KIRINJI|堀込高樹と千ヶ崎学が語るサウンドの正しい答え

KIRINJIが14枚目のオリジナルアルバム「cherish」を11月20日にリリースした。

生演奏とプログラミングを巧みに融合させた前作「愛をあるだけ、すべて」をさらに進化させたという今作。ゲストボーカル&ラップにYonYonを迎えた「killer tune kills me」、鎮座DOPENESSをフィーチャーした「Almond Eyes」など、バンドのリーダーでありプロデューサーでもある堀込高樹(Vo, G)の攻めの姿勢がダイレクトに反映された9曲が収録されている。

音楽ナタリーではメンバーの堀込と千ヶ崎学(B)にインタビューを行い、前作の雰囲気を引き継ぎつつ作っていこうと考えたと言う制作意図や、千ヶ崎のスタンス、バンドとしての在り方について話を聞いた。

取材・文 / 油納将志 撮影 / 相澤心也

鮮度のいいまま届けたい

──メジャーデビュー20周年を飾った13thアルバム「愛をあるだけ、すべて」のリリースが2018年の6月でしたので、わりと早く新作が届けられたな、というのが正直な印象なのですが。

左から堀込高樹(Vo, G)、千ヶ崎学(B)。

堀込高樹(Vo, G) あんまり期間が空いてしまうと、作った曲がタイミングというか、そのときの社会の空気感とズレてきてしまうので、作ったらなるべく鮮度のいいまま届けたいと思いました。あと、前作の雰囲気を引き継ぎつつ作っていこうと考えていたので、2020年のリリースになってしまうと世の中のモードや自分の気分も変わってしまいそうだから、今のこの気分のまま早く作ろうと。自分が作る曲と今の世の中の感じを結び付けるときに、エレクトロニクスを導入したスタイルというのは1つの有効な手立てであり、この感じだったら現行の音楽にコミットできる気がして。

──「愛をあるだけ、すべて」でエレクトロニクスと生の演奏を違和感なく自然にフィットさせて、KIRINJIとして新たな一面を打ち出しましたが、そのスタイルを確立させ、定着させたかった?

堀込 やればやるほど、もう少しうまくできるんじゃないかなという気持ちになります。前作で手応えもありましたし、さらに挑戦して別のこともできるかもしれない。

千ヶ崎学(B) レコーディングがスタートした時点で、高樹さんが今の方向性で押し進めたいんだなという意思は感じられましたね。

──「愛をあるだけ、すべて」の制作時、高樹さんはメンバーが演奏するシーンが以前よりも少ないかもしれないと各メンバーに伝えていましたが、やはり今回もそうだったんでしょうか。

堀込 例えば、千ヶ崎くんがメンバーにいるから、千ヶ崎くんのパートを1曲の中に必ず作らないといけないというふうに囚われてしまうと、それはもう音楽的な必要ではなくて人事的なことになってしまう。人事で音楽を作るのはよくないなと、あるときに思ったんです。そこは楽曲が何を求めているのかを最優先しました。心を鬼にして、サウンドの正しい答えを求めていったんです。

ある意味、KIRINJIに慣れてきた

──楽曲を最優先することで、アレンジの自由度は高まったんじゃないですか?

千ヶ崎学(B)

堀込 サウンドアプローチの面ではそうですね。「愛をあるだけ、すべて」を制作する前は、今のダンスミュージックのフィーリングをどう取り込んでいいかがわからないというところからスタートして、試行錯誤しながら着地した。もしかしたら「ネオ」(2016年8月発売12thアルバム)のときから潜在的にあったのかもしれないですが、「愛をあるだけ、すべて」で制作スタイルの潮目が変わった気がします。コトリンゴ(Key / 2017年に脱退)と一緒に歌った「恋の気配」もそうしたきっかけとなった1曲かもしれない。

千ヶ崎 さっきの高樹さんの人事的な話じゃないですけど、メンバーもある意味、KIRINJIに慣れてきたというか、なじんできて、音楽性や楽曲ありきで参加するというスタイルが前作あたりから身に付いてきた気がします。同級生で組んだバンドとかではないので、お互いの要求や欲求をどこにどう置けばうまく噛み合ってバンドっぽくなるんだろうというようなパズルを繰り返している。それぞれの要求や欲求が違うということを前提に始まったバンドですが、個人的にはKIRINJIの本体というのは高樹さんの音楽的興味、好奇心が核であり、推進力になっていると思っています。「愛をあるだけ、すべて」は、その意識を再確認したメンバーが、より完成度を高めていった作品だと捉えています。だから、シンセベースの曲があってもいいし、必ずしもすべての楽曲に同じパーツが入っている必要はない。今はみんな納得したうえで、何をすべきかを考えて曲に向き合っていると思います。

──例えばご自身が参加していない曲に対して、千ヶ崎さんが意見や感想を述べたりすることはあるんですか?

千ヶ崎 リズム録りには立ち会っていましたので、自分のパートがないからといって、参加していないという意識はないです。そこがバンドなんだと思います。先ほど話した要求や欲求がそれぞれにあるということでは、僕個人としては楽しくベースが弾けさえすればそれでいいというスタンス(笑)。ベースを弾かない日もスタジオにいて「この音色はもっとこうしたら?」と意見を言ったりすることはありました。ミックスに関しても僕はけっこう言いたいことを言っちゃうので、高樹さんと意見を交わすことが多いですね。「ここの低音はもっといっちゃっていいんじゃないすか?」とか。でも、最終的なジャッジは高樹さんがするので、僕はのんきに言いたいことを言わせてもらってますが(笑)。KIRINJIでは自分はそういう役目もあるのかなと思っています。

堀込高樹(Vo, G)

──KIRINJIのバンドとしての在り方は、みんなで合奏するバンドという一般的なスタイルとは異なっていましたし、徐々に変化していって今のいいスタンスに着地した気がします。

堀込 そうですね。もしかしたら「ドラムをもう少し生っぽくしたかったな」とか、各人の希望があったかもしれませんが、結果としていいものに仕上がったので正解だったと思います。

──「愛をあるだけ、すべて」での変化をファンも受け入れてくれましたし、高樹さんにとっても自信を得た1枚になったんじゃないでしょうか。

堀込 「DODECAGON」(2006年10月発売6thアルバム)でも大きな変化があったわけですが、そこでの変化を受け入れてくれた方はきっと聴き続けてくれているんじゃないかなという気がします。一方でそれまでKIRINJIを知らなかった人も「あ、これがKIRINJIなんだ」と認識して聴くようになってくれたような手応えを「愛をあるだけ、すべて」以降、感じられるようになった。自信にもなりましたし、この方向で正しいのかなと自分の中で思えるようになりましたね。