ナタリー PowerPush - 木村カエラ
大人になったカエラが歌う“幸せ”の形 7thアルバム「Sync」
木村カエラが通算7枚目となるオリジナルアルバム「Sync(シンク)」を完成させた。ヒットシングル「マミレル」「Sun shower」を含むこの作品で、彼女が伝えようとしているのは肩肘張らないナチュラルな“幸せ”の形。カラフルでハッピーなアルバムを生み出すに至った心境の変化について、じっくりと話を訊いた。
取材・文 / 大山卓也 撮影 / 井出眞諭
新しい「happiness!!!」を探さなきゃって
──カラフルなアルバムになりましたね、ジャケも中身も。
そうですね。
──前作「8EIGHT8」は全曲渡邊忍さん(ASPARAGUS)によるプロデュースでしたが、今回は楽曲ごとにいろんな方が参加しています。
前作はいつものバンドメンバーと一緒に作ることができて、それはずっと前からやりたかったことだったんです。それである意味夢が現実になったから、今回はまたいろんな人とやってみたいなって。
──人選や選曲はどのように進めたんですか?
まずはいろんな人の曲をたくさん聴かせてもらうところから。で、その中から今の自分のモードに合ってるものを感覚的に選んでいった感じですね。
──その、今のカエラさんのモードっていうのは?
聴いた人に元気になってもらいたい、前向きな歌を歌いたいっていう、そういう気持ちがありました。前作の「8EIGHT8」は“伝えたい”っていう思いがすごく強かったんですよね。その思いが強すぎて、アルバム1枚の中に自分の届けたいもの全てを詰め込むことができなかった。それを武道館の3DAYSのライブが終わったときに改めて感じたんです。
──ライブがきっかけで?
うん、私、武道館で“自分が思う幸せの形”みたいな話をたくさんしゃべってたんですよ。歌う以外のMCの部分で。で、ライブ自体はすごく精一杯やって満足いってたんだけど、終わってから何カ月か経ったあとに「あれ? 違うぞ」「本来は曲で全てを説明しないとダメなのに」っていう違和感が出てきたんです。
──時間差で気が付いたんですね。
そうなの(笑)。やっぱり動けなかった間に伝えたいことがたくさんたまってたんだなって。それからずっと考えてて「あ、今の私に足りないのは新しい『happiness!!!』だ」って思ったんです。
──「happiness!!!」は2ndシングル(2004年)としてリリースされた曲ですよね。
あの頃、20歳くらいのときに書いた「happiness!!!」を、今28歳になった自分が違う形で書くとしたらどんな曲になるんだろうって。きっと私はそれを作ってないからMCであんなに“幸せ”について話したんじゃないかって思ったんです。今の自分が思う「happiness!!!」みたいなものがきっとあるはずだし、とにかくそれを探さないとっていう思いでアルバムを作っていったんですよね。
「Butterfly」が受け入れられたことが転機に
──じゃあ今回アルバムを作る上では「happiness!!!」=「幸せ」というテーマを意識して?
うん、やっぱりどこか優しさを感じる曲だったりとか、ナチュラルなものだったりとか。なんかパッと聴いて「休日っぽいな」とか「車の中っぽいな」とか、そういう普段の時間を歌いたいって思ってましたね。無理がなくて、私っぽいものを突き詰めたくて。
──確かに今回は、カエラさんがデビュー以来得意としてきたエッジの効いた表現に比べると、自然体で優しい楽曲が目立ちますね。
きっかけとしてはやっぱり「Butterfly」(2009年)が大きかったんです。手紙みたいな素直な言葉で自分のナチュラルな感情を歌ったあの曲が、すごくたくさんの人に受け入れられて聴いてもらえた。結婚式で使ってもらったり「幸せな気持ちになりました」って言ってもらうとね、やっぱりうれしいんですよ。
──そうでしょうね。でも「Butterfly」って、当時のカエラさんにとってはある意味異色な曲だったと思うんですが。
うん、やっぱりイケイケな感じのものが好きだったりしますからね。とがってて奇抜なものが本来の自分の表現だとしたら、「Butterfly」の世界はそれとはちょっとかけ離れてるかもしれない。
──親友の結婚式のために歌詞を書き下ろしたと聞きました。
そう、デビュー当時からずっと自分のために歌ってきたけど、あの曲をきっかけにして、人のために歌うことを知ったというか、外を向くようになったというか。世の中の人たちはどういうものを求めてるんだろうとか考えたりして。できれば自分の歌で人を幸せにしたいっていう思いがすごく強くなっていったんです。
──それまでのとがった自己主張はいったん置いておいて。
自分のことはどうでもいいから、聴いてくれた人が幸せになれる曲を届けたいって思うようになりましたね。私が歌ってる意味はそこにあると思って、「Butterfly」以降、あの武道館のときも、そんな気持ちでバーッと進んでたんですよね。でもそしたらある日、自分自身のことがわかんなくなってきちゃって「あ、これはもう一旦ストップだ」って思ったの。
──ストップっていうのは?
「あれ? 私自分がやりたいことやってない」ってことに気が付いたんです。
- ニューアルバム「Sync」/ 2012年12月19日発売 / 日本コロムビア
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- 初回限定盤[CD+DVD] 3675円 / COZP-743-4 / Amazon.co.jpへ
- 通常盤[CD] 3150円 / COCP-37725 / Amazon.co.jpへ
CD収録曲
- マミレル(プロデュース:AxSxE[NATSUMEN])
- HERO(プロデュース:高本和英[COMEBACK MY DAUGHTERS])
- Sun shower(プロデュース:ミト[クラムボン])
- coffee(プロデュース:飛内将大)
- Hello Goodbye(プロデュース:ジム・オルーク)
- sorry(プロデュース:Jhameel)
- MY WAY(プロデュース:今谷忠弘[ホテルニュートーキョー])
- Synchronicity(プロデュース:AxSxE[NATSUMEN])
- so i(プロデュース:ミト[クラムボン])
- Merry Go Round(プロデュース:蔦谷好位置)
- Cherry Blossom(プロデュース:AxSxE[NATSUMEN])
- WONDER Volt(プロデュース:渡邊忍[ASPARAGUS])
初回限定盤DVD収録内容
- マミレル -music video-
- Sun shower -music video-
- so i -music video-
- Sun shower -making movie-
木村カエラ(きむらかえら)
1984年生まれ、東京都出身の女性シンガー。テレビ番組「saku saku」への出演をきっかけに、2004年6月にシングル「Level 42」でメジャーデビューを果たす。2005年3月発売の3rdシングル「リルラ リルハ」が大ヒットを記録したことで一躍全国区の人気を獲得。2006年には再結成したサディスティック・ミカ・バンドにボーカルとして参加した。2007年6月には初の日本武道館公演を成功させたほか、2009年7月には横浜赤レンガパーク野外特設ステージにてデビュー5周年記念ライブを開催し約2万2千人を動員。2010年2月には初のベストアルバム「5years」を発表している。キュートで先鋭的なファッションやそのライフスタイルは女性からの支持も厚く、CM出演なども多数。2012年12月には7thアルバム「Sync」をリリース。