Ken Yokoyama「These Magic Words」インタビュー|今、ベテランバンドが勝負を仕掛ける理由 (3/3)

次のアルバムは期待を裏切らない出来

──にしても、相当ディープなシングルに仕上がりましたね。

横山 なかなか濃厚ですよね。なので、サブスクで聴くにしてもCDを買って聴くにしても、1つのパッケージとして3曲通して聴いてもらいたいです。

──「Sorry Darling」が完成に至るまでの流れ、ほかの2曲に込められた思いや健さんの思考の変化など、そういう経緯があって完成したんだと知って聴くのと知らずに聴くのとでは、受け取り方も変わりそうですね。

横山 そうですね。例えば、The Beatlesの曲は何日に誰がギターを録ったとか、そういうことがデータとしてしっかり残っていて、語り継がれたりするじゃないですか。そこまでしてほしいとは言わないですけど、そうやって音楽を楽しむ人にはここでの話を覚えておいてもらいたいですね。

──これだけ濃いシングルを聴いたら、来年に発売を控えているフルアルバムが本当に楽しみになります。

横山 シングルを1年に3枚出しましたけど、去年だったかな。曲を作りながらアルバムの意味を見失った時期があったんです。アルバムを聴いてほしいなんて思いはミュージシャンのエゴであって、ただのオナニーでしかないんじゃないか。リスナーはミュージシャンが思うほど、アルバムをありがたがって聴いてくれないんじゃないかと。「そんなことないよ」と思う方もたくさんいるとは思うんですけど、世代が若くなれば若くなるほどこの考えはあながち外れていないんじゃないかなという気がするんですね。そう考えると世の中から求められていないこと、ぶっちゃけて言うと売れないものを作ってどうするんだという気持ちになってきたんです。お金も損だし、何より情熱や時間が無駄になる。そんなことを考えていたら悲しくなってきたんです。で、アルバムの意味を見失って、シングルで出ていく機会を増やそうという考えにシフトしたんです。

──そうだったんですね。

横山 でも、そうは思いながらもシングルシリーズというのは対処療法みたいなものであって、今でも本質は“アルバムミュージシャン”だと思っています。シングル3部作は最終的にやれてよかったと思うんですけど、ものすごい作業量だったので精神的に堪えたし。もしかしたらやらなければやらないに越したことはなくて、今までどおり2、3年に1枚アルバムを作ってじっくりツアーをして、ツアーをしながら曲を作って、曲が溜まった頃にまたレコーディングしてアルバムを作るだけでよかったのかもしれない。ただ、コアファンには届くけれど新しい人たちにはリーチしていかない。それをわかっているのに「しょうがないよね」と指をくわえていることが嫌だったんです。なので、僕たちなりにリーチの機会を増やそうとしたんですが……ごめんなさい、話が長くなっちゃって。要するに、今度のアルバムは期待してくれている人を裏切らない出来になっていると思いますよ、ってことです。

EKKUN そうなんです。まったく隙がなくなっちゃいましたね。シングル3部作に入っている曲のいくつかはアルバムにも入るんですけど、「ええっ、この並びで聴いても成立しちゃうんだ!」と驚くはず。早く聴いてもらいたいですね。

EKKUN(Dr)

EKKUN(Dr)

横山 アルバムが出るときに、僕らがシングルシリーズでやっていたことをまとめて振り返ってもらえたら、すごく考えてすごくもがいて作ったんだなとわかってもらえる……まあわかってもらう必要はないんですけど、このバンドの精神性とか現在地が見えてくると思います。

横山健の中にある違和感

──このシングルが発売されたあと、12月にはライブツアー「These Magic Words Tour」が開催されます。

横山 そうですね……今、話しながらふと思ったんですけど、僕って曲の背景も見てほしい、言葉の裏に何があるのか考えてほしい、わかってほしがり屋なのかな。僕自身がそうやって音楽を聴いてきたから、みんなも同じだったらうれしいし、そんなふうに音楽を楽しんでくれる人のことをすごくありがたく思うんです。でも、これってリスナーに対して求めすぎなんですかね?

