ネガティブだからこそポジティブな歌を

──今になって思えば、1人で抱え込まないでもっと早くから周りのメンバーに相談しておけばよかったですね。

いつもは悩んでることがあっても言わないですから。どう伝えたらいいかわかんないんですよね。たぶん子供の頃からの癖で、自分の中で溜め込んじゃう。でもそれが歌詞につながってるとこもあるんです。中学のときからそうやって溜め込んだ思いをノートにどんどん書いてて、それが私の原点だから。

──そうやって吐き出したものが歌詞になる？

いつもそうです。めちゃめちゃ暗い歌詞をまず1回書いて、そこから「こんなんじゃダメだ！」って言ってちょっとずつ明るいものに書き換えていって、それが最終的に「Magic Music」とか「happiness!!!」のように明るい曲になったりするので。でもその段階を踏まないと歌詞を書けないんですよ。

──そもそもカエラさんはなぜ明るくポジティブな歌を歌うんですか？

えっ？ なぜ私がポジティブな歌を歌うか？

──世の中には自分の暗い部分やドロドロした内面をそのまま出すアーティストもいますし、カエラさんだって根っからポジティブな人ではないですよね。

そうですね（笑）。

──それなのにどうしてポジティブな表現を選ぶんでしょう？

それはやっぱり……私自身がドロドロしてるからじゃないですか？ ただでさえドロドロしてるのに、ドロドロしたことをやってたら、どんどん自分がドロドロになって溶けちゃうから（笑）。

──なるほど。

自分がすっごいネガティブ人間だからこそ、ポジティブな気持ちが必要なんです。毎日笑って過ごしたいな、人に優しくしたいな、今日は楽しい日にしよう。そういうことを常に考えてるんです。

──そうか、もともと満たされている人は「今日も楽しく過ごしたい」ってわざわざ考えないですもんね。

うん、それに自分が音楽で救われた経験があるから。そういうのってやっぱりすごく覚えてるんですよね。曲を聴くとその瞬間の匂いとか記憶とかがよみがえってくる。それぐらい音楽ってパワーがあるなって思うんですよ。だから落ち込んでる人がいたら、自分も音楽でちょっとでも手助けできればいいなっていう気持ちはありますね。

自分が歌えばポップに化ける

──今回のアルバムにも多彩なクリエイターが参加していますが、アクの強いサウンドに統一感を与えているのはやはりカエラさんの歌声だと感じます。カエラさん自身はボーカリストとしての自分の声や歌い方をどう捉えているんでしょうか？

私はきっとどんなに奇抜なことを歌っても、どんなに激しいものを歌っても、確実にポップになるんですよ。

──それは声質がポップだからということ？

普通の曲を歌うと、特に歌がうまいわけじゃないのがバレるんですけど（笑）、でも速い曲とか激しい曲を歌うときに私の声が生きるって思ってるんです。ヘビーな音やとがった音にあわせたカッコいい声で歌うっていうのが私にはできないから、その違和感で声が飛び出してくる。だからデモテープで「これちょっとハードすぎるんじゃないか」みたいな曲も、私の歌が乗るとハードじゃなくなる。

──例えば誰かがすごく激しい曲を作ってきたときに……。

うん、化ける面白さがありますよね。例えば「c'mon」とか「TODAY IS A NEW DAY」みたいな曲は、しのっぴの声で歌ってるデモテープを聴くと、スタッフはみんな「ハードすぎる」「これシングルにできない」って言うんですね。でも私は「いや、大丈夫だよ。私が歌ったらすごい変わっちゃうよ」って言って、実際歌ったらみんな「ほんとだ！」ってなる感じ。

──面白いですね。

作ってる人たちもみんなそれをわかってるんです。どれだけ音をハードにしても結局ポップになるから。歌詞とかメロディもそれを想定して作ってる。

──自分が歌うとポップに化けるっていう、その自覚はいつ頃からあるんですか？

けっこう初期からありますね。アルバムでいうと2枚目か3枚目ぐらいかな。なんかカッコよくできないなって思ったんですよ。カッコよく歌いたいのに明るくなっちゃう。

──自分がイメージしてたのはもっとハードなものだったのに？

そうそう。ロックやパンクが好きだし、最初の頃はそういうサウンドをイメージして歌ってみてたんだけどなんか違う。それはきっといい個性なのかなって今は思ってますけどね。

木村カエラ最強説

──そして3月からはひさびさのライブハウスツアーも控えています。

5年ぶりですね。めちゃめちゃ楽しみですよ。

──意気込みは？

5年前に全国を回ったときに、行った先々でお客さんの熱がボッと上がるのがわかったんです。それってすごく最高なことで。だからとにかく全力でやるつもりです。

──この5年間でいろんな経験も重ねて、今はライブハウスをもっと楽しめそうですね。

と思います。いい意味で力を抜いた状態のまま激しくいけるんじゃないかなっていうのはなんとなく思ってるんですけど。そのイメージを大切にやりたいなって。

──じゃあ今回はリハで泣いたりしないで済みそうですか。

はい（笑）。1回地獄を見てきたから、あとは楽しむだけですね。やっぱり私が楽しまないと意味がないので。

──こちらも楽しみにしてます。

期待してもらって大丈夫です。今、“木村カエラ最強説”が自分の中でキてるので（笑）。