木村カエラ「F(U)NTASY」発売&メジャーデビュー20周年記念インタビュー

木村カエラが9月25日に新作EP「F(U)NTASY」をリリースした。このEPは2004年のメジャーデビューから20周年を迎えた木村の新たな門出を祝うアニバーサリー作品。全5曲のうち、最後に収録されている「Twenty」はタイトルの通り、20周年にちなんで彼女が作詞作曲を手がけた1曲で、“歌”への素直な思いやデビュー当時を回想するフレーズなどがちりばめられている。

音楽ナタリーでは新作のレコーディングを終えたばかりの木村にインタビュー。デビュー20周年を迎えた率直な思いや、ファンタジー、イマジネーション、直感力にまつわる話、木村にとって歌がどんな存在であるかなど話題は多岐におよび、「Twenty」の作詞過程における、苦労がありつつもほのぼのとするエピソードについても語ってくれた。

取材・文 / 矢島由佳子撮影 / 須田卓馬 衣装協力 / シャツ:Super Yaya(MATT.)、ラップスカート・ニットパンツ:YanYan(LYDIA)

「好き」を続けていたら20年

──「デビュー20周年を迎えた今の気持ちは?」と聞かれて真っ先に思い浮かぶものを、3つ挙げるとすると?

「何も変わってないな」「でも、大人になったな」……あとはなんだろう? 「でもやっぱり変わってないな」かな。自分の好きな世界観も、歌が好きということも、ずっと変わっていない。でも大人になったなという感じがします。あっという間の20年でした。もちろん感謝の気持ちもたくさんあるし、いろんなことがあったのですが、「好き」を続けていたら20年経ったなっていう気持ちが大きいですね。

──この20年の中で、一番大変だった時期はいつでしたか?

10周年から15周年の間かな。あの時期は大変でしたね。子供が産まれて、子供という宝物ができて幸せなんだけど、そのまま仕事を続けるとなったときに、それまで自分自身に向けていたものが100%のままではできなくなった。その葛藤がものすごくありました。どこか完璧主義者なところがあるので、歌というものや、応援してくれている人、一緒に仕事をしているスタッフに対して、100%ではない状態で向き合うことは失礼だと思っていたんです。だから「無理!」って気持ちになっちゃって。20周年を迎えた今、こんなにもフラットな考えに行き着くことができているのは、あの時期を乗り越えたことが大きかったと思います。

木村カエラ

──当時、その葛藤をどのように乗り越えられたのでしょうか。同じ女性として、私自身もとても気になります。

「仕事も100%」「子供も100%」は難しいと思っていて。「50%と50%で100%になる」と考えればいいと思っています。その50%が今の自分にできる100%で、精一杯やりさえすれば悔いは残らない。私、後悔だけは本当に嫌いなんです。失敗して学ぶことがあるのはいいけれども、後悔だけは絶対にしたくなくて。だから、いつも後悔だけはしないように準備をします。私の場合は、子供の成長を見逃したくないので、なるべく子供といながら仕事をするタイプですけど、子供を預けて仕事をバリバリしている方もいるし、いろんな方がいますよね。ただ、どんなタイプでもお母さんは全員大変だと思います。だからこそ、「自分が一番大切にしたいことは何か」を明確に自分の中に持つことが大事なんだと思います。そこがブレて見えなくなるとつらいかも。それは子育てをしながら何度か思ったことがあります。「あの人はちゃんと育てながら仕事もしてるし……」とか、誰かと比べたりもしてしまうけど、結局は自分がどうしたいかだと思います。

──自分がどうしたいのかを大事にしよう、ということはカエラさんが20年ずっと歌ってきたメッセージでもありますね。

そうですね、確かに(笑)。

現実でも続く夢の世界 / 直感力・運命について

──20周年の節目にリリースされるEPのタイトルは「F(U)NTASY」で、カエラさんが20年間貫いてきた世界観にぴったりな言葉だと思いました。このタイトルは、カエラさんのどんな思いを形にしたものだと言えますか?

