闇と光の両方を素の自分で歌える
吉田 今、柳田の話を聞きながら歌詞を読んでたんだけどさ、6年前にしてはわりとストレートじゃない? あの頃はけっこうひねくれた歌詞を書いてたから、「May」はわりと最近作った曲みたいだなって、俺は思ったんだけど。
柳田 いや、俺は本来ポップな人間なんだよ。最近、神サイを始める前の弾き語り曲を聴き直したりしてるんだけど、どの曲も恥ずかしくなるくらいストレートで。ピュアすぎてヤバいよ。「星を見に君を外へ連れ出した」みたいな曲もある。神サイを始めてから根暗になりました(笑)。
──音楽性が広がっていく中で、書きたい言葉が変わっていった側面もあるでしょうしね。
柳田 そうですね。1人で弾き語りをやっていた頃はポップでキャッチーな曲しか書けなかったんですよ。だけど神サイを組んでから、ポストロックやシューゲイザーを知ることができた。僕がコアな音楽を知れば知るほど、“闇属性”のバンドになっていきましたけど、紆余曲折あって今は闇と光の両方を素の自分で歌えています。神サイの音楽性は、メンバーの存在とともにあるんですよ。桐木はもともとハードコアバンドをやってたから、その影響で自分もそっち方面の音楽を聴くようになった。吉田はポストロックやマスロックを教えてくれた。黒川は最近洋楽をたくさん聴いてて、もともとJ-POPばかり聴いていた僕にたくさんのことを教えてくれる。今回「May」をバンドでアレンジしたのは、そういう道のりを経ての原点回帰だと思います。6年前にタイムスリップするような感覚で、今の4人でこの曲を鳴らしていることに、僕はすごく意味を感じてます。
──形にするタイミングはいろいろあった中で、なぜ今実現したのかが気になります。柳田さんの中で「1人で弾き語りで歌っていた曲をメンバーに共有するハードルが低くなった」「メンバーのことをより信頼できるようになった」という感覚はありますか?
柳田 あー、それは確かにあるかもしれないです。ホールツアーで「告白」をあのアレンジでやったのもそうですけど、「託したい」という気持ちはけっこう強いですね。ツアーファイナルの映像を観てて気付いたんですけど、メンバー同士、よく目を合わせるようになったんですよ。そういう小っちゃいけど大きな進展が積み重なって、今、心をすごく開けているのかも。前まではデモをどの段階でメンバーに共有するかってけっこう考えちゃってたんですけど、今はとにかく「早く聴かせたい」という気持ちになってます。なので、今もいろいろなデモをメンバーに聴いてもらってるところです。
言葉にせずとも共有されるイメージ
──冒頭で昨年のツアーについて伺った際、「ミュージシャンとしてホール会場で音楽を鳴らすことそのものを楽しめた」とおっしゃってましたが、そういう現在のバンドのモードがこの曲にも表れているように思います。
柳田 音数が少なくて遊び甲斐のある曲なので、「ただのバラードでは終わらせないように」とアレンジもミックスもめっちゃこだわりました。例えば神サイのボーカルのミックスはいつもローミッドあたりをふんだんに出しているけど、今回はあえて削ってレンジを上に持っていったりとか。あとドラムのビートがいいアクセントになってると思います。ホールツアーの移動中、空港でスネアの位置についてひたすら言い合いっこしたよね?
黒川 そんなこともあったね。
柳田 黒川と2人で手荷物預けの列に並びながら、パソコンを引っ張り出して「スネアはここにあるからいいんだ」「いや、それは違う気がする」「両方試してみようよ」みたいな(笑)。そういうことをずっとやってました。
──こだわりのドラム含め、「ただのバラードでは終わらないように」という意識は各楽器のアプローチからすごく伝わってきました。
柳田 4人で僕んちに集まって外タレのライブ映像を観まくる会をここ1、2年で何回かやってるんですけど、その会がけっこう大事で。ヒントや発見がたくさんあるのはもちろん、今誰がどういう音楽を聴いてるとか、何にハマってるとか、そういう部分を共有できるから、いざ曲作りを始めたときに、みんなの向かう方向がひとつになりやすいんですよ。
吉田 「May」のアレンジを考えるときも「洋楽っぽいニュアンスを出したいよね」というふうに、楽器隊は自然と共通の意識を持てていたと思います。
桐木 しゃべらなくてもイメージが共有できていることが増えましたね。自分はこの曲を聴いて「ふっかふかの羽毛布団みたいだな」と思ったんですけど、レコーディングで柳田も同じことを言ってたので。
柳田 「羽毛で」って? そうだっけ?
