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西中島きなこが8月から新曲や既発曲のリマスタリングバージョンをSpotifyとApple Musicほかで毎週配信する企画を実施中。音楽ナタリーではこの企画を盛り上げるべく、大阪在住の西中島にメールインタビューを行った。

2017年12月に吉田靖直(トリプルファイヤー)をゲストボーカルに迎えて2枚のアルバムをリリースした西中島。音楽ナタリー初登場となった同作のインタビューでは「作品はしばらくリリースしない」と語っていたが、彼は2018年に入ってからというもの、数々の作品を世に送り出している。今回のメールインタビューでは、そんな精力的な活動に至った経緯や、サブスクリプションサービスで毎週リリースされている楽曲の制作秘話について話を聞いた。なお特集の後半には、曽我部恵一ら西中島と親交のある人物からのコメントを掲載する。

取材・文 / 石橋果奈

ほかのアーティストさんよりも楽曲を生み出すスピードは早いのかも

──西中島さんに音楽ナタリーでインタビューをさせていただくのは、吉田靖直さん(トリプルファイヤー)とのコラボ作品をリリースした去年12月以来です(参照:西中島きなこ「西中島きなこ+吉田靖直」インタビュー|「暗いからこそ楽しい音楽を作る」敬愛するトリプルファイヤー吉田と描くフルアルバム)。この約10カ月間、西中島さんは次々と新しい作品をリリースしたり、新たなプロジェクトを始めたりと忙しく活動されていたように思います。前回のインタビュー時には「作品はしばらくリリースしない」とおっしゃっていましたが、ここまでのアグレッシブな活動に至った経緯は?

西中島きなこ

2018年はCDをまったくリリースしないつもりでしたが、オカザえもんとの出会いで急きょCDを作ることになりました。別に作品をアウトプットするだけなら配信でもよかったんですが、今回は売上を寄付するプロジェクトだったのでフィジカルでのリリースを選択しました。毎日のように曲を作っていた時期も長かったですし、もともと僕は多作家だと思うんです。十代から二十代の前半に比べると最近は間違いなく創作へのモチベーションは落ちているのですが、それでもスイッチが入ってしまうとほかのアーティストさんよりも楽曲を生み出すスピードは早いのかもしれません。

──順を追って話を聞いていくと、まず今年1月には西中島きなこ+吉田靖直のほか、オオルタイチさん、ぱいなっぷるくらぶ、曽我部恵一さん、バレーボウイズ、オカザえもんを招いた自主企画ライブがありました(参照:西中島きなこ+吉田靖直、敬愛する曽我部恵一らと祝ったリリースパーティ)。中でも曽我部さんは西中島さんの敬愛する人物ですが、実際に競演してみてどのようなことを感じましたか?

1stアルバム「若者たち」の頃からリアルタイムでサニーデイ・サービスの音楽を聴き、さまざまな影響を与えてもらってきた曽我部さん。そんな憧れの人が、わざわざ僕のために大阪まで来てくださったことだけでも夢のようでした。ライブはアコギでの弾き語りスタイルで、サニーデイ初期の名曲もたくさん披露してくださいました。特に感動したのはソロデビュー曲「ギター」を口笛とアコギで演奏されたときです。感極まって鼻の奥がツーンとなったことを今でもハッキリと覚えています。

──曽我部さんとの競演が与えた西中島さんの活動への影響は?

今回シングルとして配信リリースすることになった「調和と恵み(Remastered)」(10月3日配信リリース)や「Heaven」(9月26日配信リリース)など、歌モノの価値を再認識させてもらいました。

困っている子供たちの現状を他人事とは思えない

──またイベント当日には、ライブにも参加した愛知県岡崎市の非公式キャラクター・オカザえもんとのコラボ作品「オカザえもん愛のテーマ」が発売されました。ここから西中島さんとオカザえもんとの親交は深まっていき、7月にはチャリティプロジェクト「オカザえもんフレンズ」としてセルフタイトルのCDをリリースしましたね(参照:西中島きなこ「オカザえもんフレンズ」CD、3776井出やバレーボウイズのネギも参加)。どんな思いからプロジェクトをスタートさせたのですか?

西中島きなことオカザえもん。

テレビで放送していた児童養護施設のドキュメント番組や、子供の貧困に関する深刻な問題を知ってから、僕は自分にできることを常に探してきました。僕自身けっこう大変な時期もあったので、困っている子供たちの現状を他人事とは思えないんです。でも、決して裕福ではない僕にできることは限られています。そこで、音楽家として自分にできることを考えました。作品の売上を寄付するチャリティプロジェクトという形なら自分にも何か役に立てることがあるかも知れないと思い、どうなるかは不安でしたが「オカザえもんフレンズ」という名義でプロジェクトを始動させました。

──西中島さんが感じるオカザえもんの魅力とは?

短い文字しか入力できないTwitterですが、そこには人柄を知るヒントがたくさんあると僕は思っています。毎日オカザえもんがTwitterでつぶやく言葉や、彼の行動力は多くの人たちを元気にしています。ゆるキャラって可愛いイメージですが、僕にとってオカザえもんは渋いアニキみたいな存在なんです。ジャズが好きだったり、さりげなく思いやりのあるツイートを発信していたり。

──「オカザえもんフレンズ」には井出ちよのさん(3776)やネギさん(バレーボウイズ)、佐藤慧さん(Hei Tanaka)、かんのめぐみさん、小林幸太郎さん(チョップリン)といった多彩なアーティストが参加しています。中でも印象に残っているコラボレーションは?

