Ken Yokoyama|不死身のバンドの6年ぶりアルバム、“死”と向き合うことで“生”を描く

Ken Yokoyamaが5月26日にニューアルバム「4Wheels 9Lives」をリリースする。

「4Wheels 9Lives」は、昨年9月発表のミニアルバム「Bored? Yeah, Me Too」と同時期に制作された約6年ぶりのフルアルバム。オープニングを飾る「I'm Going Now , I Love You」からラストの「While I'm Still Around」まで、Ken Yokoyamaが得意とするメロディックパンクの要素がこれまで以上に詰め込まれた1枚となっている。

音楽ナタリーでは横山健(Vo, G)、Hidenori Minami(G)、Jun Gray(B)、EKKUN(Dr / ex. Joy Opposites、FACT)の4人にインタビュー。「死ぬこと」がテーマだという今作の制作背景に迫った。

取材・文 / 矢島大地 撮影 / 西槇太一

原点としてのメロディックパンクを

──これまでKen Bandにはさまざまなタイプの楽曲があったわけですが、今回はメロディックパンクとしてのアンセムがアタマからケツまで鳴っている作品だと感じました。ドラマティックな展開とメロディの豊かさも含めて並々ならぬテンションが伝わってきますが、まずは今作の手応えから教えていただけますか。

Hidenori Minami(G) 俺個人も全曲アンセムになり得るアルバムだと思っているから、そう言ってもらえて安心した。何をキラーチューンと言うのかっていう話にもなるけど、やっぱりメロディックパンクはKen Yokoyamaの一番得意なところだし、今回は特にド真ん中の楽曲をそろえることができて。メロディックパンクを「速くてメロディがいいだけの音楽」という定義だけで考えている人も多いかもしれないけど、これまでに吸収してきた音楽をちゃんと血肉にしたメロディックパンクが形になっている作品だと思う。経年変化したうえで、原点としてのメロディックパンクを鳴らせたと思いますね。

Jun Gray(B) しかも「Bored? Yeah, Me Too」のときから曲を貯めてたからね。今作と合わせると18曲あって、ボツになった曲もあったからけっこうな数の楽曲を作ってたわけで。「Bored? Yeah, Me Too」もいい作品だったけど、そのときから早くこの曲たちを吐き出したいと思うくらい、今回のフルアルバム用に置いておいた曲がたくさんあったんだよ。「まだまだいい曲があるんだよ」って長い間思ってたから、それを出せるのはうれしいね。

──Junさんが「いい曲だ」と思うのは、音楽的にどういうポイントだったんですか。

Jun 具体的に言うのは難しいんだけど、去年はとにかく時間があったから1曲1曲に長く時間をかけられたんだよね。だから今まで作ったアルバム以上に完成度が高いし、楽曲を作っている段階から「ああでもねえ、こうでもねえ」って4人で言い合えた実感があるから。そこが、今まで以上にいい曲たちだと思える理由かな。

EKKUN(Dr) 確かに、早くいろんな人に聴かせたいアルバムですよね。「Bored? Yeah, Me Too」のときにも「俺が加入したからには新しいKen Bandを見せたい」っていう気合いを表現したつもりだったんですけど、その気持ちをさらに注げたような気がします。クオリティがより上がったと思うし、なんならやりすぎちゃったかな?って思うくらい(笑)。

横山健(Vo, G) ははははは! やりすぎた?(笑)

──やりすぎたポイントを教えてください。

EKKUN 特にわかりやすいのが「Forever Yours」で、オカズとかフィルインを刻み狂ってるんですよ(笑)。速いわ、粒が立っちゃうわで聴いた人はビックリしちゃうんじゃないかなと思いますね。

Minami えらく自画自賛だね!

