神山羊|インターネットの海を飛び出した神山羊はどこへ向かうのか

ボカロP・有機酸としてキャリアをスタートさせ、数々のヒット曲を発表してきた神山羊が4月3日にミニアルバム「しあわせなおとな」でCDデビューを果たす。

昨年11月にYouTubeに神山羊名義で初めて公開した「YELLOW」のミュージックビデオは3カ月という短期間で1000万回再生を突破。King GnuやTempalayのMVなどを手がけるクリエイティブレーベル・PERIMETRONとタッグを組んで制作した初めての実写MV「青い棘」は、ボカロPとしてキャリアをスタートさせたアーティストでは珍しいR&Bテイストのサウンドと作り込まれた世界観の映像で話題を集めている。音楽ナタリーでは謎多き神山にインタビューを実施。彼のルーツを探りながら、神山羊としてどのような活動をしていきたいのかなど話を聞いた。

取材・文 / 清本千尋

可能性を感じたボカロシーン

──まずは神山さんの音楽的なルーツから探っていければと思います。どんな音楽を聴いて育ちましたか?

神山羊

ざっくり言うと、1990年代のR&Bやポップスが好きでした。親の影響でよく宇多田ヒカルさんや椎名林檎さん、ジャニーズグループの曲を聴いていましたね。あとフリッパーズ・ギターが好きで、小沢健二さんの音楽からはすごく影響を受けていると思います。

──神山さんの今の音楽はそのルーツを感じられるものになっていますよね。自分が“聴く側”から“やる側”になっていったのはいつ頃なんでしょうか。

中学生の頃に初めてバンドを組みました。高校時代からバンドをやっていて、真剣に音楽に取り組んでいたんですけど、就職を機に一度音楽を辞めて。だけど、せっかく就いた仕事があまりうまくいかなくて辞めてしまって、とりあえず上京したんです。なんのあてもないのに(笑)。

──そうだったんですか。上京を機に仕切り直して音楽活動を始めるぞ、と?

いや、最初は音楽をやるつもりじゃなくて、違う仕事をしていたんですよ。でもその仕事も長くは続かなくて……そんな中、たまたま縁があってDTMソフトの「Cubase」を手に入れて、曲を作ってみようかなと思ったんですよ。それまでは完全にプレイヤーとしてバンドにいて、作曲の経験はなかったので、曲を作ったのはそのときが初めて。

──その初めて作ったという曲が有機酸名義で初めてニコニコ動画に投稿した「退紅トレイン」だったんだとか。

そうです。作って2、3日経ってくらいかな、ニコニコ動画に投稿しました。この曲は最初全然聴かれなかったんですが、歌い手さんたちがカバーをしてくれたことで火が点いて。

──有機酸としてニコニコ動画に作品を投稿し始めたのは、ボカロPとして活躍していきたいという思いがあったからですか?

いえ、最初は完全に趣味でした。普通に仕事もしていたし、当時は動画の再生回数もなかったので。それでもバンド時代に自主制作で映像を作ってYouTubeに投稿した頃とは比べ物にならないくらい聴かれたんですよ。ボカロを通じて、こんなに多くの人が興味を持ってくれるんだと可能性を感じて、曲を作っては投稿していくようになりました。

転機となったバルーン=須田景凪との出会い

──神山さんは、2017年に須田景凪名義でデビューしたボカロPのバルーンさんと仲良しですよね。

自分の音楽キャリアの中で彼との出会いは大きかったです。Vocaloidを使って音楽を作るのは自分にとって最初は趣味だったんですけど、本気でVocaloidと関わるようになったのは完全にバルーンのおかげで。彼との出会いによって、自分とVocaloidのあり方が変わっていったんですよね。

──須田さんとはいつ頃から仲良くなったんですか?

彼のほうが1年早くボカロPとして活動を始めて、2年前の即売会で初めて会ったんです。お互いの作品をいいなと思っていてネット上では交流もあったんですけど、実際に会ってからは一緒にごはんに行ったり、作品を作ってイベントに出たりするようになって。須田景凪としてライブをするときにも声をかけてくれて、ベースを弾かせてもらいました。

──そうだったんですね。SNSを見て、2人は親友のような関係なのかなと思っていました。

仲いいっすね。ずっとLINEしてますから。ここまで仲良くなったのは……2人共、友達が多いタイプじゃないからかも(笑)。

──今回CDデビューをすることで、再び須田さんと同じ土俵に立つことになりますね。

彼が須田景凪としてデビューした頃、まさか自分もこういう形でCDをリリースすることになるなんて思っていなかったんですよ。もともとはプロデュースや歌うことなどにとらわれず、自分が作りたい作品を発表していきたいと思っていたので。

──そうだったんですか。ではなぜ今回こういう形で?

ニコニコやYouTubeみたいな投稿サイトで生まれた音楽シーンでは“隠れながらやっていく”というのがマナーとしてあって、自分自身を表に出すことは控える風潮があるんですよ。でも楽曲を作っていく中で、Vocaloidではなく自分のフィルターを通して作品を出したい、自分の声でチャレンジしたいという思いが生まれてきたんですよね。それが正解な楽曲もあると気付いたというか。そこを突き詰めてやりたいと思いきれなかったときに、今のe.w.eチームと出会って背中を押してもらいました。インターネットシーンから飛び出して、日本のポップスシーンに向けた作品づくりを意識したので、名義も有機酸ではなく神山羊としてリリースすることにしたんです。