「あいちトリエンナーレ2019」特集 酒井一圭(純烈)×江川ゲンタインタビュー|話題の歌謡コーラスグループがあいちトリエンナーレで見せる新たな挑戦

恐ろしいほどのリズム感

──江川さんはサルサやロックのイメージが強いですが歌謡曲もお好きなんですか?

左から酒井一圭、江川ゲンタ。

江川 最近はいろんな音楽をYouTubeでチェックするんですけど、その中の3分の1ぐらいは昔の歌謡曲ですね。今観ても本当にすごい。演奏力や表現力はもちろんだし、この1曲のためにどういう仕掛けを作り、そして歌手がステージでどう歌うか。その総合力が本当に素晴らしいなと、今さら感心することがいっぱいある。なぜこれがなくなっちゃったのかと考えていた矢先に今回のお話をもらいまして。それで前のめりに参加させてもらうことに。

酒井 江川さんも歌謡曲に思い入れがある方でうれしいです。

江川 若い頃は歌謡曲みたいなものに反発もあったから、自分はさっさと海外に行ってサルサバンドをやるんだけど、やっぱり日本の歌はすごいですよ。歌詞だけでも素晴らしくて、言葉の1つひとつの響きまで責任取ってる。歌詞だけ読むと文章として成立してなかったりするんです。でもそれをメロディと歌い方で表現する。北島三郎さんの「函館の女」なんか、「はるばるきたぜ 函館へ」の冒頭の「はあー!」の響きだけで情景が浮かぶじゃないですか。

酒井 僕も北島さんの昔の映像はよく観るんですけど、客席には着物を着た70代、80代の方がいて、目を輝かせてステージを見つめてる。でも歌っている北島さんはまだ30代ぐらいなんです。それって今はなかなか見られない光景ですよね。だから僕は、歌謡界にそういった新しいスターが現れてほしいし、若い人たちが「俺もやってみようかな」と思えるきっかけになれたらいいなとずっと思ってるんです。

──今回のテーマは「1969年の前川清と藤圭子」です。2人のシンガーについてはどんな印象を持っていますか?

江川 大好きですね。2人とも恐ろしいほどのリズム感ですよ、絶対にブレない。あれは天性のものなのかな。抑えめにずっしり響いて、ずっと耳に残る。当時はみんな口ずさんでましたからね。それぐらい耳にインパクトがあったんです。藤圭子さんみたいなすごい歌手はもう出てこないんじゃないかな。前川さんにしても「そして、神戸」なんて、どう考えてもラテンですからね。スパニッシュギターのメロディですよ、あれは。

酒井一圭

酒井 1950~60年代の黒人コーラスグループの影響が根っこにあるそうですね。2人とも演歌、歌謡曲というジャンルにくくられるけど、その枠を超えた魅力があると思うんです。音楽的な構造がものすごく洗練されてる。

──当時数多くいた歌手の中でもその2人は特別だった?

酒井 間違いないですね。僕らの世代だとBOØWYやTHE BLUE HEARTSがど真ん中なんですけど、それでも前川さんや藤さんがテレビに出てると、子供ながらに惹き付けられるものがありました。そこが僕の愛する歌謡曲の真髄でありルーツですね。

──今回の公演が、そうした昭和の歌謡曲の再評価につながるかもしれませんね。

酒井 例えば今の大河ドラマ(「いだてん~東京オリムピック噺~」)では前回の東京オリンピックが題材になっているわけで、つまり数十年後には昭和後期や平成を題材にした大河ドラマが作られても不思議ではない。そのときに何が描かれるかと言ったら、やっぱり歌謡曲でしょ。僕らはそういう時代に生きてるし、当時いかにして日本独特の音楽が生まれたのか、それが芸術としてどれだけ素晴らしかったのかはきっちり伝えていきたいですね。

