音楽ナタリー PowerPush - 横山健

横山健&MINORxU監督が出会いからDVD発売までを語る

どっちかって言うと、ハメ撮りに近いというか

──それにしても、普段普通に生活しているとこうやって子供の頃から現在までの半生を振り返る機会って、ほとんどないですよね。

横山 そうですね。でもけっこう普通に思い出しながら話せましたよ。僕ね、監督と話すのが好きなんですよ。聞き上手なんで、彼。

MINORxU はははは(笑)。

横山 ホントに。話すのも振り返るのも楽しかったし。だから最初はなんとなく話し始めたのに、最終的に嬉々として話してる自分がいるんですよ。おっしゃるように30年、40年の自分の人生を振り返ることができることってそんなにないし、だからその機会を与えてもらえてラッキーだなって思いましたね。実はすごく大切な作業だと思うんですね、自分の歩んできた道のりを振り返ったり、その上で今後どうするかって考えることは。それをこうやって人前で話すとすごく明確になって、のっぴきならなくなるわけですよ。世の中の人、みんなやるべきですね(笑)。

横山健

MINORxU 前半部分だけで3回に分けて、計8時間以上回してるんですよ。

横山 彼、ツアーにも全部ついてきて、メシも毎晩一緒に食って。もうそこから関係作りが始まってたんですよね。たまに来て撮る人じゃなくて、もう徹底的にもぐり込んで。だって最後の頃には完全にツアースタッフだと思ってましたもん(笑)。

MINORxU 実際に俺、移動車の運転もしたし、メンバーのホテルの迎えもやったし(笑)。これはちょっと余談になっちゃうんですけど、WOWOWのほうでも村川僚さんという方が横山さんのドキュメンタリーを撮ったんです(2013年3月放送の「ノンフィクションW 物言うパンクス!横山健 ~311、ハイスタ、その先に~」)。以前、村川さんと2人で自分たちの作品について話したとき、村川さんは盗撮するようなスタイルで撮るんですって。でも俺はどっちかって言うと、ハメ撮りに近いというか(笑)。

──はははは(笑)。

横山 ははははは!(笑) キモいな(笑)。

MINORxU ドキュメンタリー1つを撮るにしても、そういうふうに撮影スタイルが違うよねって。村川さんはちょっと引いた立ち位置で、被写体との距離感を測りながら撮ってたんです。実際に作品を観ても、横山さんを俯瞰した形で見せてますし。でも俺の場合は中に入り込んでグイグイ行っちゃうっていう……なんかエロビデオに例えちゃうとアレですけど(笑)、本当に盗撮とハメ撮りくらい違うなと。

──MINORxU監督の例え、すごくわかりやすかったです(笑)。

横山 確かに村ちゃんは撮影対象とあんまり近くならないようにするタイプだもんね。それが彼の……まあ音楽で言ったら出す音色なのであって。

MINORxU 僕の場合、カメラは客観的なものと思ってないんですよ。ドキュメンタリーって客観的に撮るものだって一般的に言われてるんです、あんまり肩入れしたものはよくないって。でも俺は横山さん像みたいなのが世間一般にあるとして、みんなの視点とはちょっと違うところから見てもらいたいなって思うところをまず自分で探すんですね。この視点から見た横山さんは、もしかしたらみんなが知らない横山さんなのかなって。それを探るときはやっぱり深く入り込まないと見つからないと思うし、傍観して見てるだけじゃ気付かないんじゃないかなと思うんです。なるべく対象に近付いて、普段の感じがわかるようなところまで行けたらなと思ってやってるだけなんです。

最後は横山さん個人の活動に立ち返りたかった

──最終的に撮影は2012年いっぱいまで続いたわけですが。

MINORxU はい。2009年から始まって、2010年でひと段落つくっていうところから……たぶんまる3年撮ってるんですよね。

──1年間密着するだけでも相当な労力だと思いますが、改めて3年ってすごい期間ですよね。

横山 何百時間撮ったっつったっけ?

MINORxU えーっと……300時間……もっとあったかな。

MINORxU

横山 はははは(笑)。

MINORxU そのくらいあると思います。6テラバイトのハードディスクがあって、その中からいろいろ選びながら編集していったんで。でもこれが最初から終着点が決まっていて、こういうスケジュールでやんなきゃいけないって設定されていたら、たぶんこんなに追えなかったですもんね。

横山 うん、そうだね。

MINORxU だからここまで許してくれて、やらせてくれたのは俺にとってもすごく幸運だったなと思います。

──2012年というと9月に東北での「AIR JAM 2012」があって、11月にKen Bandのアルバム「Best Wishes」を出したタイミングですよね。震災を経て完成したアルバムの誕生で撮影が終わるというのも、結果としてはすごくけじめの付けやすいタイミングだったのかなという気もします。

MINORxU そうですね。なんかこんなこと言うとあれですけど、もともと「AIR JAM」で終わらせるつもりはなかったし、やっぱり最後は横山さん個人の活動に立ち返りたいっていう思いが大きかったんです。もしかしたら世間が求めてるのは「Hi-STANDARDの横山健」なのかもしれないですけど、この映画の入り口は「Ken Bandの横山健」だったので、そこは個人的にも固執してた部分かもしれないですね。横山さんっていうパーソナリティでちゃんと完結させたいっていう。もちろん東北の「AIR JAM」をクライマックスにしようと思えば簡単なことだと思うんですよ。でもそこはわりと意地になってのかもしれないです。これが求められてたかどうかはわからないですけど。

──あそこでKen Bandに戻っていくからこそ、横山健の作品として成立したんだと思うんですよね。そこがこの作品の重要なポイントだと、個人的には思います。

横山 僕は自分の人生をペラペラ語れるけども、それをどう映像に残すかっていう技術はないですから。それをちゃんと形にしてくれたのは監督の技量としか言いようがないですよ(笑)。

横山健(ヨコヤマケン)
横山健

1969年10月1日生まれ。Hi-STANDARD、BBQ CHICKENSのギタリスト。2004年からソロアーティストとしての活動を開始し、Ken Yokoyama名義によるアルバム「The Cost Of My Freedom」をリリースした。Ken Bandとしてライブ活動を展開して以降も、2005年の2ndアルバム「Nothin' But Sausage」をはじめ定期的に作品を発表。2008年1月には初の日本武道館公演を実施したほか、2010年10月には「DEAD AT BAY AREA」と題したアリーナライブを神戸と幕張で敢行した。2011年にはHi-STANDARDのライブ活動再開や「AIR JAM 2011」開催など、ソロ以外の活動も続々展開。2012年11月に5thアルバム「Best Wishes」をリリースした。2013年11月にはドキュメンタリー映画「横山健 -疾風勁草(しっぷうけいそう)編-」が、全国60館の劇場にて公開。2014年9月、新曲「Stop The World」を収めたCDが付属したDVD「横山健 -疾風勁草編-」を発売する。