音楽ナタリー PowerPush - 横山健

横山健&MINORxU監督が出会いからDVD発売までを語る

環境に慣れてくると“化かし合い”が始まる

──3年分の映像を編集するのって、本当に大変な作業だったと思うんですが。

MINORxU ほかのドキュメンタリー作品のディレクターさんって、たぶん自分でカメラを回してない方が多いんです。でも俺は自分でカメラを回すんですよ。だから撮ってるときにだいたい「あっ、このシーン使えるな」って当たりを付けてるんで、ほかの方よりは編集作業はそんなに大変じゃないのかもしれないです。

横山 撮りながら「これだ!」と思ってんのか。怖いなあ(笑)。いや、彼はすごいんですよ、その撮り方が。“化かし合い”って彼は呼んでるんですけど、カメラを構えてても撮ってなかったり、カメラをポンってそこらへんに無造作に置いて撮りっぱなしにしたり。そのへんのコンビニに行くのにもカメラを持ってくんですね。で、最初は「ずーっと撮ってんでしょ」って意識してても、だんだんそれに慣れてくる。ときどき「今の撮ってた?」って聞くと「いや、今は撮ってなかったです」と返されたり(笑)。

左から横山健、MINORxU。

MINORxU (笑)。

横山 撮ってないと言ってるのに撮ってるときもあって、だんだんわけわかんなくなるんですよ。だから監督がどのタイミングに「ここは使える」と思ったかも、さっぱりわかんないんですよね。

MINORxU でも俺も最初の頃は「こっちが撮ってるの、わかってこういうこと言ってるのかな?」とか、いろいろ考えながら撮ってましたよ(笑)。俺はとにかく最初の「Four」のレコーディングのときが勝負だと思ったんです。ずっとそばにいて、カメラを回してるのに慣れてもらうって。だってレコーディング風景なんて、そんなに代わり映えしないじゃないですか。

横山 うんうん(笑)。

MINORxU でもとにかくカメラを構えて撮り続けて。で、だんだんそういう環境に慣れてくると“化かし合い”が始まるんです(笑)。まあ最後の頃は少なかったですけどね、そういう撮り方。

横山 僕もすごいタイミングで金言を言ったりするんで、それが意図的なのかノリなのか、監督自身もジャッジがつかなかったんでしょうね、最初のうちは(笑)。そういうとこひっくるめて面白かったですよ。

──常に撮られているという環境には自然と慣れちゃうものなんですか?

横山 慣れちゃいますよ。そりゃ最初は構えますよね、普通にも笑えないというか。でもそれがずっと続くと感覚が麻痺するんです。しかも「AIR JAM 2011」の頃なんてMINORxU監督のカメラと、さっき話した村ちゃんのカメラと、NHKのHi-STANDARDドキュメントのカメラと計3台入ってましたから。もうなんだかわけわかんなかったよね(笑)。そこで撮られてることにいちいち無駄なエネルギーも使いたくなかったし。

すでに一番身近な存在だったから本音を吐いた

──全然ジャンルは違いますけど、AKB48のメンバーがまったく同じことを言ってました。撮られてることが日常化すると、それ自体が気にならなくなるって。もちろん監督に対する信頼感もあると思うんですけど。

横山 そうですね。まったく気にならないかと言うとゼロじゃないですけども、限りなくゼロには近付いてきますよ。だから僕も今回の映画で……DVD用の特典映像も含めて「ここ撮ってたのかよ!」とか「あれ? こんなこと、あったっけ?」という場面がたくさんあります。

MINORxU けっこうありました?

横山 あるある! 本編で使われた映像なんてほとんどだよ。

MINORxU へえ、そうなんですね。

横山 さすがに映画の冒頭、「AIR JAM 2011」終わりのときは監督がカメラを持っているのは知ってたんですけど。

MINORxU あれは俺的には勝負のタイミングでしたね。

横山 カメラを持って……回してんのか回してなかったのかわかんないけど、すでに一番身近な存在だったから、本音を吐いちゃったんです。もうカメラマンでも映像作家でもなくて、友達のMINORxUが本番直後に僕の隣にいて、そのときの気持ちを吐露できるっていうぐらいまで近い存在になってましたね。