──健さんにとっては、そこも含めて音楽なわけですよね。基本的には僕も健さん側の考えなので、すごく共感できます。

横山 なんかね、僕の中に変な違和感があるんですよね。音楽を取り巻く状況自体は、昔とそんなに変わっていないと思うんです。例えば、1970年代とか80年代は100万枚売れる曲なんて1年間でほんの数曲だったわけで、それだけマーケットが小さかったわけですよね。あの頃の僕たちは友達が買ったLPを借りたり、貸しレコード屋さんでレンタルしたりして、カセットテープにダビングしてたくさんコレクションしていった。それって今のリスナーがサブスクで音楽を聴くことと、行為としてはそんなに変わらない気がする。でも、自分が若くしてその渦中にいたからか、昔のほうが音楽に価値やありがたみを感じていたと思うんです。そして今は……明確に数値化することはできないけど、音楽の価値がすごく落ちている気がするんですね。何がどうしてそう感じるのか、小さな違和感がいつも僕の中にあって。小さな違和感って見逃せないじゃないですか。それがここ数年でどんどんデカくなっている気がして……なんだかセラピーを受けているみたいになってきましたね(笑)。

──いえいえ(笑)。僕も同じように音楽を楽しんできた世代だから、健さんの言っていることはすごく理解できます。ただ、今の10代や20代にとっては日常の中に音楽と同じくらい、あるいは音楽以上に夢中になれるもの、楽しいと思えるものが豊富にあるのかもしれません。そういう価値観は変わってきているのかなと。

横山 そんな中、ミュージシャンとしては正解なんて簡単に見出せず、そういう時代だと思ってみんな手探りでやっていくしかないんですよね。いや、そういう時代とかではなく、いつの時代でもミュージシャンなんてそんなものでしょって思いながらやるしかないのかな。何がこう思わせるんだろう……。別に「昔はよかった」と言うつもりもないんですよ。今この状況の中で音楽を復権させられる方策があるなら、誰かやってくれないかなっていう。わかってはいたんですけどね。15年ぐらい前から、自分が身を置いているこの世界が斜陽の産業なんだってことは。2000年代の終わりの頃にはさすがに自覚せざるを得なかった。ただ、悔しいですよね、それって。

──そんな2023年という時代に、「These Magic Words」という曲、歌詞がどう響くのか。

横山 ああ、道筋を戻してくださった(笑)。そうですね、1人でもこっちの世界に引っ張ってこられるように、またもがいてみます!

──この健さんの問いかけを、読者の皆さんがどう感じるのか。ぜひ聞いてみたいですね。

横山 「このおっちゃん、何言ってんだ? もともとそうだったじゃん」って思う若い子が、どんどん出てきてくれてもかまわないんですよ。「この人はただ懐かしがっているだけ」でもいいし、「こうしたらいいんだ」とアイデアをくれてもいいし。1人のミュージシャンの問いかけとして、何かを考えるきっかけになったらうれしいですね。

左から横山健(Vo, G)、EKKUN(Dr)。

左から横山健(Vo, G)、EKKUN(Dr)。

ライブ情報

Ken Yokoyama「These Magic Words Tour」

  • 2023年12月9日(土) 滋賀県 滋賀U★STONE
  • 2023年12月10日(日)岐阜県 CLUB ROOTS
  • 2023年12月12日(火)静岡県 LiveHouse 浜松 窓枠
  • 2023年12月13日(水)静岡県 SOUND SHOWER ark
  • 2023年12月22日(金)神奈川県 Yokohama Bay Hall

プロフィール

Ken Yokoyama(ケンヨコヤマ)

Hi-STANDARDの(G, Vo)横山健が、2004年2月にKen Yokoyama名義のアルバム「The Cost Of My Freedom」をリリースし、バンド活動を開始。2008年1月に初の東京・日本武道館公演を行った。2010年10月には「DEAD AT BAY AREA」と題したアリーナライブを神戸と幕張で実施し、2013年11月には横山のドキュメンタリー映画「横山健 -疾風勁草(しっぷうけいそう)編-」が劇場公開された。2023年5月に約8年シングル「Better Left Unsaid」を発表し、初の東京・日比谷公園大音楽堂(日比谷野音)でのワンマンライブ「DEAD AT MEGA CITY」を開催。9月には木村カエラをゲストボーカルに迎えた楽曲「Tomorrow」を含むシングル「My One Wish」をリリースし、10月にはホールツアー「My One Wish Tour」を行った。11月に2023年第3弾シングル「These Magic Words」をリリース。12月にはライブハウスを回るショートツアー「These Magic Words Tour」を行う。幾度かのメンバーチェンジを経て、現在は横山、Hidenori Minami(G)、Jun Gray(B)、EKKUN(ex. Joy Opposites、FACT)の4人編成で活動している。