神山羊「恋巡り」インタビュー|新曲は「色香水」の続編 “青春と懐かしさ”を新たな視点で描く (2/2)

懐かしさを感じる曲に“今”の雰囲気を

──神山さんは、楽器のレコーディングに起用するミュージシャンの人選にも毎回こだわっていますよね。「Endroll」の演奏はヒトリエのシノダ(G)さん、イガラシ(B)さん、ゆーまお(Dr)さんでしたし。

「Endroll」は自分史上もっとも激しい曲になったので、絶対にヒトリエのタイトな演奏が合うと思って。実際、最高でした。

──「Endroll」はインダストリアルロック的なソリッドかつノイジーな曲で、もう、全部の音がデカいみたいな。

全部デカいです(笑)。「Endroll」はアニメ「BLEACH 千年血戦篇-訣別譚-」のエンディングテーマなので、曲を作ったのはアニメが放送される半年ほど前になるんですけど、ライブでガツンとテンションを上げたいと思って作った曲でもあって。こないだのワンマンも「1曲目を『Endroll』にしよう」というところから組み立てていきました。そういう意味では、最初のほうで話した「ライブをやりたい」という気持ちに弾みを付けた曲と言えるかもしれません。

──ポップで軽やかな「恋巡り」とはサウンドの方向性がまったく違いますね。

僕はサウンドが固定化されないよう常に心がけているし、それが僕の作風の1つだと思っています。ファンの皆さんも慣れてきたんじゃないかな(笑)。

──その「恋巡り」の参加ミュージシャンは、ベースがOmoinotakeの福島智朗さん、ドラムがChilli Beans.のサポートなどをなさっているYuumiさんですね。

エモアキ(福島)さんに関しては、まずOmoinotakeが「ホリミヤ -piece-」のオープニングテーマを担当されていることがきっかけとしてあって。そのオープニングテーマ「幸せ」を聴いて、エモアキさんのベースが「恋巡り」にも合いそうだと思ってお願いしたところ、快く引き受けてくださいました。

神山羊

──先ほど「骨太な感じも欲しい」とおっしゃいましたが、ベースだけ妙にゴリッとしていますよね。先の「Endroll」もそうでしたが、神山さんの曲はベースが強い。過去にも「生絲」と「セブンティーン」(2022年4月発売の1stアルバム「CLOSET」リード曲)では、なかむらしょーこさんを起用していました。

そうそう。しょーこさんのベースも最高です。やっぱり自分もベーシストなので、ベースの音に対してはけっこうこだわりが強くて、よく聞こえていないと不安になっちゃいますね。「Endroll」のときも、エンジニアさんに「ベースの音を大きくしてください」と何回言ったかわからないです。

──では、ドラムをYuumiさんにお願いした理由は?

抽象的な言い方になってしまうんですけど、僕はChilli Beans.というバンドにすごく“今”を感じているんですよね。今、街中やサブスクとかでよく鳴っている音楽であり、今の若者のファッションやカルチャー、生活に近い音楽みたいな。今回「恋巡り」という懐かしさを感じる曲を書いたので、そこに“今”の雰囲気をエッセンスとして入れたいと思ってお願いしました。レコーディングでは、バンド感を出したかったというのもあってベースとドラムは「せーの」で録ってもらったんですけど、お二人ともバッチリでしたね。

──「恋巡り」のボーカルに関しては「色香水」の延長にあるといいますか、さわやかで、かつどこか色気がありますね。

そう聞こえていたならよかったです。「色香水」を歌ったときの発声とかを思い出しながら録ったんですけど、「恋巡り」はめちゃくちゃ歌うのが難しいので苦戦はしましたね。

──くどいですが、いい曲ですね。

何度でも言ってください(笑)。実はドラムのYuumiさんも、音源をお送りしたときに「いい曲ですね。参加できてうれしいです」と言ってくださって。自分でもいい曲が書けたと思っているので、あとは皆さんにたくさん聴いてもらいたいです。