EKKUN 言っちゃった。聴いた人がビックリしなかったらどうしよう(笑)。

──刻み狂ったとおっしゃいましたが、それが歌心として聞こえてくるのが素晴らしいと思います。

EKKUN よかった(笑)。まだまだ到達できた感はないんですけどね。Ken Bandのグルーヴをモノにするのは大変だったと前も話しましたけど、現時点ではベストを尽くせたっていう感じですかね。

──では、健さんの所感はいかがでしょうか。

横山健(Vo, G)

横山 俺も全曲キラーチューンのつもりで書いたから、全曲がアンセムだと受け取ってもらえてうれしいです。やっぱり俺にはメロディのクセとかツボがあって、今回はそのツボを全曲に入れられたと思っていて。ちょっとしたコード使いとか、そのコード使いに当てる音とか、自分好みのものがちりばめられている曲たちなんですよ。なんなら、1曲1曲タイトルを見るだけで「この曲を作ったときはこんな感じだったなあ」って思い出せるくらい自分を注ぎ込めた実感がある。1人の部屋の風景から始まって、その曲をバンドに持って行って、また部屋に持ち帰って。その全部が鮮明に思い浮かぶくらいで。

──まさに健さん特有の和音、メロディのロマンティックさが全曲に刻まれていると思うし、全曲が「Punk Rock Dream」を超えていくような、Ken Yokoyama節のド真ん中だと感じました。今のお話で言うと、意図的にそういうアルバムにしたかったということなんですか。

横山 うん、今回はかなり意図的だったと思う。何より自分のツボを突きたい、自分が欲しいと思っているところが欲しい……そういう気持ちだったかな。そこにこだわって曲作りをやってた。

──どうしてそうしようと思ったんですか。

横山 なんでだろう……わかんないかも。アルバムを作ってるときに、全曲に自分の節を刻みたいって必然を感じた瞬間はあったんだけど、それを忘れちゃったんだよなあ(笑)。……なんでなんだろ?

──2つ推測するんですが、1つ目は新しいバンドサウンドの構造に呼ばれたものなのではないかと思いました。2018年末にEKKUNさんが加入したことによってビートが粒立つようになり、音自体のスピード感が増したことで、今のバンドの個性をフルで発揮できる形としてKen Yokoyamaド真ん中のメロディックパンクを求めたところがあったのではないかと。そして2つ目は、「何より自分のツボを突きたかった」とおっしゃったように、健さんのシグネチャーを徹底的に刻むことで自分の人生を改めて証明したいという意志があったんじゃないかと思いました。本作の歌詞からも健さんのそういった気持ちを感じたのですがいかがですか。

横山 今の感覚で言うと、その両方があったと思う。まずサウンド面で言えばEKKUNが入ったことによって速い楽曲が立体的に表現できるようになって。ドラムが変わってビートが変わると、当然弦楽器のほうもやることが広がるわけですよ。ビートが立ったことによって、聴いた人にもわかってもらえるようにサウンドを構築できるようになったのは大きいかな。それからメンタリティの部分で言っても、自分のツボを突きたいっていうのはつまり、自分の得意技をやりたいと思ったんだろうし。2、3年前くらいに作った曲も去年作った曲も入ってるから、単に去年のモードというよりも、ここ数年のことがいろんな形で出てきたものだとは思うんだけどね。

Ken Bandの一番得意な部分を出したい

──では少し振り返りたいんですが、今作で最も古い曲は「Helpless Romantic」だと記憶しています。この曲は3年前のライブから演奏されていましたよね。

横山 そうそう。「Helpless Romantic」を作ってアルバムに向かおうっていうときにMatchan(松浦英治)が抜けることになって。それでEKKUNが入ってから「Runaway With Me」(前作「Bored? Yeah, Me Too」の収録曲)を作って。その後曲作りは一旦ストップして、ライブに明け暮れて……曲を猛烈に作り始めたのは去年の自粛期間のあとだっけ?

