西中島きなこが9月11日にベストアルバム「西中島きなこベスト2」を配信リリースした。
昨年8月にSpotifyやApple Musicなどで新曲や既発曲のマスタリングバージョンを毎週配信する企画をスタートさせ、1年以上にわたって連続リリースを続けている西中島。新曲を発表するかたわら、4月にはベスト盤「西中島きなこベスト」、8月にはデモ音源集「若き日の抜け殻」とバンド時代の音源を集めたアルバム「青春の勢いで産んだ音」を発表するなど、既発曲をまとめた音源も数多くリリースされている。今回のインタビューでは既発曲にスポットを当てたアルバムの制作背景を追いながら、彼のバイタリティあふれる創作活動の源に迫った。
取材・文 / 倉嶌孝彦
ベスト盤は「西中島きなこ・入門編」
──昨年8月に連続リリースを始めてから、すでに1年以上の長期間にわたって連続リリースが続いています。新曲やコラボ曲、リマスター音源など多岐にわたって新しいサウンドを届けながら、なぜベストアルバムを発表することに至ったのでしょうか?
最近はCDを買わなくてもYouTubeでミュージックビデオを観たり、SpotifyやApple Musicなどの配信で簡単に音楽が聴けたりする時代になりました。だからこそ気軽に僕の作品に触れてほしいと思っているんです。ベスト盤は「西中島きなこ・入門編」みたいなイメージで、誰にでも聴きやすい代表曲だけを集めたつもりです。ミキシングやマスタリング作業も含め、特にいい仕上がりになったと思える作品だけをベスト盤には収録しています。僕の作品をまったく知らない人には、とりあえずベスト盤から聴いてほしいと思っています。
──初めてのリスナーに手に取ってほしいアイテムというわけですね。
僕はいろんなタイプのサウンドを作っているので、アルバム全体を通して聴いてもらわないと「音楽家・西中島きなこ」のバックボーンは伝わらないと思っています。また僕はリリースするアルバムによって作品の雰囲気が変わることもあるので、初めてのリスナーさんにはベスト盤を用意しておくほうが親切だと思ったんです。ロック、ダブ、ヒップホップ、ニューウェイブといった音楽ジャンルに限らず、歌謡曲やアイドルソングも大好きなので、僕が「いい」と思ったサウンドはどんどん吸収して、自分らしい作品としてアウトプットしていきたい気持ちが常にあります。その中でも、ベスト盤に収録されている楽曲は特にお気に入りなので、西中島きなこの代表作としてリリースすることにしました。
──9月にリリースされた「西中島きなこベスト2」の中で、特に気に入っている曲はどれでしょうか?
「春風の遊覧船」「バスに揺られて」「Sunbathe」の3曲ですね。僕が表現したい“歌モノ”の基本みたいな部分がすべて入っている気がします。美しいけど儚い、優しいけど切ない、透明感と浮遊感のあるサウンドを納得いく形でアウトプットすることができました。
──今挙げた3曲はどれも女性ボーカルの曲でもありますね。
「春風の遊覧船」「Sunbathe」の2曲は、ボーカリストのたむらまとの出会いがなければ生まれなかった作品です。詞の内容も彼女の歌声からインスピレーションを受けて書いたものです。「バスに揺られて」はネグレクトだったり、認知症だったり、心療内科などセンシティブな部分に触れた作品ですが、祝茉莉さんの淡々としたボーカルが作品全体の雰囲気をマイルドにしてくれているので、歌モノの作品としてバランスのとれた表現になっていると思います。世の中には言葉を強調しすぎてオケがBGMみたいになっている音楽があふれていますが、僕はそういうアウトプットは目指していないんです。聴いていて疲れてしまうので。
──連続リリースがすでに1年以上続いていることもあり、サブスクなどの配信サービスでは西中島さんの楽曲が数多く配信されています。ベスト盤で初めて出会ったリスナーには、西中島さんの音楽をどのように楽しんでもらいたいですか?