死ぬまで曲を書き続けるんじゃないかな

──最初の話に戻ってしまいますが、初のワンマンライブを成功させ、神山さんとしてはひと区切りついて……。

めっちゃスッキリしました。肩のあたりに取り憑いていた怨念っぽいやつが取れた感じです(笑)。

神山羊

──スッキリして、新曲もリリースして、次のことは考えています? というか、すでに動き出しているとは思いますが。

今の気持ちとしては「早くまたライブがしたい!」というのがめちゃくちゃ大きいですね。もちろん楽曲のリリースも……まだ詳細は発表できないんですけど、わりとすぐ新しい曲が出ます。その曲も「恋巡り」とはだいぶ雰囲気が違うので、これからもジェットコースターみたいな感じで、いろんな作品を届けていきたいです。

──ライブを開催できたことが、制作面でもいい影響を及ぼしていたり?

ライブが終わってまだ数日しか経っていないので(※取材は9月下旬に実施)、とりあえず今はゆっくりお酒を飲んでいます(笑)。でも、確かに自分の中で楽曲制作のスイッチが入る音がしたというか、自分にはまだまだ作りたいものがいっぱいあるということにより自覚的になったので、ちょっと山にでもこもろうかなと。

神山羊

──アルバム「CLOSET」リリース時のインタビューで、神山さんは「クローゼットの中で曲を作っている」とおっしゃっていましたが、そのクローゼットから出て(参照:神山羊「CLOSET」インタビュー|クローゼットから多彩な音楽の世界へ導く、待望の1stフルアルバム)。

また戻るかもしれませんけど、今はちょっと外に出ていきたい時期で。キャンプ場とかで曲を作ってみたい。

──アウトドアDTM。

あと、車の中で作りたい。CHO CO PA CO CHO CO QUIN QUINというバンドが車の中で曲作りとか録音とかしているんですけど、ああいうのにすごく憧れますね。まあ、僕の場合はバンドじゃなくて1人なので、寂しいんですけど。

──神山さんはもともとバンド出身ですが、バンドをやりたい欲求は?

あります。でも、神山羊として活動しながら大っぴらにはできないので、例えばマンウィズ(MAN WITH A MISSION)みたいな覆面バンドという形でこっそりできないかなと、ちょっとだけ考えています(笑)。やっぱり1人じゃできないこともやってみたくて。それでいうと、バンドじゃないんですけど、去年の8月に配信リリースした「Summer Time feat. 池田智子」はまさに「1人じゃできないこと」をやりたくて、池田智子さんをゲストボーカルにお迎えして一緒に作った曲なんですよ。

──ミュージシャンに限った話ではないですが、やりたいことがたくさんあるというのはとても大事なことだと思います。

「書きたいことがなくなった」と言う人もいるんですけど、そういうのを聞くと僕は「すごいな。書きたいことが尽きるほどいっぱい書いたのか?」と不思議に思ってしまうんですよ。たぶん、僕は書きたいことが尽きることはないので、なんだかんだで死ぬまで曲を書き続けるんじゃないかな。

プロフィール

神山羊(カミヤマヨウ)

サウンドクリエイター&シンガーソングライター。「有機酸」名義で2014年に11月に初のVocaloid楽曲「退紅トレイン」をニコニコ動画に投稿し、キャリアをスタートさせる。自身の声によるセルフカバーがWeb上で話題を呼び大きく注目される中、2018年11月に神山羊名義では初の楽曲「YELLOW」をYouTubeに公開し、昨年12月に1億再生を記録する。「YELLOW」も収録した1stミニアルバム「しあわせなおとな」を2019年4月にプライベートレーベルe.w.eからリリースし、CDデビューを果たす。2020年3月、テレビアニメ「空挺ドラゴンズ」オープニングテーマのシングル「群青」でメジャーデビュー。2022年4月に1stフルアルバム「CLOSET」を発表した。2023年8月にはテレビアニメ「BLEACH 千年血戦篇-訣別譚-」エンディングテーマとして、ヒトリエを演奏に迎えたシングル「Endroll」をリリース。10月に「色香水」の続編となるアニメ「ホリミヤ」インスパイアソングの新曲「恋巡り」をリリースした。