3回ぐらい却下しました
──今回のアルバムは、前半と後半で雰囲気が異なるように感じました。
加藤 前半に勢いのある曲を持ってきて、中盤から後半にかけてちょっとしっとりした曲が並ぶ、という流れにしてます。6、7曲できたときにアルバムのコンセプトが見え始めて、曲順は10曲全部できたあとに喧々諤々、みんなでいろんな聴き方をしながら決めていきました。
──アレンジャーさんは全曲同じですか?
加藤 そうです。アレンジはすべてKOSENさん(ポイントブランク所属の作曲家)、曲の根幹に関わるアイデア出しは安藤さんがやってくれました。例えば「みんなのラジオ」は最初まったく違う曲だったけど、安藤さんがロックな方向に持っていってくれて。
──(少し離れた席で待機していた安藤氏に)この曲はロック色を強めたほうがいい!と思わせるものがあったんですか?
安藤日出孝 デモを聴いた瞬間、あ、これはEaglesの「Heartache Tonight」だなと思いました。そしたらKOSENから上がってきたアレンジは全然違って。3回ぐらい却下しました(笑)。
──加藤さん、KOSENさん、安藤さんという3段構えで曲が揉まれていく。すごくいいチームですね。
安藤 みんなの引き出しが違うほうがいいですからね。僕はRIP SLYMEのプロデュースとかやってましたから(笑)。
──でも今回のアルバムにヒップホップ要素はないみたいですね。
加藤 僕の中にないですから(笑)。
ヘブンは人それぞれ
──歌詞に関しては「Heaven」がすごく印象的だったんですけど、この曲で歌われている“ヘブン”って八ヶ岳のことではないですよね?(笑)
加藤 なるほどね! そういう解釈もあると思います(笑)。
──公認会計士やM&Aのお仕事を経験されて、ニューヨーク生活も経て、今は八ヶ岳で農場運営。加藤さんってある意味ではもうヘブンにたどり着いてるのかなと思ったんですが(笑)。
加藤 ヘブンは人それぞれにあっていいのかなと思ってます。死後の世界ってわけじゃなくて、みんなそこを目指して生きてるっていうふうに考えればいい。ヘブンを探すのも自分、定義するのも自分。自由に解釈していただきたい歌詞です。
──ものすごく普遍性のある歌詞ですよね。
加藤 具体的な言葉を入れ込もうとすると、安藤さんに「いやそっちの方向じゃない!」って言われるので(笑)。
安藤 そんなキツい言い方してないですよ!(笑)
大人の修学旅行
──「Lips&Dreams」と「Superstar」のミュージックビデオは八ヶ岳のファームで撮影されたそうですね。
加藤 はい。曲自体は八ヶ岳に移住する前からあったんですけどね。
──どちらのMVもラストシーンがすごくいいですよね。僕も八ヶ岳に行って、加藤さんに笑顔で見送られたいです。
加藤 人生に悩んだ人が八ヶ岳にやって来ては、吹っ切れて帰るんです(笑)。
──「Lips&Dreams」のMVに出演している女性陣はどういった方々なんですか?
加藤 彼女たちは女優さんとダンサーさんです。南翔太くんに紹介してもらいました。
──「Superstar」のMVには南さん自身が出演しているし、2本の映像にはいろんな連続性がありますね。
加藤 「Superstar」は翔太くんをイメージして書いた曲なんです。2人で車に乗ってるとき、「スーパースターになろうよ! なれるはずだよね!」っていう話をよくしていて。
──曲を聴いた南さんはどんな反応をしていましたか?
加藤 ただ「うれしいです」と。どういう意味でうれしいのかわかんないですけど(笑)。
──先日のラジオ(ZIP-FM「MIDNIGHT RUNWAY」3月24日放送回)では加藤さん、安藤さん、南さんの3人でスキーに行った話をされていましたね。
安藤 遊んでばっかりなんですよ(笑)。
加藤 基本遊んでますね。
──音楽以外の場面でもとても仲がいいんですね(笑)。
安藤 全国行ってますからね。神社巡ったり、温泉入ったり。
加藤 50代、60代のおっさんたちが同じ部屋の畳に布団並べて、「誰がどこに寝る」とか真剣に議論してます。大人の修学旅行ですね(笑)。
ZIPPOの音
──本作の表題曲「スモーキーなスコッチと満月と」は、ほかの曲とだいぶ雰囲気が違いますよね。
加藤 そうですね。ジャケットもこの曲のイメージに合わせて、木内達朗さんに描いてもらいました。
安藤 僕らは「Ignition」が好きだったので、アルバムタイトルも「Ignition」にして、ジャケットも「Ignition」に寄せようかなと思ってたんですけど……。
加藤 最後に「スモーキーなスコッチと満月と」ができたんです。
安藤 みんなで温泉に行ったときにできたんですよね(笑)。最初はボサノバ風の曲だったんだけど、生ピアノを使うアレンジにしたら透明感のある曲になって。それでこっちを表題曲にしました。
──「Ignition」とギリギリまで競っていたんですね。「Ignition」の間奏に入っているのはライターの音ですか?
加藤 気付きました? ZIPPOの音です。曲名が「Ignition(点火)」なので、ZIPPOの点火、エンジンの点火、あとは心に火を灯すという意味の点火。3つの要素を入れてます。
安藤 ZIPPOの音、何回も録り直しましたよね(笑)。
加藤 蓋を閉める「カチャッ」っていう音を入れるか入れないか、とかね(笑)。「カチャッ」のあとにタバコの煙を吐く音も入ってるんですよ。「ふー」って。
安藤 南翔太くんがね、煙を吐いてるんです(笑)。
──南さん、ここにも参加しているんですね。
加藤 「ちょっと息のスピード早くない?」とか文句言ったりして(笑)。
安藤 「役者でしょ?」って怒られてましたね(笑)。
70歳になっても
──アルバム発売後、5月27日にはBLUES ALLEY JAPANでリリースイベントが開催されます。
加藤 僕のライブには同世代やご高齢の方も多くいらっしゃるので、会場はBLUES ALLEY JAPANにしました。ライブハウスみたいなところでやるよりも、ちゃんと食事がとれて、お酒が飲めて、っていう大人な空間でやりたいなと。
──すごくぜいたくな時間が過ごせそうです。物販で加藤さんの野菜を買うことはできますか?
加藤 いずれはそういうこともやりたいですね(笑)。フェスとかに八ヶ岳の野菜をばーっと持って行って、みんなに買ってもらうみたいな。
──5年後、10年後に加藤さんがどういう活動をしているのかとても楽しみです。
加藤 10年後には僕もう65歳ですけどね(笑)。ただ、70歳になってもライブをしてたらカッコいいなと思います。「ライブやっても誰も来てくれないから、部屋で1人でやってます」みたいな感じになったら寂しいじゃないですか。毎年聴きに来てくれる人が日本各地にいるような、そういう活動ができたらいいですね。
プロフィール
加藤ヒロ(カトウヒロ)
1969年兵庫県生まれ、広島県育ちのシンガーソングライター。日本および米国公認会計士の資格を持ち、大学卒業後はアメリカ・ニューヨークの会計事務所で勤務。2004年にM&Aアドバイザリー会社を設立した。2015年頃に音楽活動をスタートさせ、2017年1月に初のフルアルバム「ミチシルベ」をリリース。音楽活動の傍ら、八ヶ岳で農園・チェリーズガーデン八ヶ岳ファームを運営している。