「こういう曲もやれてきのこ帝国ってけっこういいでしょ？」

──今作はどういう流れで作っていったんですか？

今回は「東京」が先にできていたので、それを軸にして作っていきました。ほかの曲は補填したりするために作ったりだとか、昔作ったものから持ってきたりとか。シングル候補曲の寄せ集めみたいなアルバムをイメージして作ったんですけど、結果的には通して聴いてもいい作品になったかなと思います。

──確かにいろんな雰囲気の曲が入っててシングルコレクションを聴いてるような気分になりました。新しいきのこ帝国がすごく見えた感じがするんですけど、新しい側面を見せたいという意識はあったんですか？

うーん、「東京」に関して言えば今までの流れの中を踏まえた正統進化だと思っていて。で、「クロノスタシス」は突然変異的な曲。ソウル的な要素とかを取り入れてるんですけど、「こういう曲もやれてきのこ帝国ってけっこういいでしょ？」みたいなのをただ聴かせたいだけっていう感じです。

──なるほど。タイトルトラックの「フェイクワールドワンダーランド」のフォーキーな感じも新鮮ですよね。

あの曲は2年前くらいにかけらとしてあって、もともとはバンドアレンジだったんですけど、アルバムをトータルで聴いたときに1曲くらい“抜き”の曲があってもいいかなと思って。歌詞がスッと入ってくるといいなと思う曲だったので、余計なものをそぎ落としてアコースティックギターのストローク、リズムの楽器、ハーモニカというシンプルな作りにしました。

──正直ここまでポップス要素が強い曲をきのこ帝国が出してくるとは思いませんでした。

ポップスが悪だみたいなふうに思ってたときもあったし、昔はエモーショナルなものが音楽としては崇高で尊いものだって思っていたので。そこからの考え方の変化はいろいろありましたね。

その先でいい音が鳴らせるのであれば結果オーライ

──今回は楽曲の幅が広がってますけど、こういうポップス要素は佐藤さんの中にもともとあったものなんですか？

ルーツにはあります。「ロンググッドバイ」までの作品を出したことで、きのこ帝国っていうバンドがどういうものなのかっていうのをある程度提示できて、やっといろんな音楽を届けることができるようになったという感じですね。

──なるほど。今回の作品は「東京」を軸に作ったからか、以前の作品より歌というものにフィーチャーした曲が多い気がします。

そうですね。「東京」の1曲は大きかったかなと思います。やっぱり歌が強い曲だったので、なんかそこに対してサウンド面で攻めて曲を作っていってもたぶん「東京」より色褪せちゃう曲のほうが多いと思って。だから歌として強いものを入れざるを得なかったっていうのもあると思います。

──歌が強くなればなるほど、アレンジも歌に引っ張られるみたいなことってありましたか？

今回はメロディと詞に重点を置いたぶんいい曲ができた自信があったので、アレンジはわりとメンバーに任せてます。みんなけっこう自由に楽しくにアレンジしていたので、その開放的な感じがけっこう音にも出てるかなと思います。

──今回を開放的というならば、今までは閉鎖的だったということですか？

なんか「渦になる」「eureka」を出したあたりで「きのこ帝国はこういうもの」みたいなイメージがもう自分にもメンバーにもちょっとできあがりつつあって。そのあと気負わず作った「ロンググッドバイ」を出したときに、自分たちのいいと思うポイントにけっこうはまったなと感じたんですよね。リスナーからの評判を受けて、自分たちがしばられていた制約みたいなものって聴く人にとってはそんなに重大なことではなくて、もし制約を破ったとしてもその先でいい音が鳴らせるのであれば、それは結果オーライなのかなっていうふうに考え方がちょっと変わってきて。

──「ロンググッドバイ」を出したあとの手応えみたいなものは今回の作品に影響を与えていますか？

うーん、多少あると思いますね。去年とか今年は音楽的な面でいろんな刺激を受けることが多くて、自分の凝り固まってたところがほぐれていったなと感じています。