おしゃれな曲、かわいい曲、カッコいい曲、面白い曲、とにかくいろんな表現にチャレンジしているので、皆さんそれぞれのセンスにフィットするサウンドを見つけてもらえたらうれしいです。最近の曲だと「接心」は、僕が西成で撮影したMVを公開しているので、ぜひ観てもらいたいですね。サウンドが気になってくれた人には、インストアルバム「水の中の吹奏楽」もオススメです。なるべくYouTubeにミュージックビデオを公開するようにしているので、皆さんにとってのお気に入りの1曲を見つけてほしいですね。
今より情熱的だったバンド時代
──8月には西中島さんのバンド時代の曲を集めた「青春の勢いで産んだ音」と、デモ音源集「若き日の抜け殻」の2作品がリリースされました。これらの作品はなぜリリースされることになったんでしょうか?
疎遠になっていた昔のバンド仲間が古いデモ音源を見つけてくれたんです。ボーカルやミキシングなどいろいろと納得していない部分が多いんですが、当時の作品は圧倒的に今の僕よりも情熱だけは強いので、みずみずしい過去の記録として配信限定なら世の中に出してもいいかなと思いました。恥部を晒す勇気みたいな(笑)。
──過去の音源と向き合ってみて、ご自身の音楽の変化をどのように感じましたか?
トラックメイク、言葉の選び方、ミキシングの技術など、今は自分が心から納得できるクリエイティブな作品をアウトプットしている自信があります。逆に変わっていないのは使用している機材です。お金に余裕がないのと、新しい機材を買っても家に置く場所がないので……。
──バンド時代の活動は西中島さんにとってどのような経験になりましたか?
アレンジを考えるときは必ず架空のバンドを頭の中にイメージするんです。1人で創作活動をしていても常にサウンドで人力的な部分を大事にしている理由は、やっぱりバンド畑から出てきた影響だと思います。僕の曲は基本的にバンドでも演奏ができるようにアレンジしているので、学祭で演奏してくれるコピバンとかが出てきてくれたらうれしいですね。
──西中島さんが改めてバンドを組む可能性はないんでしょうか?
例えば作品のリリースを記念した1回限りの限定ライブとかなら、バンド編成でパフォーマンスをするのも楽しいかな、と思っています。でも誰かと継続してバンド活動をする気持ちは今のところまったくないですね。バンドに対する憧れみたいな気持ちがなくなっているのが影響しているかもしれません。ただバンドにまったく関わりたくないわけではなく、プロデュースのような関わり方には積極的にチャレンジしてみたいです。基本的に僕は自分が前に出たいわけではなく、魅力的なシンガーやパフォーマーがいれば、その人へのプロデュースに創作意欲を注ぎたいのです。
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一緒に音を鳴らすことだけがコラボじゃない
- 西中島きなこ
毎週サブスクリプションサービスで楽曲リリース中
- 西中島きなこ「西中島きなこベスト2」
- 2019年9月11日発売 / BINKAN
- 収録曲
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- Sunbathe(Remastered)
- コーヒーブレイク
- あなたのひとみ(Remastered)
- 春風の遊覧船(Remastered)
- ツナワタリ(Remastered)
- 躁転(Remastered)
- バスに揺られて(Album Version)
- 西中島きなこ(ニシナカジマキナコ)
- ソロプロジェクト・音に敏感として2014年から宅録を中心とした創作活動を開始。2016年からは西中島きなこ名義で活動を行う。2017年3月、タワーレコード限定シングル「調和と恵み / MELLOW / 春風の遊覧船」をリリース。吉田靖直(トリプルファイヤー)をゲストボーカルに迎え、5月にミニアルバム「ナイスなヤング」、7月にdiskunion限定アルバム「ナイスなユニオン」を発売した。さらに12月には吉田とのタッグによる1stフルアルバム「西中島きなこ+吉田靖直」と配信限定アルバム「コミックパッション」がリリースされた。2018年には敬愛する曽我部恵一(サニーデイ・サービス)らを招いた自主企画ライブを1月に開催したのち、愛知県岡崎市の非公式キャラクターオカザえもんとのチャリティプロジェクト・オカザえもんフレンズを始動させたり、トリプルファイヤー吉田とのコラボ作品を装いも新たにリリースしたりと精力的に活動を展開している。2019年4月に初のベストアルバム「西中島きなこベスト」を、8月にはデモ音源集「若き日の抜け殻」と、バンド時代の音源を集めたアルバム「青春の勢いで産んだ音」を配信リリース。9月には2作目のベストアルバム「西中島きなこベスト2」を発表した。昨年8月にSpotifyやApple Musicほかで毎週楽曲を配信する企画をスタートさせ、連続リリースは1年以上続いている
2019年9月24日更新