永遠の愛を誓わない歌があってもいい
──「marriage」では「病めるときも健やかなるときも永遠の愛を誓わない」ということを歌っているのが印象に残りました。
誰かが誰かを所有することはあり得ないというか、本来できないと思っていて。でも、できると感じてしまうからこじれることがいっぱいある。“永遠の愛”も、免許の更新みたいに定期的に確認したらいいのになって。「今年もまたこの日が来ましたけど、来年も一緒にいます?」みたいに。いろいろな制度が男の人に有利にできていて、変やなあって思います。あと、永遠の愛を誓う歌はたくさんあるから、誓わない歌があってもいいんじゃないかという(笑)。誓わないほうが楽しいかもしれないですしね。
──誓うと縛られてしまう。
そうですね。とりあえず毎年確認したほうがいいと思う(笑)。
──次の「オールウェイズ」は、朝目覚めて“オールウェイズ”という言葉がふいに出てきて、そのままリビングで録音したそうですね。
そうです。布団から出て、リビングに降りて行って、ギターを持って、そのまま録りました。本当にそのまま一発録りで。歌詞も、弾きながらぽろぽろ出てきたものそのままです。スタジオできれいに録ろうと思って試してみたんですが、家で録った音源のほうがよかったので、そっちを収録しました。
──「オールウェイズ」には「僕ら 踊る なにものでもない」や「君と 僕は 踊り続けよう どんな つらい ことがあろうとも」という歌詞がありますが、「スケベなSONG」には「あなたとずっと踊りたいんだ」という歌詞がありますし、「marriage」にも「dancin' oh baby」という歌詞がありますよね。
気付きましたか(笑)。歌っていて気持ちいいんでしょうね。
──「踊りたい」という気持ちが潜在的にあるわけじゃなく?
どうなんでしょうね。自分自身、ダンスはまったくしないんですけど、ダンスの動画を観るのは好きです。
──踊るという描写が多いことはご自身で気付いたんですか?
マネージャーに「全曲踊ってますね」と言われて気付きました。「意図があるんですか?」「いや、ない」って(笑)。でも、踊るという行為は強い効果を持つものだと思ってます。すごいケンカをしていたとしても、どちらかが急に踊り出したら止まるような気がしますし。「ゴリラの森、言葉の海」という本を読んでいたら、「人生で大事なことは全部ゴリラから教わった」というようなことが書かれていて。ゴリラの雄叫びは会話でも歌でもあるはずだし、動きで何か伝えたりすることって、しゃべるよりもっと前から生き物がやってきたことなんやろうな、と考え始めて。
──なるほど。
今気付いたけど、「こどもラジオ」にも「踊り出した」という歌詞がありますね。もう踊り出してる(笑)。
──「こどもラジオ」は編曲クレジットなしで、作詞作曲は奇妙さんですね。
はい。Aマイナーで刻んでいくような歌があったら楽しいなと思って作った曲です。
──その次の「ほどける」はコミュニケーションについての曲に聞こえました。
ギターのループ感がめっちゃいいので「インストでもいけるよな」と考えたんですけど、歌も入れてみました。
──最後に入っている「ダーリンマイベイビー」は子守歌のような曲ですね。
この曲も急にぽろっと出てきたんです。子守歌ってよく聴いたら怖いような気がしてきて。「ねんねんころりよ おころりよ」とか、「寝たら殺されるんかな」と思うんですよね(笑)。「何も怖くないよ」と言ってくる人が一番怖いというのにも通じるというか。
──「何もしないから」と言ってくる人とか。
そうそう(笑)。書いている途中にそういう怖さを感じ始めて、一部歌詞を書き直したりもしました。
もう自分、全部持ってるやん
──そうやって奇妙さんの曲を「こういう景色にも見えるし、また別の景色にも見える」と楽しんでいる人は多いと思います。
