音楽ナタリー Power Push - 上白石萌音
歌うように演じ、演じるように歌う
自分の声が好きになれた「君の名は。」
──映画「君の名は。」で宮水三葉という役を演じたことはご自身にとってどんな経験でしたか?
アニメーションに声を当てたことで、私の世界が広がったと思います。今まで自分の声を意識したことが全然なかったんです。でも新海監督に「上白石さんの声が好きです」と言っていただいて、三葉という女の子を通して私自身の声がどういうものか気付いたんです。この声帯でこんな声も出せるんだって。自分の中で今まで無意識のうちに縛っていたものが解けたような感覚があって、この声でどこまでできるんだろう?っていう気持ちが生まれたんです。でも何より一番大きいのは自分の声が好きになれたことですね。
──女優や声優、歌手と、いろんな肩書のお仕事をされていますが、表現としては一貫した思いがあるのかなと思います。もっと言うと、萌音さんは演じていても歌うように台詞を放つし、語りかけるように歌を歌われますよね。
そう言っていただけてうれしいです! 自分の理想として、歌うように演じて、演じるように歌いたいという気持ちがあるので。映画だったり音楽だったりその世界はまったく違うけど、思いを伝えるとか、自分を表現するとか、誰かと気持ちを共有するとか、そういう意味では全部同じことなんだと思うんです。演じたり歌ったり、どちらもやっていることでどちらかの邪魔になることは絶対にない。なのでこれからも目の前にあることに打ち込んでいったら、それがまたどこかに自分を連れて行ってくれるのかなと思っています。
──いろんなお仕事を通じて世界がどんどん広がっている最中だと思うんですけど、ご自身の中で表現をすることがなぜ大事なのか、考えたことありますか?
ちゃんと考えたことはないんですけど、表現をすることがすでに私の一部になっている気がするんです。ただ私が歌や踊りのすばらしさを改めて感じるきっかけになったのは、小学校3年生から5年生の間、メキシコで暮らした経験なんです。メキシコって歌や踊りがあふれている国で、街には必ず音楽が流れていて誰かが踊っている。それがすごく幸せな光景で、そのときに改めて音楽やエンタテインメントのよさを感じたし、その3年間で自分の性格もすごく変わったと思います。
──萌音さんがラテンの文化に縁があるとは意外でした。
そうですか(笑)。「なんとかなるさ」的な楽観的な人生観を身に付けたのもメキシコでの経験のおかげですね。笑って歌って食べて飲んでれば幸せだ、みたいな。メキシコの治安はあまりよくないので行動が制限されるなど不自由なこともあったんですけど、人がとても温かくて、英語がわからなくても、聞かれた道がわからなくても、人を助けようとする優しさがあるんです。人と生きているという感じがすごくしました。私はメキシコに行く前までは人と関わることが苦手だったんですけど、人とのつながりを大切にする国に行ったことで人と話すことが好きになったし、人と新しく関係を持つことが好きになりました。メキシコで今の私が形成されたんです。帰国したら「変わったね!」って驚かれました。
──その経験がまた自分が歌うことや表現することに影響したんでしょうね。
そうですね。メキシコの人と関わる中で「何をしたら喜ばれるんだろう?」って考えて折り紙をしてみたりとか、いろんなことをしたんです。その中で手を叩いて一番喜んでくれたのが歌でした。日本の歌を歌ったらすごく喜んでくれたし、メキシコの曲をスペイン語で覚えて歌ったときもすごく喜んでくれて。そのときに「歌って1つの言語に近いのかな」って思ったし、歌があればいろんな人とつながれるんだと知りました。
──人生のいろんな経験を通じて萌音さんの歌がどんどん磨かれていったことがよくわかりました。歌手デビューをしてからの今後の目標など何かありますか?
明確な目標はまだないんですが、先ほどお話したみたいに演じるように歌っていたいし、聴いたあと、その人の中に映画を観たかのようないろんな感情が生まれるような歌をいつか歌いたいですね。アーティストの方って誰もが明確な色をそれぞれに持ってらっしゃると思うんです。私は絢香さんがすごく好きなんですけど、絢香さんはカバーアルバムでいろんな曲を、その曲の世界観を大事にしながらも自分の色に染めてしまうところがすごいんです。私も「この人にしか歌えない歌だよね」と思ってもらえるようになりたいと思っています。お芝居も音楽も、せっかくこうして扉を開いてもらったので、目の前のことに一生懸命向き合いながら、どこまで行けるのか自分でも楽しみにしながら表現していきたいです。
収録曲
- 366日(映画「赤い糸」主題歌)
- Woman“Wの悲劇”より(映画「Wの悲劇」主題歌)
- 変わらないもの(劇場版アニメーション「時をかける少女」挿入歌)
- On My Own (映画「レ・ミゼラブル」劇中歌)
- なんでもないや(movie ver.) (映画「君の名は。」主題歌)
- SMILE(映画「Modern Times」挿入歌)
上白石萌音(カミシライシモネ)
1998年生まれ。第7回「東宝シンデレラ」オーディション審査員特別賞を受賞し、芸能界デビューを果たす。2011年にNHK大河ドラマで女優デビュー。2014年公開の映画「舞妓はレディ」では映画初主演を務め、第38回日本アカデミー賞新人俳優賞をはじめとする各賞を受賞した。2016年には映画「ちはやふる -上の句/下の句-」や、「君の名は。」に出演。また11月5日には映画「溺れるナイフ」の公開を控えている。女優として活動する傍ら、2015年から歌手として都内のライブハウスにてアーティスト活動を始め、2016年10月にカバーミニアルバム「chouchou」をリリースしてメジャーデビューを果たした。