ナタリー PowerPush - 鴉
バンドの歴史と変化を詰め込んだ 1stフルアルバム「未知標」
丈青さんに音楽は自由なんだなって再認識させてもらった
──3曲目の「雨上がりのジルバ」には、SOIL & "PIMP" SESSIONSの丈青さんが参加されています。作業はどのような感じで進めたんでしょう?
近野 僕らが先に録った演奏を聴きながら、それに合わせて弾いていただきました。
──大先輩と一緒にレコーディングしたことで、刺激されたことはありましたか?
近野 刺激も何も、いやぁすごいなぁと(笑)。
渡邉 面白かったね。突然来てもらって、すぐバーッと弾いてくれて、そしてサッと帰った感じ。「おぉー、カッコいいー」と(笑)。
一関 最初に「この感じがいい? それともこっちの感じがいい?」って僕らの意見をすごく聞いてくれて。それで弾いたものは、僕らの想像をはるかに超える演奏になってて、カッコよすぎて後ろで見ながらニヤけてしまいました。
──素晴らしい体験ができたんですね。ところで、そもそもなぜ丈青さんにオファーされたんですか?
近野 ディレクターがアイデアを出してくれて。SOILの音楽を聴かせてもらって、鴉のサウンドに丈青さんの音が入ったら絶対面白いだろうなと正直に思えたので、お願いしました。
──SOILの音楽は、鴉が普段ライブで対バンしているアーティストたちとはまた違うタイプのものですよね。
近野 そうですね。実は最初は、俺なんかが作ったものに対して、丈青さんみたいにたくさんいろんな音楽を知ってる人にかかわってもらうのはなんか申し訳ないなって思ったんです。でも実際に演奏してもらって、音楽は自由なんだなって再認識させてもらいました。
──自由とは?
近野 レコーディングで、丈青さんが僕らが先に録音した演奏とセッションしてるみたいに見えたんですよね。それを見て、人によって聴いてきた音楽や経験は違うけど、与えられた素材を使って自由に楽しむことが良い音楽を生み出すんだな、と改めて感じたんです。
「俺どうせワンマンだし」って認められたからこその変化
──鴉の音楽には、近野さんの独特の美学が息づいてると思います。それは歌詞や音の選び方、楽曲の展開のドラマチックさから感じとれるもので。そこで、昨年8月にメジャーデビューして環境が変わったことが、楽曲制作に与えた刺激や影響があったら教えていただきたいです。
近野 周りからいろんなヒントをもらえるので、意識的にいろいろ変えてみようと試みてます。それに、僕はもともと曲を作り込む体質だったんですけど、最近はだんだんメンバーに任せるようになってきました。
──全部のパートを打ち込みで作り込んだデモを準備するという制作スタイルが変わってきてる?
近野 そうですね。それでも良かったんですけど、同じような作り方を繰り返すよりは、もっと考えるべき大切なことが出てきたんです。歌詞とかサウンドメイクについてとか。俺がやる仕事ってどこまでなんだろうって考えてみたり。前は何もわかんなかったから自分が作りやすい方法をとってたんだけど、最近はこう作るほうがいいってわかってきたような気がするので、表現したいことを伝えるほうに専念したくて。
──近野さんって完璧主義者だと思うんです。でもライブの経験を積んで信頼関係が向上したことで、任せられるところも出てきたのかな、と音源を聴いて感じました。
近野 うん、ライブの経験がいろんなことにつながってるなぁと思います。みんな単純にうまくなってきて、卓さんやナベさんから出てくるフレーズもだんだん豊かになってきてるし。だから、もういいかな、任せたいなって気持ちが自分に出てきて。あと、僕がずっと続けてきた、MTRで全部のパートを自分で作る方法を、ほかにもやってるアーティストさんがいるよなんて話を聞くと「あぁなんだいるんだ……」ってもうやりたくなくなっちゃうんです(笑)。やっぱり、ほかに誰もやってない新しいことをやりたいから。
──正直に言うと、鴉は近野さんのワンマンバンドだと感じてたんです、最初は。でも、そうじゃなくなりましたね。3人だからこそ作り得る楽曲であり、グルーヴ感であり。それが鴉になったと思います。それで、変わったことで次はどこを目指すのかが気になります。
近野 逆に「俺どうせワンマンだし」っていうのが認められたからこそ、いろいろ任せられるようになったんですよ。だから次はもっと、やりたいことを素直に相手に伝えていけるようになりたいですね。
CD収録曲
- 半身創痍
- 夢(アルバムミックス)
- 雨上がりのジルバ
- 待っていてください
- 巣立ち(アルバムミックス)
- 小さな手
- 今日モ旅路ハ雨模様
- 向かい風(アルバムミックス)
- 安物の私達
- 風のメロディ(アルバムミックス)
- 黒髪ストレンジャー(アルバムミックス)
- かわず
- 時の面影(再録)
- 未知標
鴉(からす)
近野淳一(Vo, G)、一関卓(B)、渡邉光彦(Dr)からなる3ピースバンド。2001年に近野を中心に秋田で結成。エモーショナルかつ重厚なサウンドと叙情的な歌詞世界で、地元で絶大な支持を集める。2008年頃より関東地区でのライブ活動を開始。2009年1月にTSUTAYA限定シングル「時の面影」を発表、同年2月に「時の面影」がiTunes Store「今週のシングル」に選ばれ各方面で反響を呼ぶ。2009年3月、初の全国流通作品となるミニアルバム「影なる道背に光あればこそ」を発売。2009年8月には1stシングル「夢」でメジャー進出を果たす。また「夢」がドラマ「怨み屋本舗REBOOT」の主題歌に、4thシングル「巣立ち」がドラマ「闇金ウシジマくん」の主題歌に起用され、話題を集める。2010年12月、1stフルアルバム「未知標」をリリース。