音楽ナタリー PowerPush - 筋肉少女帯
4人で振り返る“新しいデビューアルバム”
ゴダールの映画みたいに、リスナーの判断に委ねようって
大槻 うん。まあ、それを言うとレコーディングは俺の仕事じゃないと思ってるね。
橘高・本城・内田 ハハハハハ!(笑)
大槻 スタジオワークはみんなお任せだったんですよ。「愛の讃歌」も、どういうふうにアレンジされるのかオケができるまで知らなかったし。この曲、「新春シャンソンショウ」ってイベントで歌ったことがあるんですよ。そのときに「いい曲だな。筋少でやったらおかしいだろうな」と思って。上がってきたデモを聴いたときは、正直、ちょっと「いや……こういうんじゃないんだよな」って思ってしまったんだけど(笑)。
橘高 (笑)。演奏陣としては、このバンドでしかできないこと、このバンドゆえのアレンジをやろうと思うわけですよ。「愛の讃歌」をシャンソンでやることもできただろうけど、それこそ「おまえの仕事はそれじゃない」って話でしょ?
本城 結局、そこなんだよね。
大槻 でもね、「月に一度」(の前編・後編)の間に挟むことで、頭のなかでストーリーができたんです。その主人公はね、池袋の手刀とか高円寺のShowBoatみたいなライブハウスに自分でカラオケを持っていって、ゴージャスなアレンジで「愛の讃歌」を歌ってるような人なんです。お客さんはマックスで15人くらい。でも、「俺はここでしか生きられないんだ」って、歌ってるんですよ。それを頭の中で想像したときに「その感じを出すなら、このアレンジでバッチリだ」って思って。
──そこでアレンジとコンセプトが合致した、と。
大槻 歌詞とオケを合わせることで、整合性を保ったり、コンセプチュアルにできますからね。
橘高 それも大槻の仕事だね。
大槻 今回の歌詞でいうと、「ニルヴァナ」と「恋の蜜蜂飛行」の詞は結局、整わなかったんだけどね。整合性が作れなくて、これどうしようかな?って思ったんだけど。ほら、フランスのヌーベルバーグの映画とか、ゴダールとか、あとはダリオ・アルジェントやルチオ・フルチのホラー映画もそうだけど、まったく整ってないじゃないですか。カットもつながってなくて、最後は狐につままれたような気持ちになるんだけど、映像は美しいし、映画自体も面白いっていう。「よし、それでいこう」と思ったとき、自分の中では整ったんですけどね。それこそ、あとはリスナーの判断に委ねようっていう。
橘高 意外に思われるかもしれないけど、筋少って曲先なんですよ。だから、音のイメージが歌詞に繋がってるんですよね。「恋の蜜蜂飛行」も、ギターの速いパッセージが蜜蜂の飛行を連想させたり。そういうケミストリーも、このバンドの魅力だと思うし、そこは信頼してるので。
ルーツバンドがないから、なんでもやれる
──内田さんの作曲による「ムツオさん」の場合はどうだったんですか? こういうちょっとダンサブルなサウンドもかなり新機軸だと思うんですが。
大槻 デモを聴いたときは「ソウルと呼ばれてた頃のディスコみたいだな」と思ったんですよね。
内田 やったことがないことにチャレンジしようっていう。
大槻 しかも、最初の時点で「ムツオさん」のイメージが沸いてたんです。
──この猟奇的なキャラクターを思い付いた、と。
内田 大槻から「ムツオさんが踊る歌にしようと思ってる」っていう話を聞いて、そのあとでニューウェイブ寄りの要素も入れて。結局、ゴチャゴチャになってますけどね(笑)。
大槻 そうそう、Talking Headsあたりの。この曲のおいちゃんのギターは素晴らしいね! あれは今回のアルバムの聴きどころです。
本城 (笑)。
橘高 「おいちゃんにギターソロを弾いてもらいたいけど、断られるかもな」って内田と話してたんだけど、言ってみたら「いいよ」って。
──結果として、今までの筋少にはないテイストの曲になりましたね。
内田 まあ、なんでもできると思うんですよ、このバンドは。これからもどんどんいろんなジャンルに挑戦したいですね。
大槻 筋少はルーツバンドがないからね。「ストーンズみたいなことをやりたい」とか「ビートルズみたいに……」ということではないから、なんでもやれるんですよ。音頭までやってますからね、過去においては。
我々がやると「労働讃歌」の意味合いが変わる
──そして今回のアルバムには、大槻さんが作詞したももいろクローバーZの「労働讃歌」のカバーも収録されています。
大槻 これはね、「原曲のイメージを崩さないでほしい。尺もそんなに伸ばさないで」ってお願いしました。ももクロちゃんのライブは何度も観てるんだけど、国立競技場のときも「労働讃歌」をやっていて。僕が作詞した曲で、大勢の人が天突き体操をしながら盛り上がっているのを見て、心から感動したんですよ。そのときに「この歌詞を自分でも歌ってみたいな」という気持ちになって。特撮とももクロはディレクターが一緒なんですけど、電話して「筋少で(『労働讃歌』を)やらせていただけますか?」って言ったら、笑いながら「きっと大丈夫っすよー」って(笑)。そのときに「特撮でやったらどうですか?」とも言われたんですけど、これは絶対、筋少のほうがいいんですよ。だって、メンバーがマイクを持ってラップを歌いまわしたりするのは筋少独特だから。
