西中島きなこ、バンドTHEハオルチアオブツーサ特集|宅録アーティストが試行錯誤を繰り返しながら創作の海を行く (2/2)

自分を鼓舞するようなアクションがバンド結成だった

──2022年7月には、西中島さん主体の新プロジェクト・ハオルチアオブツーサが始動しました(参照:西中島きなこが新プロジェクト・ハオルチアオブツーサ結成)。メンバーには画家のrisaさんがいたり、ういーどアイランドとして活動をともにする山本笑さんがいたり、これまで西中島さんが行ってきたユニットでの活動とは大きく違うものですよね。

ソロ活動とは別に、継続して安定的な活動ができるプロジェクトチームを以前から作りたいとは考えていました。それには信頼のできるメンバーの存在とタイミングが必要で。実力があるにもかかわらず埋もれている才能の持ち主が、世の中にはたくさんいる。逆に言うと、そんなにすごくないのに過大評価されてうまくやってる人が多くいるなとも感じています。ハオルチアオブツーサに関しては、技術や才能があって、なおかつ人間として思いやりを感じられるハートウォーミングな仲間だけに声をかけてみました。他人を押しのけてまで目立とうとしない人、日陰でひっそりとがんばっているような人が多く集まる居心地のいい創作の広場としてのプロジェクトを目指して。

──新たなプロジェクトを作るのには、絶好のタイミングだったんですね。

まったく経験値がなかったり、結果を残せていない状態だと、人を集めるのは難しいですが、いろんな人とのコラボ活動や、イベントの開催で新しい人脈が増えてきたタイミングだったので。インターネットの普及によって、名前を検索すれば簡単に僕のことを知ってもらえるようになったのは、話が早く進みやすくて便利ですね。また、いろんなコラボをやってきた中で「短い期間で終わっちゃうプロジェクトだけだとなんだかさびしいな」と思っていた時期でもありました。モチベーションとして、精神的に支えになるものが欲しかったんだと思います。

──2023年の頭には、バンド形態のバンドTHEハオルチアオブツーサを結成しました。ハオルチアオブツーサとバンドTHEハオルチアオブツーサの根本的な違いは?

ハオルチアオブツーサは創作がメイン、バンドTHEハオルチアオブツーサはライブの表現をメインにエネルギーを注ぎ込んでいるイメージです。

バンドTHEハオルチアオブツーサ

バンドTHEハオルチアオブツーサ

──西中島さんはこれまで「バンドはやらないと思う」とインタビューで何度も話されていました。なぜバンドをやろうと決意したのですか?

2022年に、自分の中でしんどいことが重なって「このままではダメだ」と感じ、自分を鼓舞するようなアクションを起こそうと思って。それが、バンドをやることでした。人生は、あきらめなければいろんな未来がある。尊敬しているアスリートの鈴木亜由子さんや小平奈緒さんのような生き方からも、僕は勇気をもらいました。去年、今のメンバーと出会ったことも大きいですね。出会っていなければ、バンドはやらなかったと思うので。でも、正直バンドはめちゃくちゃ大変です。演奏がうまい人を集めただけではうまくいかないし、仲のいい人だけでやってもいいバンドになるわけじゃない。そのあたりを自分なりに吟味したうえで初期メンバーを集めましたが、やはりバンドはそんなに簡単ではありませんでした。大変だけど、このメンバーに出会ってしまったからには、再びバンドとしてライブにエネルギーを注ぐ挑戦をしてみたくなりましたね。

──バンドメンバーについても詳しく教えてください。

バンドTHEハオルチアオブツーサの今のメンバーは、きなこ(Percussion)、ゆき(B)、にし(G)の3人です。ゆきはバンドのリーダーなのですが、彼女との出会いがなければバンドはできなかったかもしれません。たまたま去年の11月に足を運んだライブでウッドベースを弾いてる姿を見かけて、その佇まいや演奏に魅力を感じ、声をかけて。彼女は精神的な部分で大人ですし、演奏面でも人間としても信頼できる存在です。にしは、彼がライブをしていた場所に僕が足を運んだのが出会いのきっかけですね。ほんの数分しかいなかったのに、たまたま目の前に現れたのがにしでした。どこか距離感のあるオーラを漂わせていたのが、僕的にはすごくよくて。

──どのようにして関係性を築いていったのですか?

僕のほうから徐々に関わり始めました。それである日、「ちょっとレコーディングをしませんか?」という話になり、にしとスタジオに入ったのですが、かなり元気がない感じで、何度か溜め息も吐いていて。ほとんどの人は“社交的な自分”を作ろうとすると思うし、なかなかこういう態度をする人はいないので「不思議な人だな」と思いました。それで会話をしていたら「自分にあまり自信がない」「基本的にはネガティブ」といった話が彼の口から出てきて。その言葉を聞いて、「この人は嘘っぽくなくていいな」と思いました。でもバンドはギターレスでいこうと思っていたので、最初はにしをメンバーにする予定はなかったんです。

──では、なぜにしさんをメンバーに迎えることに?