オカザえもんをイメージしたオリジナルソング「遠くまで」も作ってくれたネギさんとのコラボが一番印象に残っています。ボーカリストとして僕の楽曲にも参加してくれました。データ交換だけで作業を進めていったので、どんな音源になるかはネギさんからの素材が届くまでは僕自身もわからなかったんです。オカザえもんフレンズのメンバーさんとは一度も会わずに作業を完成させていきました。やはり、普段はあまり関われないアーティストとのコラボは新鮮で刺激になります。

──ゲストアーティストとのコラボ曲のほか、本作には一般の人から集めたオカザえもんへのボイスメッセージも収められています(参照:西中島きなこがオカザえもんの誕生日を楽曲で祝福、ボイスメッセージ募集中)。西中島さんの活動に他アーティストやリスナーを巻き込んだ企画が多いのはなぜですか?

西中島きなこ

普段、僕はいろんな人とアクティブに遊んだりしないタイプなので、せめて音楽の中だけは1人でも多くの人と遊びたいと思っています。それだけでなく、いろんな人と作品を通じて関わることにより、アーティストとしての新しい引き出しに気付くことができるんです。けっこうそこは重要かも知れません。例えば吉田さんとのコラボでは、コミカルな内容をたくさん作品に反映することができました。オカザえもんフレンズでは、あえて今まで避けてきたシンプルなメッセージを歌詞にすることができました。関わる人を想像しながら創作と向き合うだけで、自然と新鮮なアイデアが浮かんでくるのは面白いです。関わってくれた人たちが楽しかったと思ってくれるコラボなら今後も続けていきたいです。

トリプルファイヤーとは異なる吉田さんの魅力

──7月にはリアレンジアルバム「コミックパッション2」、8月には7組のクリエイターによるリミックスアルバム「ナイスなヤング2」と、いずれも装いを新たにした吉田さんとのコラボ楽曲が配信されました。この2作をこのような形でリリースした理由は?

西中島きなこ+トリプルファイヤー吉田靖直

せっかく実現したコラボなので、トリプルファイヤーとは異なる吉田さんの魅力をもっと多くの人に知ってもらいたいと思いました。新しい曲を作って、またボーカルの録音を吉田さんにお願いすることも考えましたが、それだと吉田さんへの負担が大きくなるので、あえてトラックだけをリアレンジしてアウトプットしてみました。

──リアレンジやリミックスという形で改めて吉田さんとのコラボ作品と向き合ったときに、どのようなことを感じましたか?

自然体なのに個性的な吉田さんの声を聴いていると、僕の中でさまざまなアイデアが湧いてくるんです。それは創作を始めた頃のワクワク感に近いものがあるので今後も大事にしていきたいです。リアレンジ作品は今後も突然アイデアが浮かんだら配信のみでリリースするかもしれません。

西中島きなこ
毎週サブスクリプションサービスで楽曲リリース中
配信スケジュール
  • 2018年8月1日 「トリップする男女」
  • 2018年8月8日 「福娘」
  • 2018年8月15日 「Grooming」(アルバム)
  • 2018年8月22日 「Blue Monday Night」
  • 2018年8月29日 「MELLOW」
  • 2018年9月5日 「金髪のTeacher」
  • 2018年9月12日 「サマーナイトスムージー」
  • 2018年9月19日 「バスに揺られて(Remastered)」
  • 2018年9月26日 「Heaven」
  • 2018年10月3日 「調和と恵み(Remastered)」
  • 2018年10月10日 「いつの間にか(Remastered)」
  • 2018年10月17日 「春風の遊覧船(Remastered)」
  • 2018年10月24日 「あなたのひとみ(Remastered)」
  • 2018年10月31日 「QBハウス(Single Version)」
  • 2018年11月7日 「Sunbathe(Remastered)」
  • 2018年11月14日 「散らばるこころ(feat. たむらま)」
  • 2018年11月21日 「月曜から日曜まで(Single Version)」
  • 2018年11月28日 「躁転(Remastered)」
西中島きなこ(ニシナカジマキナコ)
ソロプロジェクト・音に敏感として2014年から宅録を中心とした創作活動を開始。2016年からは西中島きなこ名義で活動を行う。2017年3月、タワーレコード限定シングル「調和と恵み / MELLOW / 春風の遊覧船」をリリース。吉田靖直(トリプルファイヤー)をゲストボーカルに迎え、5月にミニアルバム「ナイスなヤング」、7月にdiskunion限定アルバム「ナイスなユニオン」を発売した。さらに12月には吉田とのタッグによる1stフルアルバム「西中島きなこ+吉田靖直」と配信限定アルバム「コミックパッション」がリリースされた。2018年には敬愛する曽我部恵一(サニーデイ・サービス)らを招いた自主企画ライブを1月に開催したのち、愛知県岡崎市の非公式キャラクターオカザえもんとのチャリティプロジェクト・オカザえもんフレンズを始動させたり、トリプルファイヤー吉田とのコラボ作品を装いも新たにリリースしたりと精力的に活動を展開。8月からは、SpotifyやApple Musicほかで毎週楽曲を配信する企画を行っている。