MINORxU

MINORxU そう言ってもらえると本当に……(笑)。いつも思うんですけど、たぶん俺ってカメラがなかったら、逆にこういう関係性は築けないタイプだなって。横山さんと別の出会い方をしていたらこういう感じにはならなかっただろうし、やっぱりカメラを持ってるからこれだけ話すことができたんだなってことは、特に最近強く思ってます。

横山 いや、カメラを持ってなかったら僕だって友達にはなってなかったから(笑)。監督は意外とね、昔から近場にいた人間なんですよ。近場というか、Hi-STANDARDっていうパンクロックを掲げて表に出ていった僕らに対してアンチテーゼを唱えているシーンというか、その中の一員だったんです。だからこういう形で出会ってなかったら、お互いのことを嫌い合ってたかもしれないよね。

「入口でありたい」って言葉で横山さんをより近くに感じた

MINORxU それこそ90年代に出会ってたら、もしかしたらこんなにしゃべることもなかったかもしれないとは思ってます。パンクシーンってわりと売れてるものに対してアンチテーゼを唱える傾向があるじゃないですか。僕も当時は10代で若かったんで、別に嫌いなわけではなかったけどそう考えがちで……だから出会うタイミングが本当によかったなって思います。思うんですけど、やっぱり震災前のあの時期っていうのがすごくよかったのかなって。震災って括りで片付けちゃダメなんですけど、たぶん震災後にも例えば撮り始める可能性もあったわけじゃないですか。横山さんと俺が最初に会ったときって、横山さんがハイスタを1回止めて、それでソロを始めてわりと充実してた時期だったと思うんです。横山さんには以前話したことがあるんですけど、あの時期の横山さんって戦う相手を見失うというか、いろいろ探していたタイミングで。

横山 うん。攻撃目標を探してたんだよね。

MINORxU そういう時期だったんですね。そのメンタリティと、俺がいわゆるアンダーグラウンドなパンクシーンで感じていたエネルギーって、ちょっと近いものがあったんです。こんな言い方をするとちょっと誤解を招くかもしれないんですけど、アンダーグラウンドのシーンって仮想敵みたいなものを探すことがあって、そういうところでまとまることがあるんですよ。そのメンタリティと当時の横山さんが重なったのは、俺的にはわりと都合がよかったというか。

横山 なるほど、面白いね。

MINORxU 映画でも言ってるんですけど「入口でありたい」って言葉で、横山さんをより近くに感じたんです。そのときに俺、スッといろんなものが溶けた感じあったんですよ。振り返ってみると、入口ってそんなにマニアックなものじゃないですよね。僕はTHE BLUE HEARTSだったんですけど、そこから掘り下げてだんだんアンダーグラウンドなものに傾倒していったんです。でも、例えば今ヒロトさんやマーシーさんがカッコ悪くなってたら嫌じゃないですか。やっぱりあの人たちは今でも俺の中でカッコいい存在であって、それは横山さんも多くの人にとってそういう存在であるべきだと思うんです。実際横山さんが自分が入口でありたいって言ってくれたときに、覚悟を決めてるんだなってことが感じられて、改めて信頼することができたんですよ。

横山健(ヨコヤマケン)
横山健

1969年10月1日生まれ。Hi-STANDARD、BBQ CHICKENSのギタリスト。2004年からソロアーティストとしての活動を開始し、Ken Yokoyama名義によるアルバム「The Cost Of My Freedom」をリリースした。Ken Bandとしてライブ活動を展開して以降も、2005年の2ndアルバム「Nothin' But Sausage」をはじめ定期的に作品を発表。2008年1月には初の日本武道館公演を実施したほか、2010年10月には「DEAD AT BAY AREA」と題したアリーナライブを神戸と幕張で敢行した。2011年にはHi-STANDARDのライブ活動再開や「AIR JAM 2011」開催など、ソロ以外の活動も続々展開。2012年11月に5thアルバム「Best Wishes」をリリースした。2013年11月にはドキュメンタリー映画「横山健 -疾風勁草(しっぷうけいそう)編-」が、全国60館の劇場にて公開。2014年9月、新曲「Stop The World」を収めたCDが付属したDVD「横山健 -疾風勁草編-」を発売する。