神山羊「CLOSET」インタビュー|クローゼットから多彩な音楽の世界へ導く、待望の1stフルアルバム

神山羊の1stフルアルバム「CLOSET」が、4月27日にリリースされる。

このアルバムには彼が2018年に“神山羊”として初めて発表した楽曲「YELLOW」を含むインディーズ時代の楽曲3曲の再レコーディングバージョン、テレビアニメ「空挺ドラゴンズ」のオープニングテーマに使用されたメジャーデビュー曲「群青」といった代表曲、さらに新曲5曲を収録。神山のこれまでの活動のすべてを振り返ることができる作品となっている。

待望のフルアルバムを完成させた現在、神山は自身の変化や進化をどのようにとらえているのか。またアルバムの制作過程や各曲に込めたクリエイターとしての狙いはどのようなものだったのか。ロングインタビューを通じ、本人に語ってもらった。

取材・文 / 須藤輝撮影 / 斎藤大嗣

「これは僕自身の曲だから」と言えるようになった

──神山さんは2017年にボカロP「有機酸」名義でアルバムを1枚、インディーズ時代の2019年に「神山羊」名義で2枚のミニアルバムをリリースしていますが、本作「CLOSET」が神山さん名義で、かつメジャーデビュー後初のフルアルバムになります。

はい。

──そこに至るまで、神山羊として音楽活動を開始して約3年半、メジャーデビューして約2年という期間があったわけですが、その間に音楽制作に対するスタンスなどに変化はありました?

うーん……ありましたね。大きいところでいうと、どんなものを作るときでも、自分自身と向き合う時間がどんどん長くなっています。当然、そこにはコロナ禍というのも間違いなく影響していて。ちょうど去年の今頃、「色香水」(2021年3月発売の2ndシングル)を出したあと、暗黒の時代がやってきたというか。

──その「色香水」のインタビューのとき、2020年春の時点で「なんで音楽を作らなきゃいけないんだろう?」みたいな状態にまでなったとおっしゃっていましたが……(参照:神山羊「色香水」インタビュー)。

それをさらに上回る暗黒期があったんですけど、たぶんそのタイミングで音楽に関わっていく姿勢が大きく変化していて。フィクションを作らなくなったというか、よりリアリティのあるものを求めるようになって、なるべく自分を出すようにしてます。

神山羊

──神山さんはメジャーデビューシングル「群青」(2020年3月発売)リリース時のインタビューで、有機酸以前にバンドをやっていた時期に「自分のことは書かないというルールで曲を作っていた」ので、その名残りがあるというお話もされていました(参照:神山羊「群青」インタビュー)。

ああー、そうでしたね。

──しかし今回のアルバムを聴いて、歌詞がよりパーソナルになっていると感じたというか。「これって神山さん自身のことかな?」みたいな。

そういうことだと思います。やっぱり、自分と距離のあるものをあんまり作らなくなっているかもしれないですね。結果として、作った楽曲が世に出たあと、その楽曲に対してより責任を持てるようになったというか、「これは僕自身の曲だから」と言えるようになっています。

楽曲制作はクローゼットの中で

──そのような考え方の変化もあった中で、アルバムの構想もしていたんですか?

いや、実は僕が2018年に「神山羊」として初めてYouTubeに投稿した「YELLOW」(2019年4月発売の1stミニアルバム「しあわせなおとな」収録曲)という曲を作ったときから、フルアルバムを作るときはタイトルを「CLOSET」にしようと決めていて。

──確かに「YELLOW」の歌詞に、カタカナで「クローゼット」という言葉が出てきますね。

そうなんですよ。だからアルバムの構想としては初めからあったんです。

──そのクローゼットというのは、神山さんにとって何か特別なモチーフだったりするんですか?

はい。僕の楽曲制作は、今でもそうなんですけど、クローゼットの中で行われるんですよ。

──へっ?

「へっ?」ですよね?(笑) でも、クローゼットの中で曲を作っているんです、僕。

──神山さんの家のクローゼット、広いんですか?

広くはないんですけど、服は入れていなくて、ちっちゃい椅子と机とアコギだけ置いていて。まあ、作業部屋は作業部屋でちゃんとあるんですけど、楽曲の着想の段階から、つまりスタートから編曲を始める前ぐらいまではクローゼットの中なんですよ。たぶん、僕が昔すごく狭い部屋に住んでいたときの名残りなんですけど。だから僕としては、クローゼットという狭い空間で作られた楽曲が、その楽曲ごとのテーマに沿ったいろんな世界に接続してくれる、みたいな感じですね。

──例えば引越しをするとき、内見ではまずクローゼットからチェックしたり?

そういうとこ、ありますね。「この広さなら、椅子に座って回転できる」とか(笑)。とにかく“音と自分だけ”みたいな状態が必要で、特に作詞において、個人的なことを書こうとすればするほど、クローゼットにいる時間が大事になります。

神山羊

今、歌える歌を歌った

──今回のアルバムには、今お話に出た「YELLOW」と、「青い棘」(1stミニアルバム「しあわせなおとな」収録曲)、そして「CUT」(2019年10月発売の2ndミニアルバム「ゆめみるこども」収録曲)が「CLOSET ver.」として再録されています。3曲とも神山さんのインディーズ時代の代表曲と言って差し支えないと思いますが、それ以外に再録した理由はあるんですか?

一番大きいのは、3曲とも「CLOSET」というテーマに沿って作った曲だったからです。ほかにもそういう曲はあるんですけど、この3曲は特にそのテーマ性が高いので。

──なるほど。「YELLOW」に関しては、先ほども言いましたが……。

「クローゼット」って言っちゃってるし。

──ボーカルに関しては、例えば「青い棘 -CLOSET ver.-」はややトーンを落としたルーズな歌い方が、ダウナー気味のR&Bトラックによりフィットしているように感じました。

「青い棘」のリリースは3年前だけど、曲を書いたのは4年前なので、当時の僕はまだ若かったんでしょうね(笑)。4年もあれば人は変わるでしょうし、自分としても歌で表現できることが増えたという実感はあります。

──あるいは「CUT」にしても、オリジナルはちょっと癖があるというか、粘り気のあるボーカルだったと思います。

うんうん。そうかも。

──それが「CLOSET ver.-」ではより乾いた、サラッとしたボーカルになっていて。聴く人によって好みはあると思いますが、乾いたボーカルのほうが「CUT」という言葉の響きにもフィットしているのではないかなと。

そう……なんだ? いや、うれしいです(笑)。トラックとのフィット感に関してはミックスでかなり目を光らせていた部分もありますけど、ボーカル面に関しては3曲とも、今、歌える歌を歌ったという感じですね。あくまでも歌のバージョン違いというか、だからアレンジは変えずにおこうと思って。3曲ともトラックにはほぼ手を加えませんでした。