すっごく私らしいタイトルだなと思って。まさに私がやりたい世界を表す言葉を見つけたなと思ったんです。だから、その言葉の歌を作りたいなと思ってタイトル曲の「F(U)NTASY」を書き始めました。この曲は、「Good night Good night Good night See ya」と寝るところから始まって、夢の中でも動いているし、最後の「Get up Get up Get up See ya」で目覚めて、また現実でも夢の世界が続いている、というイメージで。きっと私といれば楽しいことがたくさんあって、私自身もあなたといることで1人では見られない世界を見られるし、あなたも私といることであなたの中では見られない世界が見られる。それはとっても楽しいこと……といったイメージで書きました。この曲は自分の書きたいことが明確にあって、2時間くらいでブワッと歌詞を書いて、そこからあまり動かなかったですね。

──なぜカエラさんは作品を通してファンタジーな世界を作ったり、そこへみんなを連れていったりすることが好きなのでしょう?

もともと一人っ子で、妄想ばかりして遊んでいたんですよ。人形や花がしゃべったり、空から何かが降ってくるんじゃないかとか、そういうことばかりを子供の頃から妄想していました。想像は自由だし、夢は無限で、それを持ち続けることが幸せの第一歩だと思っているんです。「夢なんて」とよく言うけど、私は、どんなに些細なことでも“夢”だと思っていて。例えば、「何々が食べたいな」「今ピアノを弾きたいな」と思うことも、私にとっては夢。しかも言葉には力があって、魔法みたいに「言霊」というものがありますよね。私は「人間は魔法を使える!」と思っているところがあって。だから「こんなところでライブをしてみたい」とか、いいことは口にするし、逆に悪いことは口にしない。そうすると魔法がかかるイメージがあるんです。

──とっても素敵です。言霊の力は、小さい頃から信じていましたか?

小さい頃は、どちらかというと現実逃避的な、本当にファンタジーの世界へ行ってしまうような考え方でした。そういうときに悪い妄想をしてしまうこともあったから、それが怖くなって、きっとこういうふうに変わっていったのだと思います。嫌なことが起きたとしても、そこには絶対に意味があるから、それが起きた瞬間に、それこそ「ウォーリーをさがせ!」みたいに、そこに隠されている何かを感じられると思っていて。その意味を探し当てたらクリア、といったイメージが私の中にはあるんですよね。

──自分も含めて、現代人は隙間時間があるとすぐにスマートフォンを触るから、そういうイマジネーションを働かせることから遠ざかってしまっているなと感じます。

すごくわかります。携帯電話の世界をずっと見ていると、直感力がかなり失われる。これはもう確実だと思います。頭のどこかが疲れちゃって、直感が働かない。塗り絵とかも、黒い線しかない世界で、「これは赤だな」って自分の中で見えたものを塗っていくんですけど……そういうとき、脳の奥のほうに到達するイメージが自分の中にあるのですが、そこが開くまでにものすごく時間がかかるんですよね。昔は妄想の世界を自分の中で繰り広げるまでが早かったけど、今はそこに行くのに時間がかかります。

木村カエラ

──携帯電話から離れる時間も大事だと思いますか?

大事ですよね。携帯から離れて想像力とかアイデアを出す脳の場所を使わないと、本当に使えなくなる。直感力は絶対に、訓練によって養うことができると思っています。だから寝る前に少しでもいいから、例えば好きな映画やアニメのワンシーンを頭の中で流したり、お花畑を思い浮かべたり、今日起きたことを振り返ったり。そうやって私はカラーの映像を頭の中で流しています。それが脳のイマジネーションとか直感につながる力になると思っているんですよね。筋トレと一緒です。衰えていると、映像が目の奥に出てくるまでにものすごく時間がかかる。逆に、それをちゃんとやってるとアイデアが冴えてくる。

──「F(U)NTASY」の中で、「運命」についての書き方が1番と2番で変わっていますよね。1番では「運命は運命だ あみだくじだ」「運命は出会う人で変わる」、2番では「運命は運命だ ワンダフルだ」「運命は選ぶ道で開く」と歌われています。カエラさんは運命というものをどのように捉えているのでしょうか?

運命は、ある程度決まっているものだと思っていて。子供の頃からずっと思い続けているのは……宇宙に大きな図書館があって、真ん中に巨大な人がいて、本棚が浮いていて、そこにみんなの本が置いてある。そういうイメージが頭の中にあるんです。でも、運命とは決定的なものではなく、自分が選んだことによってその先の道が決まっていく。「右に行ったらこの物語になりますよ」「左に行ったらこの物語になりますよ」みたいな。あみだくじも一緒じゃないですか。だから結局は、自分で決めているものだと思っています。実は「TREE CLIMBERS」もそのイメージをもとに書いているんです。でも当時は若かったから「そんなもん破ってやる」みたいなことを言っています(笑)。