ありがたいですね。どう聴いてくれてもうれしいです。気に入ってくれても全然興味を持ってもらえなくてもいい。ただ、「聴いて嫌な気持ちになったら申し訳ないな」という思いはあるので、嫌な気持ちにさせてしまうような言葉は入れないように気を付けています。幸せな人を見てしんどくなる人もいるから、すべての人を嫌な気持ちにさせないのは難しいと思いますけど。あと、例えば「これは完全に若い男性と女性の恋愛について歌っているな」と思われるような曲だと、「自分には関係ない」と感じる人が出てきてしまうかなと思って。そういうふうに、聴く人を限定するような表現も避けてます。昔の歌謡曲は好きなんですけど、聴く人を限定する曲も多かったりして。男性の管理職の人の夢がいっぱい詰まっている感じというか。曲として素晴らしくても、なんか都合よすぎる歌詞も多くて、もはや冗談に聞こえることもある。そういう曲にならないよう、作るときに気にしてますね。
──なるほど。
基本的には楽しめたら楽しんでほしいし、いつ聴いてもらってもいいし、いつでもどっか行ってくれていい。それでもって、僕自身は気が向いたときに気が向いたことをしていきたいですね。
──一昨年は、野音で25周年記念ライブを開催されましたね。ソロありバンドありの、25年間を総括するような公演でしたが、ご自身にとってどんなライブでしたか?
まず“何周年”みたいなことが恥ずかしかったです(笑)。もう1人の自分が「25周年と言われても知らんがな」と言ってくるような感覚があって。もちろんうれしい気持ちもありましたし、「こんなことしてもらっていいの?」とは思いましたけど。僕は基本的に1人でステージに上がるより、みんなで上がっているほうが楽しいんです。なので、そういう時間が味わえるのはぜいたくやなと思いましたね。
──4年前のインタビュー(参照:奇妙礼太郎3年ぶり新作「ハミングバード」インタビュー)で「40歳ぐらいまでは“これくらい売れたい”とか思っていたけど、なかなかそうはいかなかった」とおっしゃっていましたが、今はどんなふうに活動していきたいと思っていますか?
「何歳までに何々をしたい」みたいな強迫観念がなくなって、だいぶ幸せやなと思って毎日過ごしてます。友達とお酒を飲みながらしゃべっていると「これ以上のことはないな」という気持ちになる。例えば「有名人と仲よくなりたい」と思っているも人たくさんおると思うし、それはそれでいいけど、自分は自分の友達とごはんを食べてるときが一番楽しくて。「もっとこういう友達が欲しい」と思うこともないし、「自分が死ぬまでこの人たちは絶対生きててくれよ」と思いながら日々を過ごしていますね。「もう自分にとって大事なものを持っている」といううれしさを感じて生きてる感じもします。って、全然アルバムに関係ない話ですけど(笑)。
──いや、そういう奇妙さんの人生観がアルバムにも出ていると思います。
こんなことベラベラしゃべって……でも、本当に「もう自分、全部持ってるやん」と思うんですよ。「誰々みたいな曲を書かないと」とか「誰々ぐらい活躍しないと」とか全然考えなくなって。みんなが自分に飽きて誰も見に来なくなったら、そのときまた考えようと思ってます。……いや、俺死ぬん?(笑)
プロフィール
奇妙礼太郎(キミョウレイタロウ)
大阪府出身。1998年に音楽活動開始。奇妙礼太郎トラベルスイング楽団、天才バンド、アニメーションズといったバンドでの活動を経て、2017年にソロでメジャーデビューを果たす。「FUJI ROCK FESTIVAL」や「RISING SUN ROCK FESTIVAL」などの国内フェスを含め、年間200本以上のライブに出演。ボーカリストとして多数のCM歌唱も担当するほか、写真展も実施するなど活動は多岐にわたる。2023年に音楽活動25周年を迎え、初の日比谷野音単独公演を完売させる。2025年4月に、のん主演映画「私にふさわしいホテル」の主題歌「夢暴ダンス」を収録した、フルアルバム「オールウェイズ」をリリースした。
奇妙礼太郎/Strange Reitaro (@reitaro_jp) | X