桐木 「布団みたいな感じで」って。
柳田 ああ、それは言ったかもしれない(笑)。
「楽しいからやる」という感覚は忘れずに
──音楽的な知識や実力をつけた今の自分たちで、昔からあった曲を形にしていく作業はいかがでしたか?
柳田 面白かったですね。「May」をライブでやるのも楽しみです。またバンプの話になっちゃうんですけど、こないだ観に行かせてもらったのが「orbital period」という2007年リリースのアルバムのリバイバルツアーなんですよ。ステージ上の藤くん(藤原基央)が、「カルマ」のミュージックビデオの藤くんのように見えて。藤くんは歌いながら2007年にタイムスリップしてるのかなって、なんとなく思ったんです。同じように、ライブで「May」を歌うときは自分も6年前にタイムスリップできるだろうし、レコーディングでは6年前の自分として歌っていただろうし。その感じがすごく面白いなって思います。
──今回のように、以前からあった曲をこの4人でリメイクしていく機会は、今後またありそうですか?
柳田 そうですね。眠っている曲はまだまだあるし、今回きりにする必要はないと思ってます。続けていったら、音楽をもっと楽しめそうだなって。夫婦でもなんでもそうですけど、長く一緒にいたら、だんだんしゃべらなくなってくるじゃないですか。だけど僕らはむしろ前よりもピュアに音楽の話をするようになったんですよ。こないだもColdplayのライブを4人で一緒に観に行ったし。こういうバンドって意外と少ない気がしていて。
──どうしてそうなれたんだと思いますか?
柳田 たぶん、トリガーとなったのはリズム隊の2人です。
吉田 2人は「どれだけスタジオにいるん?」ってくらいよく一緒にスタジオに入ってるし、リズムについてああでもないこうでもないとよく話しているから、一緒にいると刺激をもらえるんですよ。影響を受けて俺も練習の仕方がけっこう変わって、スタジオに入る機会が増えたんですけど「こうやってギターの練習や分析をしてる時間、俺、けっこう好きだな」と気付くことができて。
柳田 僕は最近リズムを作るのがとにかく楽しくて。リズムを担う楽器もめっちゃカッコいいんだと2人に気付かされました。なので、最近はベースの練習をめっちゃがんばってます。
黒川 まあ、こっちとしては、楽しいからやってるだけですよ。「神サイをよくしたい」という気持ちはもちろんありますけど、根本にあるのは「楽しいからやる」。それだけ。
桐木 うんうん。
柳田 感覚的な部分は大事にしたいよね。音楽を研究すればするほど、よくも悪くも思考がロジカルになっていくと思うんですよ。だけど「数打ちゃ当たる」みたいな思考になったら、それはもはや芸術じゃないし。教科書に従うように作業的に曲を作るようになったら、「そんなの誰でもできる」という話になるし。たぶん、そうじゃないところに価値があるので、いろいろなことができるようになってきたからこそ、「楽しいからやる」という感覚は忘れずにいたいなと思います。
──リリース後には大規模なツアーがありますね。3~5月のライブハウスツアー「近接する陽炎」と6~7月のZeppツアー「開眼するケシの花」、両方合わせて33公演です。
桐木 このタイミングでこれだけの長さのライブハウスツアーを回れるのは、すごくいいことだと思っています。最近は「うまくなりたい」「いい曲作りたい」「いい演奏したい」と未来のことばかり考えていたけど、さっき柳田や黒川が言っていたように、今の自分が立っている場所とか、自前のよさみたいなものをちゃんと見つめ直したほうがいいと思うので。