Jun いや、去年の6月には半分以上の曲がそろってたよ。だって6月には「Bored? Yeah, Me Too」のレコーディングをしてたから。だから今回の曲たちは2019年から始まってる。EKKUNが入ってから「I'm Going Now , I Love You」もできてきたからさ。

Minami うん、健さんが2019年に抑うつを再発してバンドが止まった頃には、半分くらいは曲ができてた。本当だったら2019年の年末にはアルバムのレコーディングをするはずだったからね。

Jun そうそう。「Helpless Romantic」と「Runaway With Me」ができて一旦止まって、そのあとにできたのが「I'm Going Now , I Love You」だったから。その時期から、次はメロディックパンク色が強くなるのかなっていう予感はあったよね。うちらの得意なところで攻めようっていう。

Minami どこかで過去の作品を振り返ったときに、もっとメロディックパンクの比重が多くてもいいよね?っていうのがバンドの中にあったのかもしれないですよね。過去の作品の良し悪しの話じゃないけど、これまでの作品と比較して「Ken Bandの一番強い武器を多く使ってもいいんじゃないか」っていう発想もどこかにあった気がするんですけど。

横山 確かに。例えば「Best Wishes」も「Sentimental Trash」も、どこを切っても同じサウンドにならないように、音楽的な冒険をちりばめながら作ったアルバムだったんだよね。だけどその結果、思ったより散漫になっちゃった印象があって。それもあって、金太郎飴とまでは言わないまでも「もうちょっと自分たちの得意なサウンドが多いアルバムを作ってもいいかもね」っていう話をしたよね。

Hidenori Minami(G)

Minami 俺が思うに、新しいトライをする領域がなくなったんですかね。「Sentimental Trash」の頃なら箱モノのギターにハマったことでロカビリーっぽい曲を作ったりスカをやってみたりしたけど、それを1つやり切ったことで、今までの音楽的な素養を持って原点に戻ってきたっていう感じかもしれないですよね。

横山 まあ、今回も新しいトライはどこかに入れたいと思ってやってみたのが「On The Sunny Side Of The Street」のカバー(オリジナルは1930年代のジャズスタンダード)なんだけど、とはいえこの曲も半分がインストだから、「トライはこれくらいにしておこう」くらいで済ませたんだよね。でも……なんでなんだろう。とにかく自分のツボを突いた曲、Ken Bandの一番得意な部分を出したいと思った理由はうまく説明できないかもしれないな。

──例えば「While I'm Still Around」には「たくさんの魂を救えると思ってた / オレの不恰好な 音楽でね / 気がついたのさ それはオレの思い上がりだったって / 誰かを救ったかもしれない でも一番救われたのはオレ」「死んじまう前に どれだけの感謝を 伝えられるだろうか?」というラインがあって。前作のインタビューで「次の作品のテーマは『死ぬこと』です」と話していただいた通り、歌の中に“die”や“death”といった言葉が多く出てくるわけですが、死を歌う以上に、健さんはどう生きてどこに還っていくのか、限りある人生で何を愛して何に感謝するのかを作品通じて歌われていると感じたんです(参照:Ken Yokoyama「Bored? Yeah, Me Too」インタビュー)。

横山 ああ、なるほどね。

──いわば“人間・横山健”という根源的なものを今作から受け取ったんですが、そうなったときに、一番強く自分を刻むことができる音楽を求めたところもあったんでしょうか。

横山 でもね、曲が先で詞があとだから、曲を作る段階で何かを考えてたはずなんだよなあ。ただ、歌詞とか俺個人の思いについては今話してくれた通りだと思う。ここ数作に見られた大きな問題提起とかメッセージとかじゃなく、ひたすら自分の人生について書いた実感があってね。「The Cost Of My Freedom」(2004年発売の1stアルバム)に近い内省がある作品だと思うし、音楽的な部分はまた別のチャンネルだったとはいえ、どちらにしても自分節で埋め尽くしたいと思ったことは確かで。

Jun 健の作る曲の中には勢いだけで押し切るようなメロディもたくさんあるんだけど、俺が思う健のメロディっていうのはそれと違うんだよね。それこそ「Punk Rock Dream」みたいにしなやかなメロディが俺の思う「健の節」だから。それをどんどん持ってこいっていうのは今作に限らずずっと言ってたし、今回はそういう曲がたくさんあると思う。