ナタリー PowerPush - KAN

ルックスだけでひっぱって芸能生活23周年 待望の最新アルバムは1曲目からサプライズ!?

フランス人の「哲学的」

──KANさんは2002年から2年半ほどフランス・パリで過ごされていますよね。「オー・ルヴォワール・パリ」の歌詞はやはりフランスでの生活が反映されているんですか?

フランスに住んだことによって感じられたものの考え方というか。まぁフランス人はワケがわからないと言えばわからない、自分だけの哲学をずっと延々言うっていうのが好きですからね。フランスでは「哲学的」っていう意味の「フィロソフィーク」って言葉がよく使われるんです。なんでもいいんですよ、わかんないことは全部「(少しためて)……フィロソフィーク」って言う(笑)。フランス人は基本的にお話好きだし、自分なりの考え方を延々話して、相手の話がわからないときは「とても哲学的」。そういう考え方があるらしいんですね。「意味わかんない」じゃなくて、「哲学的」って言うのが相手にとっての礼儀みたいな。それで家に帰って「あいつの言うこと、全くわかんねぇよ」っていう感じなんでしょうけど。

──あー(笑)、なるほど。

そういう世界をやりたかったんです。ひとつ面白い話があって……フランスには小さな映画館がいっぱいあるんですけど、ある映画館で「座頭市」が上映されたらしいんです。北野武監督が撮った新しい「座頭市」はカンヌ映画祭で賞を取ったり、フランスではすごく評価が高いでしょ。その流れを受けて昔の「座頭市」がリバイバル上映された。でも、本当はこの映画は前編と後編があるのに、前編だけしか上映されなくて。でもフランス人は「うーん、哲学的なラストだった」という感想を持ってたっていう。

──お話の途中で終わっちゃうわけですよね。

うん。日本語的には「後編に続く」となるんでしょうね。間違って前編だけしか持ってこなかったから「まぁしょうがねぇ、終わり」ってことにしたのか。フランス人はそういうところもありますから。

──「そして人生は続く」みたいな解釈なんですかね。

「オー・ルヴォワール・パリ」はそういう世界にしたかったんです。「哲学的」イコール「よくわかんない」かもしれないし、あんまりちゃんとつながってなくも、話が飛んでてもいいなと思う。どこか1行だけ気に入ったところを切り取って、自分なりに勝手に解釈するみたいな、そういうのがフランス式楽しみ方でいいかなと。

「よければ一緒に そのほうが楽しい」

──「よければ一緒に」は通算32枚目のシングルとして、アルバムに先駆け2月にリリースされました。この曲は基本的に2つのメロディだけで構成されたシンプルな曲ですが、いつまでも繰り返し聴いていたくなる、ポップスの極みのような作品ですね。

あの16小節のメロディは2年ぐらい前に思いついて、特に無理して先を作らずに置いといたんです。それで去年「あまり余計なことをしないで延々繰り返すだけにしよう、あの16小節をただ繰り返すだけでやれるかな」と漠然と考えて。言葉を乗せるのは……この曲に限らず多くのパターンは同じなんですが、先にメロディがあって、音として響きのいい言葉や単語を探していくうちに、どういう歌詞にしたらいいのかが見えてくる。この曲の場合は「よければ一緒に そのほうが楽しい」というフレーズが乗ったときに「よし、これの繰り返しだ」というのがなんとなく見えたんです。

ライブ写真

──この1行は強いですよね。ラブソングとして、この1行ですべて言い切っている。

この曲はホント最初の1ブロックで全部言い切っていて、あとはそのバリエーションだけなんです。そのあとは、まわりくどくしつこくという僕の人間性がよく出ている(笑)。1998年の「TIGERSONGWRITER」というアルバムに入っている「Song of Love -君こそ我が行くべき人生-(英語版)」という曲も同じで。最初に英語が浮かんで、日本語の歌詞が書けないまま「もういいや、これで出しちゃおう」と思って「英語版」って言って出したんですよ。日本語版は存在してないのに(笑)。他の曲は最後まで聴いて「おお、そういう歌なのか」という内容だったり、途中でフェードアウトして、それこそ“哲学的”な終わりになっちゃうような曲が多いんですけど。

──最後のブロックの「歌詞がなければラララララララで歌えばいい」も、音楽そのものの楽しみ方が表されているように感じました。

「よければ一緒に そのほうが楽しい」というフレーズに合うあらゆるシチュエーションをまず考えて。結局ここに入らなかったパターンもいろいろあるんですけど、それをどう並べていくと一番いいかを考えていくうちに、まぁこれだけ長い曲なので、最後の歌詞がめちゃくちゃ重要になってくると思ったんです。この曲は、去年の秋の弾き語りライブで未発表曲として歌うことに決めてたんですよ。その前提もある中で、最終的にはみんなで「ララララ」と歌う終わり方がいいだろうと。そこに、なんとなく考えていた「歌詞がなければララララ」を持ってきたらしっくりと収まったんです。

ニューアルバム「カンチガイもハナハダしい私の人生」 / 2010年3月10日発売 / 3200円(税込) / UP-FRONT WORKS / zetima / EPCE-5700~5701

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CD収録曲
  1. REGIKOSTAR ~レジ子スターの刺激~
  2. 小学3年生
  3. ピーナッツ
  4. バイバイバイ (studio recording)
  5. 青春の風
  6. ordinary days
  7. オー・ルヴォワール・パリ
  8. よければ一緒に (full size)
  9. 予定どおりに偶然に (with ASKA)
DVD収録内容

約50分収録 / オーディオコメンタリー付

  • カンチガイもハナハダしい私のレコーディングドキュメント
  • よければ一緒に studio live
KAN(かん)

1962年、福岡県生まれのシンガーソングライター。1987年にデビューし、1990年にリリースしたシングル「愛は勝つ」が大ヒット。200万枚を超えるセールスを記録し、1991年には日本レコード大賞も受賞する。2002年からパリに移住。帰国後の2006年にはアルバム「遥かなるまわり道の向こうで」をリリースし、音楽シーンに完全復帰を果たす。その他、今井美樹やSMAPなどへの楽曲提供でも知られ、桜井和寿、aiko、平井堅ら、KANのファンであることを公言するアーティストも多い。