ナタリー PowerPush - キリンジ
2012年の日常と音楽
「60'sサウンド」はレプリカになっちゃうと面白くない
──サウンドについてはどうでしょうか。どちらの楽曲も、今までのキリンジにありそうでなかった、1960年代後半のソフトロック的なニュアンスを感じたのですが、それは意識しましたか?
高樹 60年代の音楽は最近よく聴いてますね。過剰にリバーブがかかってるような。70年代に入るとマルチトラックレコーディングと言って、24~48チャンネルで、ステレオでいい感じに配置された、いわゆるハイファイなほうに向かうんですけど、60年代の音楽は4トラとか8トラで作ってるから、「ピンポン録音」で別トラックの音を1つにまとめていくんですよ。だから歌とベースが一緒に入ってるとか、ストリングスのリバーブ音だけ別トラックにあるとか、そういうやむなくそうなっちゃったみたいなのが結構あって。改めて90年代の「音響派」と呼ばれた音楽とか、エレクトロニカみたいなのをボンヤリ聴いて、もう一回60年代の音楽聴くと、これもまた面白いなって思うことが多くて。それで最近はそういうものを聴いてる気がしますね。
泰行 うん。僕の曲に関しては、単純にスタジオに入ったとき、全然どういうアレンジになるか決めてなくて。ただ、さっきも少し話しましたけど、曲調があまりにも「祈れ呪うな」と違うので、何かストレンジなことをしたほうがいいだろうっていう判断ですね。結果的にある時期のTHE BEACH BOYSみたいな雰囲気になったんですけど、それは狙ったわけではなくて。
──キリンジとしてはちょっと珍しいテイストですよね。
泰行 デビューした当時から好きなサウンドではあるんですけどね。ただやってなかっただけっていうか、もう少し70年代的に整理された音のほうが多かった。
高樹 60年代っぽいことやろうとして、デフォルメされた感じになっちゃうのは嫌なんですよ。「ビートルズ風サウンド」みたいなものもいっぱいあるけど、なんか面白くないなって。でも、スタジオワークがなんとなくわかってくると、そういうニオイも漂わせつつ、いかにもな感じにはならない落としどころがいろいろわかってきて。
──典型的な「60'sサウンド」ではない独特な感じになっているのは確かですね。
高樹 かもしんないね。レプリカみたいな感じになっちゃうと面白くないなとはいつも思ってます。
ドラムって全曲入んなきゃいけないのかな
──昨年から数えると配信シングルとして合計3曲がリリースされて、やっぱりファンとしては「そろそろアルバムかな?」と気になる頃合いですが、いかがでしょうか? オリジナルアルバムは「BUOYANCY」(2010年9月リリース)が最新なので……。
泰行 2年ぐらい?
高樹 そんなに空いてるんだ。去年セルフカバー+提供曲集(「~Connoisseur Series~KIRINJI『SONGBOOK』」)を出したから、そんなに間が空いた感じがしてないんですけどね。今年中には新作を発表したいですね。
──どういうアルバムになりそうですか?
高樹 いわゆるシティポップスみたいなところからはもうだいぶ離れてしまうと思いますね。「BUOYANCY」からそういう感じではあったと思うんですけど。
泰行 カバーアルバムが結構オーソドックスな作りだったんで、ああいうのもいいかなって思ったりもしたんですけど、いざ作業入ってみると、なんかチャレンジしてたほうがいいだろうっていう感じにはなってるね。
──2人の間で具体的な話合いは?
高樹 ボンヤリ。本当にボンヤリしてる。「ドラムって全曲入んなきゃいけないのかな」みたいな。ドラムって別にいらないよね、とか思うときもある(笑)。
──どういうことでしょう?
高樹 常にドラムが入ってると、そういう曲にしかならないというか。ドラムやベースを抜いてみたり、そういった曲のベーシックになってるところがポンッとなくなると、それだけで歌がよく聴こえたり、曲が新鮮に聴こえるんですよ。
──いわゆるアコースティックアレンジではなく、当たり前にドラムがいてベースがいてギターがいて……という根本のところから変えるという。
高樹 ええ。全編そうだというわけではないけど。バンド / コンボ形式がベースになって音楽を作ってるけど、そういうところから自由になって考えてもいいんじゃないかなとか。必ずハットがビートを刻む必要はないわけじゃない?
キリンジ(きりんじ)
1996年10月に堀込泰行(Vo, G)、堀込高樹(G, Vo)の兄弟2人で結成。1997年5月にインディーズデビュー盤「キリンジ」、同年11月にマキシシングル「冬のオルカ」がリリースされると、複雑ながらポップなサウンドと独自の詞世界で大きな注目を集めた。1998年にはシングル「双子座グラフィティ」でメジャーデビュー。2005年には弟の泰行が「馬の骨」としてソロデビューを果たし、同年11月には兄の高樹もソロアルバム「Home Ground」を発表した。それぞれ他のアーティストへの楽曲提供も多く手がけており、作詞家・作曲家としても支持を集める。2011年7月には震災を受けて、配信限定チャリティシングル「あたらしい友だち」をリリース。10月には、過去の提供曲とセルフカバー音源を収めた2枚組企画アルバム「~Connoisseur Series~KIRINJI『SONGBOOK』」を発表。2012年5月30日には「祈れ呪うな」、6月27日には「涙にあきたら」と、2カ月連続で配信シングルをリリースする。