結成当初にいたメンバーが急に音信不通になって、「どうしようかなあ」と思っていた頃に思い浮かんだのが、彼のキャラクターでした。前へ前へ出ようとはしないけれど、謎めいた存在感があるところがいいなと。にしの演奏面や、キャラクターの面での伸びしろに注目しています。彼には今後、このバンドにおいてアイコン的なポジションになってほしいです。バンドTHEハオルチアオブツーサといえば「西中島きなこ」ではなく「にし」という印象を皆さんに与えられる可能性を秘めている人だと思っています。

──今後はこの3人で活動していくんですか?

当初は正式メンバーだけでしか活動しないスタイルでしたが、そういう堅苦しい考え方は面白くないのでやめました。ゲストとしてボーカリストやプレイヤーを招いて、いろんなアウトプットをしていこうと思っています。ただ、メインとなるボーカリストは結成当初のメンバーであるおはなが担当します。彼女はこのバンド以外にもやることが多いので、いろいろと考えた結果、ゲストボーカリストという立ち位置になりました。でも、彼女には参加できる限り、このバンドの演奏に歌声を乗せてほしいと考えています。彼女の歌声が重なると、楽曲がとてもわかりやすくなるんです。

西中島きなこ

西中島きなこ

マインドの部分で、自分がバイブスを高められるか

──西中島さんにとって、バンドで音を奏でることの醍醐味とは?

どれだけバイブスを高められるかが、僕にとっては重要です。僕自身ひさしぶりのバンドですし、最初はどこかメンバーに遠慮していて。バンドTHEハオルチアオブツーサという新しいバンドのイメージを無理に作ろうとしていたのか、違和感があったような気がします。でもゆきとにしと3人でスタジオに入ったときに、バイブスが高まるスピリットのようなものを感じたんです。みんなBLANKEY JET CITYが好きという共通点も作用したのか、音で会話しつつ、その空間を本能で楽しめている実感がありました。それだけでバンドは正解というか、成功だと思うんです。あとは練習を重ねて音をブラッシュアップしていくだけなので。マインドの部分で、自分がバイブスを高められるか。バンドにおいてはそこを重要視しています。

──ソロとしては3月に、エンジニアやDJとして活動するDaichi Yuharaさんがトラックを制作した「テクノでダンス」を発表しました。

Daichi Yuharaさんとは、かなり長い付き合いになります。エンジニアとしてミキシングを任せるところから始まり、DJとしてイベント出演してもらったこともある。Yuharaさんのトラックに日本語ラップを乗せたくなり、今回のコラボの形に決まりました。Yuharaさんは聴いている音のセンスがいいので、オススメを教えてもらうこともよくあって。最近は、音楽とは関係のないみうらじゅんさんの講義や、ストレッチ運動の動画も教えてもらったのですが、かなり勉強になりました。

──どのような点が勉強になりましたか?

みうらじゅんさんはもともと大好きな人なので、最初から最後まで食い入るように動画を観てしまいました。いい意味で変態で、脱力感のあるみうらさんのような大人に僕は憧れています。講義の中でおっしゃっていた、人と比較しない生き方にもかなり共感しました。ストレッチ運動に関しては、股関節の柔軟動画をYuharaさんからオススメされました。以前ヨガ教室に参加したときにも感じたのですが、股関節のストレッチは体にとってかなり重要なんだと気付かされました。

西中島きなこ

西中島きなこ

──今の西中島さんの中にはバンドとソロ活動、2つの軸があると思います。今後の活動はどのような形になっていきそうですか?

とりあえず、バンドTHEハオルチアオブツーサの個性をブラッシュアップさせて、自分たちにしか出せないオリジナリティとクオリティを、より高めていけたらと思っています。ソロでは新たな人との出会いによって、また新しい創作意欲が湧き出てくるような気がします。バンドでもヒップホップをやるかもしれないし、もしかしたら僕がドラムを叩いたりするかもしれない。これからどうなっていくのか自分でも未知な部分がたくさんあります。でも、何よりも大事なのは健康なので、そこを一番に気にしながら生きていこうと思っています。

プロフィール

西中島きなこ(ニシナカジマキナコ)

ソロプロジェクト・音に敏感として2014年から宅録を中心とした創作活動を開始。2016年からは西中島きなこ名義で活動を行う。2017年12月に吉田靖直(トリプルファイヤー)とのタッグによる1stフルアルバム「西中島きなこ+吉田靖直」と配信限定アルバム「コミックパッション」をリリース。2018年には敬愛する曽我部恵一(サニーデイ・サービス)らを招いた自主企画ライブを開催した。2019年4月に初のベストアルバム「西中島きなこベスト」を、8月にはデモ音源集「若き日の抜け殻」と、バンド時代の音源を集めたアルバム「青春の勢いで産んだ音」を配信リリース。同年9月には2作目のベストアルバム「西中島きなこベスト2」を発表した。2020年7月にヒップホップユニット・西中島きなこandういーどアイランドを結成。2022年7月にはアーティストのみならずイラストレーターなど多岐にわたる表現者が集うプロジェクト・西中島きなこandハオルチアオブツーサを始動させた。さらに2023年1月には新バンド・バンドTHEハオルチアオブツーサを結成し、3月から3週連続でバンドの新曲を配信リリースしている。