奇妙礼太郎が語る4年ぶりフルアルバム「たまらない予感」、全楽曲を手がけた早瀬直久(ベベチオ)による証言も

奇妙礼太郎が実に約4年ぶりとなるフルアルバム「たまらない予感」を完成させた。本作は、昨年6月にリリースしたミニアルバム「ハミングバード」と同じく、早瀬直久(ベベチオ)が全曲を制作。生々しい感触と多彩な色合いを帯びた11曲を、奇妙はやはり前作同様どこまでも自分の歌として体現している。本作のリリースを受けて、音楽ナタリーは奇妙にインタビュー。さらに今回は早瀬へのメールインタビューも行い、奇妙礼太郎という歌うたいの不思議で底知れない実像を探った。

取材・文 / 三宅正一撮影 / 小財美香子

「ハミングバード」の流れでできたアルバム

──約4年ぶりのフルアルバムですが、前作「ハミングバード」のリリース以降はどんな時間を過ごしていましたか?

ツアーをやったりいろんなところでライブをしたり、あとは今作の制作をして......という感じですね。

──前回のインタビューで、奇妙さんはiPadのアプリなどを使いながら自分で曲作りもしていると言っていました(参照:奇妙礼太郎3年ぶり新作「ハミングバード」インタビュー)。ただ、今作も早瀬さんが全曲提供しています。奇妙さん自身の曲作りはその後どういう状況ですか?

デモがめっちゃたまりましたね。なので、次の作品は自分で作詞作曲した曲が収録されるんやろうなと思ってます。まるまる1曲ではないですけど、断片的なものも含めたらアルバム5枚分くらい曲があるので(笑)。

奇妙礼太郎

──すごいじゃないですか。

寝起きとか、やる気になってるときはワーッっと曲ができるんですよね。それをスタッフに送って、感想をもらうという。そこまではノンストレスで。そこからどうやって人とコミュニケーションを取りながら形にしていこうかなということを最近スタッフと話してますね。それも楽しみです。

──今作は早瀬さんの曲でフルアルバムを1枚作ってみたかったという気持ちがあった?

そうですね。「ハミングバード」の流れのまま作ってみたらよさそう、と思って。

──奇妙さんから「こういうタイプの曲を作ってほしい」とリクエストすることはなく、今回もお任せで?

はい。リクエストとかは全然なく。送ってもらった曲を聴きながらレコーディングしていきました。

──前回のインタビューのときに奇妙さんが打ち込みの曲を作っていきたいと言っていて、たとえば「くじら」や「RH-」、「ランドリーナイト」などは打ち込みの要素がけっこう入っているので、それは奇妙さんがリクエストしたのかと思っていました。

いや、全然。

──そうなんですね。奇妙さん自身はどの曲が気に入ってますか?

1曲目の「あたいのジーンズ」もそうやけど、どの曲も自分で作るものとは雰囲気が全然違うので、面白いなあと思います。ちょっとクセもあるけどポップで。早瀬くんはいろんな引き出しを持っているし、どの曲も“自分じゃない自分”を出せる感じが面白いですね。歌詞も自分で書くとしたらここまで優しいムードの言葉を使わないと思うんですよ。ちょっと躊躇するというか。

──それは照れ臭いから?

そうですね。自分でそういう歌詞を書こうとしても、実感が伴わないというか。

──でも、やっぱり今作のどの曲もしっかり奇妙礼太郎の歌になっていますよね。

自分から出てこないものを早瀬くんが引き出してくれて、それを広げてもらってる感じがありますね。

「素人はおらへんの?」

──そういうお話を聞くと、余計に奇妙さん自身が作ってる曲ではどのようなことが歌われているか気になりますけどね。

なんていうか、俳句教室みたいな感じなんですよね......。

──俳句教室?(笑)

スタッフに送って聴いてもらった曲に対して「“てにをは”はもっと少ないほうがいい」とかアドバイスをもらったりしてるんですよ(笑)。やっぱり恥ずかしいですよね。自分で書いた曲を聴いてもらうのって。

──でも、スタッフに聴かせるという第一段階はクリアしているわけで。

そうですね。事務所の人は絶対にバカにしないとわかっているので(笑)。

──関係性が近くない人もバカにしないですよ。

そうですか?(笑) 怖いんですかね。自分で自分のことをあまり評価してないのかもしれないですね。僕は自己評価が高い部分がすごく少ないんです。めんどくさいやつですよね(笑)。バンドを始めた頃は自分で曲を書くしかなかったというか。そうしないとツアーもできないし。やっぱりライブをするのが好きなので、そのために曲を書いてアルバムを作るというのが最初の動機で。作りたい曲があるというよりは、ライブというやりたい活動があって、そのために曲を書いていたという感じでしたね。

奇妙礼太郎

──そのうちだんだん人が書いた歌を歌うのが楽しくなってきたし、それなら書いてもらったほうがいいという感覚になっていったんですかね?

そうですね。歌うこと自体はもともと好きで。大阪にいるときは自分の周りの人も自分と同じような感じで、平日は仕事をして、週末にライブをするという人が多かったんです。でも、東京に来て仕事で知り合うミュージシャンの人たちは音楽をちゃんと勉強している人が多くて。「あ、全然違うなあ」と思ったんです。「素人はおらへんの?」って。その中にいると「自分はマイノリティやなあ」と思うというか。違う国に来たような感覚があったんです。僕もギターは10代の頃から弾いてるけど、すごく真剣に取り組んできたわけではないし、「コードを押さえたら歌の伴奏ができるから弾いてる」ぐらいの感覚で。もちろん、ギターを弾くこともずっと好きですけどね。ただ、東京に来てからは「ええ、みんなめっちゃちゃんと音楽できるやん」みたいな気持ちがずっとありますね(笑)。

──奇妙さんのライブを観て「こんな即興的にライブができちゃうんだ」と驚くミュージシャンも多いと思いますけどね。

その場でパッとギターを弾いて歌ったりするのは苦肉の策みたいなところもあったんですよ。ライブを楽しい時間にするための。

奇妙礼太郎

──目の前にお客さんがいるとそれができる?

そうですね。やっぱりお客さんが目の前にいるというのはすごいことですね。お客さんと同じ場所にいて、お客さんのリアクションがあって......お客さんと一緒にライブをやっているような感覚というか。共同作業のようなところもあるから、お客さんがいるからこそ出てくるものがあって。

──コロナ禍になってコール&レスポンスができなくなっていったのにつれて、奇妙さんの中でライブの在り方も変わっていきましたか?

「やっぱりお客さんの声を聞きたいな」と思うときはありますね。でも、それはもう少し時間がかかるのかなと思ってます。