ゲストの新しい一面を引き出したい

──ライブに出演するゲストについても教えてください。

酒井 まずはマルシアさんですね。僕とマルシアさんは歌だけじゃなく、ナビゲーターとして全体の進行役も務める予定です。

江川ゲンタ

江川 今年の2月、マルシアさんの30周年ライブで演奏したんですけど、やっぱり違いますよ、歌謡曲を30年間歌ってきた実力は。

酒井 あとは西田あいちゃん。まだ若いのになんでも歌える歌手です。彼女は年齢的にも大人になるタイミングだし、1つ殻を破って脱却する年にしたいという決意を持っていて、僕らの挑戦に協力してもらうにはピッタリだなと。さらに朝倉さやさん。今までいろんな方々と共演しましたが、一番びっくりしたのが朝倉さんなんです。民謡出身で歌が本当にうまい。彼女をたくさんの人に紹介するのが楽しみですね。

──前川さんの長男の紘毅さんも出演されますね。

酒井 はい、でも前川さんの息子さんであることは関係なく、彼の歌声を聴いたとき、男性でこんなにまっすぐな歌い方ができる人がいるのかって感銘を受けたんです。土曜のお昼にうたた寝しているような、本当に優しい気持ちになる歌声です。それに前川清さんってユニークな方で、ステージで歌う迫力と、「8時だョ!全員集合」でコントをやってる姿って全然違うんですよね。その奥行きはきっと紘毅くんも持っているはずなので、この公演を通して彼の新しい一面を引き出したいです。

江川 すごいメンバーが集まったよね。それぞれが変化の時期で、何か仕掛けてやろうって思っていたタイミングが重なったから実現したわけで。

酒井 そうなんです。ゲストの皆さんの歌を聴いたことのない人も、このライブを観たらきっと驚くと思います。

──当日はこのメンバーで、前川清さんと藤圭子さんの楽曲をカバーすることになるんでしょうか?

酒井 基本的にはそうですね。あとは2人のルーツになった洋楽のカバーなんかもやりたいし、ゲストの皆さんのオリジナル曲も歌ってもらう予定です。もちろん純烈のレパートリーも聴いてもらうつもりです。

「純烈だョ!全員集合!」につながる契機

──純烈のキャリアにおいて、この「あいちトリエンナーレ」の公演はどういう意味を持ちそうですか?

左から酒井一圭、江川ゲンタ。

酒井 僕らは歌うことが本流ですけど、ときどき、クレージーキャッツやザ・ドリフターズに例えていただくことがあるんです。音楽を通してお客さんを楽しませたり、ゲストを紹介するっていう共通点があるのかも。だから将来「純烈だョ!全員集合!」みたいな番組が生まれたらうれしいし、もしそれが実現したとき、この「あいちトリエンナーレ」が最初の契機だったなってことになると思います。

──江川さんはバンドメンバーとしてどんな演奏をしたいですか?

江川 当日どんな内容になるかはまだわからないけど、僕は歌謡曲全盛期のムードをそのままコピーするのではなく、今まで気付かなかった部分を打ち出せる公演にしたいと思ってます。「実はこの曲ってすごくダンサブルなんだよ」とか「この曲はもっとしびれるハーモニーがあるんだよ」とか。音楽的な新しい魅力を伝えられるアプローチをしたいですね。

酒井 おっかない部分もありますよね。今までやったことのない新しいことに挑戦するわけだし。でもそこで守るか飛び込むかで言えば、僕らは間違いなく常に飛び込んできたグループなんです。だから今回も同じ気持ちでやりきろうって思ってます。

江川 せっかくバンドがいるんだから、CDやオケでは体験できないような仕掛けをたくさん作りたいよね。歌手とバンドが呼吸だけで合わせる瞬間だったり。ステージの大きさを生かすも殺すもバンドの仕事だから、音が出た瞬間に「あれ、今日はなんか違う」とお客さんに思わせたいな。

酒井 ちなみに、僕らって本当に不思議な出会いや縁に恵まれたグループなんですけど、実は新曲の「純烈のハッピーバースデー」という曲は、オルケスタ・デ・ラ・ルスの現メンバーである相川等さんが手がけてくれました。

江川 えー、そうなの!? 全然知らなかった、何そのタイミングは!

酒井 すごい偶然ですよね。だからトリエンナーレでも、まだ予期していない出会いがもっとたくさん巡ってくるだろうと思うんです。来てくださる皆さんには今までに観たことのないステージを味わってもらえると思うし、心を揺さぶって、最後は感動して帰っていただければと。今から本当に楽しみです。

左から酒井一圭、江川ゲンタ。