AI|メジャーデビュー20周年記念|AIを愛する10人のハピネス広がるプレイリスト

AIが新作ミニアルバム「IT'S ALL ME - Vol.1」を明日7月8日にリリースする。

「IT'S ALL ME - Vol.1」は彼女のデビュー20周年記念の第1弾作品として発表されるミニアルバム。タイトルはAI自身がヒップホップからバラードまでさまざまな楽曲を発表してきた20年間を振り返り、「すべて私。これも自分」という思いを込めて命名したという。本作には1月に公開された映画「AI崩壊」の主題歌として制作された「僕らを待つ場所」やTBS系「王様のブランチ」のテーマソング「ギフト」、海外アーティストをフィーチャリングした「Kokoro」「You Never Know」を含む全6曲を収録。ジャケットはとんだ林蘭が手がけており、優しさや強さといったAIの人柄を表現したアートワークが使用されている。

音楽ナタリーではAIのデビュー20周年および「IT'S ALL ME - Vol.1」発売を記念して特集を展開。前半に20年間を振り返りながら彼女が音楽に込めてきたメッセージや新作を紐解くコラム、後半には彼女を愛する10人が思い思いに作成したプレイリストを掲載する。

君が笑えば この世界中に もっと もっと 幸せが広がる

文 / もりひでゆき

2000年11月22日にシングル「Cry, just Cry」でメジャーデビューしたAI。ゴスペルをルーツとしながら、ヒップホップやR&Bといったブラックミュージックを独自のセンスで昇華し、日本人離れしたソウルフルなボーカリゼーションで表現していく楽曲は、耳の早い音楽ファンやアーティストたちにすぐさま認知されていった。活動初期からジョー・バドゥン、DABO、AFRA、TUCKERなどとのコラボレーションを展開すると同時に、多彩なアーティストの楽曲へ客演することも多かった。それこそが当時シーンを賑わせていたR&B系シンガーの中でも、彼女の実力と人気が頭一つ抜きん出ていたことを証明している。

AI「Story」ジャケット

精力的な活動を続ける中、2005年5月に12枚目のシングル「Story」をリリース。エモーショナルなバラードとなった表題曲は、それまでAIの存在を知らなかった層にまで温かく響き渡り、大きなヒットへとつながった。その要因は、デビュー以来武器としてきた比類なき歌声と楽曲のよさはもちろん、自身が手がけた歌詞にあったように思う。そこで描かれていたのは、限られた人生を共に過ごすかけがえのない大切な人に向けたまっすぐな思い。その心を揺さぶる普遍的なメッセージによって、多くの聴き手は気付いたのだろう。AIというアーティストが自分たちの生活に寄り添い、ときに思いを代弁し、ときに生きていくための気付きを与えてくれる存在であることを。

AI「ハピネス」ジャケット

アーティスト・AIの根底には「音楽でよりよい世界を作りたい」という思いがあるのだという。だからこそ彼女は、すべての人が笑顔になるようなメッセージを込めた楽曲を生み出し続けている。その対象は半径1mほどのミニマムな規模感のこともあれば、地球規模の視点で思いが紡がれることもある。だが、すべての曲に注がれているのは、「ハッピーな毎日を過ごせるように」というシンプルな思いだ。

2011年11月に発表された「ハピネス」には、そんな彼女のアチチュードが明確に詰め込まれている。力強いビートに乗せて高らかに放たれる「君が笑えば この世界中に もっと もっと 幸せが広がる」というフレーズは当時、大きな震災に襲われた日本を励ますものであったし、今もなお僕らの心に一点の曇りもなく“大切なこと”を思い出させてくれる。憂いや悩みをポジティブに乗り越えていかんとするメッセージは、天真爛漫でフレンドリーなAIだからこそ強い説得力をもって響かせることができるのだろう。

AI「みんながみんな英雄」ジャケット

2014年に結婚、翌2015年に第1子を出産したAIは、より柔軟に表現の幅を拡大していく。2016年1月に配信限定でリリースされた「みんながみんな英雄」では、フォークダンスの「オクラホマミキサー」で知られる「Turkey in the Straw(藁の中の七面鳥)」を大胆にサンプリングし、ゴスペル隊のコーラスを盛り込んだ1曲に仕立て上げた。サンプリング曲のチョイスや、(自身の作詞ではないものの)わかりやすいシンプルな歌詞などは、大人はもちろん、子供にまで伝えることが意図されているように思う。それはAIが母親になったことと無関係ではないはずだ。「雨の日もある 風の日もある たまに晴れたらまるもうけ」「向かい風でも つむじ風でも 寝転んでしまえばそよ風」といったフレーズは、彼女が一貫して歌ってきたテーマのど真ん中であるが、言葉に込められた思いはより深くなっているようにも感じる。つまり、家族という存在こそが表現者としてのAIにこれまで以上の強さと奥深さを与えたということなのだろう。