柳田 武者修行みたいなツアーになりそうですね。僕らはコロナ禍の2020年にメジャーデビューしたので、それ以降、色んな県のライブハウスに細かく行けてないんですよ。だけど今回やっと行ける。黒川の地元でインディーズ時代にめっちゃ出させてもらってた小倉FUSEとか、かつてよく行っていたハコに「ただいま」とようやく言いに行けるのがうれしいし、初めて行く沖縄も楽しみだし、北海道は大好きなので3公演やります(笑)。バンドの本分はやっぱり曲を作ってツアーを回ることなので。初めての大規模ツアー、楽しみながら巡りたいです。
公演情報
Live Tour 2024「近接する陽炎」
- 2024年3月15日(金)宮崎県 FLOOR
- 2024年3月17日(日)鹿児島県 SR HALL
- 2024年3月19日(火)熊本県 Django
- 2024年3月20日(水·祝)長崎県 長崎アストロホール
- 2024年3月26日(火)静岡県 LiveHouse 浜松 窓枠
- 2024年3月28日(木)京都府 KYOTO MUSE
- 2024年3月30日(土)島根県 LIVE&STUDIO 松江B1
- 2024年3月31日(日)山口県 周南RISING HALL
- 2024年4月2日(火)福岡県 小倉FUSE
- 2024年4月5日(金)北海道 CASINO DRIVE
- 2024年4月7日(日)北海道 帯広MEGA STONE
- 2024年4月11日(木)広島県 広島CLUB QUATTRO
- 2024年4月13日(土)愛媛県 WStudioRED
- 2024年4月14日(日)香川県 DIME
- 2024年4月16日(火)徳島県 club GRINDHOUSE
- 2024年4月18日(木)兵庫県 MUSIC ZOO KOBE 太陽と虎
- 2024年4月20日(土)奈良県 奈良NEVER LAND
- 2024年4月21日(日)滋賀県 滋賀U★STONE
- 2024年4月23日(火)長野県 NAGANO CLUB JUNK BOX
- 2024年4月25日(木)栃木県 HEAVEN'S ROCK Utsunomiya VJ-2
- 2024年5月1日(水)新潟県 CLUB RIVERST
- 2024年5月2日(木)富山県 Soul Power
- 2024年5月8日(水)茨城県 mito LIGHT HOUSE
- 2024年5月9日(木)群馬県 前橋DYVER
- 2024年5月15日(水)宮城県 Rensa
- 2024年5月17日(金)岩手県 Club Change WAVE
- 2024年5月22日(水)三重県 M'AXA
- 2024年5月25日(土)沖縄県 桜坂セントラル
Zepp Tour 2024「開眼するケシの花」
- 2024年6月15日(土)愛知県 Zepp Nagoya
- 2024年6月16日(日)大阪府 Zepp Osaka Bayside
- 2024年6月22日(土)北海道 Zepp Sapporo
- 2024年7月6日(土)福岡県 Zepp Fukuoka
- 2024年7月14日(日)東京都 Zepp Haneda(TOKYO)
プロフィール
神はサイコロを振らない(カミハサイコロヲフラナイ)
2015年に福岡で結成された、柳田周作(Vo)、吉田喜一(G)、桐木岳貢(B)、黒川亮介(Dr)からなるロックバンド。2020年に楽曲「夜永唄」がバイラルヒットし、同年7月には配信シングル「泡沫花火」でメジャーデビューを果たす。2022年3月にメジャー1stアルバム「事象の地平線」を発表。2023年9月に2ndフルアルバム「心海」をリリースし、10月から12月にかけて初の全国ホールツアーを行った。2024年3月には新曲「May」が配信され、ライブハウスツアー「近接する陽炎」がスタート。6月からはZeppツアー「開眼するケシの花」を実施する。
神はサイコロを振らない (@kami_sai_official) | Instagram