橘高 2年後くらいだったら、やるかもよ。俺も昔だったら嫌がってたと思うもん(笑)。
本城 ラップを全員で振り分けてますからね。ドキドキしました(笑)。
内田 そうだね。
橘高 このインタビューのあともラップの練習です。
本城 (笑)。アレンジはそんなに変えてないんですけどね。ただ、せっかく筋少でやるんだから、オープニングだけはカマしてやろうと思ってたんですけど。
橘高 サビで「オイ! オイ!」っていう掛け声が入ってるんだけど、それも大槻から「ぜひ入れてほしい」って言われたんだよね。
大槻 ももクロちゃんたちはもちろん、モノノフの方たちにも喜んでほしいですからね。そこはもう、最善の努力をしました。アレンジもいいんですよ。オケを聴いたときに「これ、いいね!」って言いましたから。今回のアルバムで一番好きかな。
橘高 珍しいよね、そういうリアクション。
大槻 あとね、我々がやると歌詞の意味合いが変わるのもおもしろかった。ももクロちゃんがこの曲を歌うとすごくポジティブなんですよ。「一生懸命やっていれば、労働の喜びがわかるかもしれない!」っていう。でも、筋少がやると「労働の喜びなるものは、そもそも存在しないのかもしれない」というふうにも聴こえるんです。
──確かに。筋少バージョンの「労働讃歌」をライブで聴けるのも楽しみです。
大槻 天突き体操はしないですよ! 僕らのヒザでは、アレは(笑)。
本城 爆弾を抱えてるからね(笑)。
橘高 スクワットやってるようなもんでしょ、あれは。
大槻 すごいんだよ、ももクロちゃんは。日産スタジアムだったかのライブでさ、そもそもライブが4時間くらいあるのに、百田夏菜子ちゃんが武井壮さんと100m走やったんだよ。
橘高 ライブ中に?
大槻 そう! すごくない? だからね、我々もがんばりますよ(笑)。
次のページ » 「これが最後のCD盤になるかもしれない」って思いながら作った
- ニューアルバム「THE SHOW MUST GO ON」2014年10月8日発売 / 徳間ジャパンコミュニケーションズ
- 「THE SHOW MUST GO ON」
- 初回限定盤 [CD+DVD] 3996円 / TKCA-74148 / Amazon.co.jp
- 通常盤 [CD] 3086円 / TKCA-74152 / Amazon.co.jp
CD収録曲
- オーディエンス・イズ・ゴッド
- 労働讃歌
- ゾロ目
- 霊媒少女キャリー
- ムツオさん
- みんなの歌
- 月に一度の天使(前編)
- 愛の讃歌
- 月に一度の天使(後編)
- 恋の蜜蜂飛行
- 吉原炎上
- 気もそぞろ
- ニルヴァナ
初回限定盤 DVD収録内容
- ゾロ目(MUSIC VIDEO)
- LIVE映像7曲(全曲初映像化!)
2014.4.12 筋少2枚組ダブルジャケット 1枚目
「レア過ぎ盤、、、鉄道少年の飼い犬はペテンその他」at TSUTAYA O-EASTより- ペテン
- 鉄道少年の憩
- 飼い犬が手を噛むので
- ベティー・ブルーって呼んでよね
- モコモコボンボン(Vo.内田 Ba.大槻 Ver.)
- リテイク
- ヘドバン発電所
筋肉少女帯(キンニクショウジョタイ)
1982年に中学の同級生だった大槻ケンヂ(Vo)と内田雄一郎(B)によって結成。インディーズでの活動を経て、1988年にアルバム「仏陀L」にてメジャーデビューを果たす。1989年に橘高文彦(G)と本城聡章(G)が加入し、「日本印度化計画」「これでいいのだ」「踊るダメ人間」などの名曲を発表。特に「元祖高木ブー伝説」はチャートトップ10入りを記録し、大きな話題に。大槻による不条理&幻想的な詩世界とテクニカルなメタルサウンドが好評を博すものの、1998年7月のライブをもって活動を凍結。各メンバーのソロ活動を経て、2006年末に大槻・内田・橘高・本城の4人で活動再開を果たす。2007年9月には約10年ぶりのオリジナルアルバム「新人」をリリース。日本武道館公演や「FUJI ROCK FESTIVAL」「ROCK IN JAPAN FESTIVAL」といった大型イベントへの出演など、精力的なライブ活動を展開する。2013年にはメジャーデビュー25周年を記念して、新録音によるセルフカバーベストアルバム「公式セルフカバーベスト 4半世紀」を発表。2014年には4年4カ月ぶりのオリジナルアルバム「THE SHOW MUST GO ON」をリリースする。