた正統派なんです。正統派の教育を受けながら亜流を選んできた。本人たちは至って真面目なんだけど、はたから見たらトリッキーに見える。飛び道具で勝負しているようでいて足腰はめちゃくちゃ強い。おこがましいけれど、そこは僕らとの共通点だと思うんです。そんな彼女たちに「One Night Carnival」という曲はぴったりだなと思っていて。なんというか、感動的でした。今回の中では一番真っ当に、まっすぐに「One Night Carnival」を打ち返してきてくれたのがももクロかもしれないですね。

──全11曲、改めて「One Night Carnival」という楽曲が持つパワーや求心力について考えてしまうアルバムですね。

皆さんのおかげで箔が付いた、というとあれですけど、この「One Night Carnival」にまた違う評価が生まれるのかなと思うとワクワクするんですよ。本来この2022年にまで残る曲だったのか、本人としてもわからないところなんですけど、これからどういうふうにみんなの耳に届くのかを考えるとすごく楽しみだし……もしうまくいけば、これを毎年リリースしてやっていけたらね(笑)。何より、皆さん本当にお忙しい中で参加していただいて、全力で取り組んでくださったことに感謝しかないです。本当に愛しか感じない。ありがとう。この作品はいつも仲間に憧れていた、独りぼっちだった俺たちが初めて作れた“連合”というか。この無敵の連合感を作品として手元に残せたことが、本当にうれしいんです。家宝にします。そして、これを国宝にできるようにがんばります(笑)。

綾小路 翔(Vo)

プロフィール

氣志團(キシダン)

1997年に千葉県木更津で結成。メンバーは綾小路 翔(Vo)、早乙女 光(Dance & Scream)、西園寺 瞳(G)、星グランマニエ(G)、白鳥松竹梅(B)、白鳥雪之丞(Dr / 2014年3月より活動休止中)の6名。“ヤンクロック”をキーワードに、学ランにリーゼントというスタイルでのパフォーマンスが話題を集め、2001年12月にVHSビデオで“メイジャーデビュー”を果たす。「One Night Carnival」「スウィンギン・ニッポン」などヒット曲を連発し、2004年には東京・東京ドームでのワンマンライブも開催。2012年からは地元千葉県にて大規模な野外イベント「氣志團万博」を主催し、ほかのフェスとは一線を画するラインナップで多くの音楽ファンの支持を集めている。2022年3月、代表曲「One Night Carnival」のカバーのみで構成されたトリビュートアルバム「All Night Carnival」リリース。

衣装協力
ジャケット:roarguns
シャツ&パンツ:GalaabenD
シューズ:NO ID.
アクセサリー:PUERTA DEL SOL