ナタリー PowerPush - 鴉
バンドの歴史と変化を詰め込んだ 1stフルアルバム「未知標」
3拍子のバラードで初めて自分がグッとくるものが作れた
──ところで、最後の曲が「未知標」という、アルバムタイトルと同名の楽曲ですね。歌い出しが「大丈夫」という歌詞で始まる、非常に前向きで光を感じさせてくれるナンバーです。
近野 これは、みんなに聴かせようと思ったデモテープがある程度でき上がったときに「なんか1曲足りないな」と思ったんですよ。しかもアルバムの1曲目が足りないと。なので最初はそれを意図して作ったんです。結局みんなで曲順を決めるときに最後にしましたけど。それから僕、3拍子のバラードを作るのがすごく苦手なんですよ。自分でグッとくるものを今まで作ったことがなくて、ある意味、鴉の弱点だったんです。でも今回、初めて作れた。
──「未知標」だけ他の曲と歌詞が違うなぁと思いまして。近野さんの歌詞って、過去や未来をあんまり歌わないんですよね。今感じてること、今欲しいもの、今の欲望、今の願望を歌ってる。
近野 そうですね。今自分がいるところから過去を見つめてることはありますけど。
──でも「未知標」は、行きたい方向を見つめている曲だなぁと。ラストにこういう希望にあふれる曲が収録されたことはリスナーもうれしいのでは、と感じました。そういう、楽曲の持つメッセージがファンに伝わっている実感はありますか?
近野 うん、たまにありますね。「その1行に救われます」ってコメントをいただいたり、自分が意図した方向ではないながらも感動してもらえたり。それには、僕も感動するんですよ。自分が意図したものじゃないけど、そこから彼ら、彼女らなりの感動を見つけてくれたときに「だから音楽っていいんだよな」って思えるから。そういうことがあるから、音楽を続けられるんだろうなとも思うし。
先があると信じて向かっていく気でいるという意思表明
──では「未知標」という曲名をそのままアルバムタイトルにしようと思ったのはなぜでしょう?
近野 「未知標」でたどり着いたメッセージは、たぶん一生思い続けることだと感じたんです。俺は、何かを解き明かせたら次の難題に向かっていく、っていうことを永久に繰り返していくんだろうって。だからアルバムタイトルにふさわしいかなと。それに、このアルバムにはすごく良い曲をいっぱい詰め込んだけど、でもこれで終わりにしたくないっていう気持ちも込めたくて。
──普通は「道標」と表記しますよね。「未知標」にしたのは、この先があるという含みを込めたんですか?
近野 そうですね。「この先があると信じてついてきてください」ということで……いいかなと!
──あははは(笑)。最後の「いいかな」がなければカッコいいのに(笑)。
近野 そういう不安も含めてなので(笑)。「この先があるよ」って自信を持って完璧に言ってるわけじゃなくて、先があると信じて向かっていく気でいますっていう意思表明なんです。
CD収録曲
- 半身創痍
- 夢(アルバムミックス)
- 雨上がりのジルバ
- 待っていてください
- 巣立ち(アルバムミックス)
- 小さな手
- 今日モ旅路ハ雨模様
- 向かい風(アルバムミックス)
- 安物の私達
- 風のメロディ(アルバムミックス)
- 黒髪ストレンジャー(アルバムミックス)
- かわず
- 時の面影(再録)
- 未知標
鴉(からす)
近野淳一(Vo, G)、一関卓(B)、渡邉光彦(Dr)からなる3ピースバンド。2001年に近野を中心に秋田で結成。エモーショナルかつ重厚なサウンドと叙情的な歌詞世界で、地元で絶大な支持を集める。2008年頃より関東地区でのライブ活動を開始。2009年1月にTSUTAYA限定シングル「時の面影」を発表、同年2月に「時の面影」がiTunes Store「今週のシングル」に選ばれ各方面で反響を呼ぶ。2009年3月、初の全国流通作品となるミニアルバム「影なる道背に光あればこそ」を発売。2009年8月には1stシングル「夢」でメジャー進出を果たす。また「夢」がドラマ「怨み屋本舗REBOOT」の主題歌に、4thシングル「巣立ち」がドラマ「闇金ウシジマくん」の主題歌に起用され、話題を集める。2010年12月、1stフルアルバム「未知標」をリリース。