揺るぎなき思いを抱きながら進化を遂げ、シーンの荒波をサバイブしてきたAIは、現在デビュー20周年真っ只中。ゴスペルやヒップホップ / R&Bのテイストを盛り込んだ楽曲から、J-POPマナーを感じさせる曲まで、ソウルフルな歌声と類い稀なポップネスでジャンルのボーダーを超えてきた彼女ではあるが、大きな節目を前に自身のルーツを再確認しているようでもある。2019年11月にリリースされたベストアルバム「感謝!!!!! - Thank you for 20 years NEW & BEST -」には既存曲がゴスペルアレンジバージョンとして収録されていたし、同月に18名のゴスペル聖歌隊を率いた「20周年プレミアムライブ」も開催された。今回リリースされるミニアルバム「IT'S ALL ME - Vol.1」もまた、彼女の原点と最新の嗜好がたっぷり注ぎ込まれたものとなっている。

ミニアルバムのオープニングは、TBS系「王様のブランチ」テーマソングとして書き下ろされた「ギフト」。これまでに何度もタッグを組んで名曲を生み出してきたプロデューサー・UTAと共に、アーティストとしての根幹を担うポジティブなメッセージを放っていく、まさに20周年記念作品の幕開けにふさわしい楽曲だ。

そこからは豪華な海外クリエイター / アーティストがこぞって参加した、国境というボーダーを軽々と超える楽曲が並んでいる。ラックスのCM「祝福の輝き」編に使用された「GOOD AS GOLD」は、カルヴィン・ハリスやケンドリック・ラマー、カーリー・レイ・ジェプセンらを手がけるプロデューサーコンビ、ロジェイ・チャハイドとテイラー・デクスターを迎え、AI自らアメリカ・ロサンゼルスに渡って共同制作した。リリックはデヴィッド・ゲッタやOne Directionらを手がけるリンディー・ロビンスとコライトしたことで、英語と日本語が共存する内容になっている。「Kokoro feat. Jenn Morel, Joelii」はドミニカ共和国のラッパー2名をフィーチャーし、自身初となるスペイン語の歌詞にも挑戦した情熱的なナンバー。スペイン語と英語がミックスされたリリックながら、ドミニカ共和国のスラングで“仲間”などを意味する“kokoro(=心)”という日本語を通じて1つになっていく3人の掛け合いは必聴だ。また「Amazon Echo」のCMソングとして書き下ろされた「Summer Magic - Japanese Version」は、アリアナ・グランデやケラーニらの作品に参加したLAの若手プロデューサーチーム・The Rascalsと共作したサマーチューン。リラックスしたビートに乗せ、夏ならではの恋心がハッピーに描き出されている。台湾の人気ヒップホップグループをフィーチャーし、現地で歌録りを行ったのは「You Never Know feat. MJ116」。日本語と英語、広東語を織り交ぜたリリックには、平和という世界共通の願いがつづられている。

AI「僕らを待つ場所」ジャケット

そして本作のラストを飾るのは、映画「AI崩壊」の主題歌となったバラード「僕らを待つ場所」。シンプルなピアノの伴奏の上で響く情感に満ちた切ない歌声に心を奪われていると、ラストにはゴスペルコーラスとバンドサウンドが加わった壮大でドラマチックな展開が待ち構えている。レコーディングでは感情的になるあまり「今までで一番泣いたかもw」というAIの、渾身の歌声に打ち震えてほしい。

制作環境も参加メンバーもサウンドスタイルもすべてがバラバラな全6曲。だが、自らのルーツと、今の音楽トレンドや嗜好に真っ向から向き合ったことで、ここには最新のAIのリアルがしっかりと刻み付けられることとなった。国境を越えたコラボレーションは、「音楽でよりよい世界を作りたい」という彼女自身の思いに起因する施策であろうし、そこで歌われていることも今までとなんら変わることなく、聴き手をハッピーにしてくれるものだ。もしかすると、英詞の多さや、洋楽ライクで多彩なサウンドスタイルに驚く人もいるのかもしれない。だが、曲に身を委ねてみれば、自ずとそこにいるのは紛れもない、みんなが愛するAIでしかないと感じることができるはずだ。彼女自身も言っている。「IT'S ALL ME」と。20年の歩みがあったからこそ生まれた、最高の1枚だと思う。