Ivy to Fraudulent Game特集|結成15周年、充実の6thアルバム「Ivy to Fraudulent Game」完成 (2/3)

テレビ的な歌詞と映画的な歌詞

──「ブルーシアン」や「PASSION」、あるいは「土の国から」など、寺口さんが作詞を担当された曲は鬱屈した感情すらも生々しくあらわにしているように感じました。これはやはり、「3人の言葉であるより、自分の言葉」というモードになっているからこそ出てきている言葉たちなんですかね?

寺口 そうですね。福ちゃん(福島)の歌詞は“真実”に近いことを書いているものが多い気がするけど、俺の書く歌詞は真実とは言い切れない、どちらかと言えば“事実”に近いような気がするんです。俺は生きていて、真実というか“本当の答え”みたいなものを感じることがなかなか少なくて。それよりも目に見えることや肌で感じたこと、そういう事実ベースで書いている歌詞が多いのかなと思います。俺のほうが、言葉が生活に近いと言いますか。例えば「ブルーシアン」の「冷凍庫味のアイスクリーム」「想像していたよりも切られてしまった前髪」という歌詞は、福ちゃんなら書かないと思うんですよ。

福島 そうだね。俺はずっと真顔な感じ(笑)。

寺口 俺はテレビ的で、福ちゃんは映画的なんだと思う。

──「冷凍庫味のアイスクリーム」という言葉は過ぎていった時間も現していると思うんですけど、福島さんが今作の中で「dlmn」や「BADEYE」といった楽曲で描いているものも、通じるものがあるような気がしました。前回、「RE:BIRTH」のインタビューで福島さんは「All Things Must Pass(すべてのことは必ず過ぎ去る)」という感覚は自分にとって重要なテーマである、と話していましたよね(参照:Ivy to Fraudulent Game「RE:BIRTH」インタビュー)。

寺口 確かに、福ちゃんの歌詞は朝が夜になったり、今日が昨日になったりする歌詞が多いよね。

福島 そういうことを書いていたら15年経ってた(笑)。

──改めて、福島さんにとって「時間が過ぎ去っていくこと」はなぜ、重要なテーマなのだと思いますか?

福島 なんでなんでしょうね……人生は有限なので。だからと言ってその先にある未来や死のことって、永遠にわからない。わからないから知りたい、描きたいと思うのかもしれないです。失ってきた時間や人との別れに直面したときの純粋な悲しさで曲を書くこともあるんですけど、「人生は有限だ」と思うことで今を生きる速度をブーストして前向きな気持ちで曲を書くときもある。同じことを歌いつつも、いろいろな感情から曲が生まれている気はしますね。

福島由也(Dr)

福島由也(Dr)

寺口宣明の作家性が開花した「土の国」

──今回、ダンサブルな質感の曲もあればインダストリアルな質感の曲もあったりして、かなり肉体的なサウンドのアルバムだなと感じました。

寺口 曲によってかなり性格が違うアルバムだと思いますね。例えば「PASSION」や「土の国」は(カワイ)リョウタロウのオケからできたんですけど、グランジ感やロックンロール感がある。聴いた人がこれを「Ivyっぽい」と感じるかどうかって、もしかしたらバラバラなんじゃないかなと思うんですよ。Ivyらしさも音に込めているけど、「根本的にこういうバンドだったっけ?」という不思議さもあると思うし、そこは新しい感覚だなって感じていますね。リョウタロウが作る曲って、ライブっぽい感じが一番伝わりやすいし。

──福島さんは、アレンジやミックスの段階で曲をまとめていくとなった際に、意識されていたことはありますか?

福島 「まとめる」ということはまったく考えていなくて。ずっと「曲のキャラをいかに強調するか」「曲があるべき姿でちゃんと伝わってほしい」という気持ちで作業しています。なので、リョウタロウの曲ならギターを持った勢いで瞬発的にアレンジしてくみたいな方法でやるし、ノブの曲は歌を大事にしようと思うし、自分の曲はどんどん自己満足に走っていくし(笑)。

──(笑)。寺口さんが書かれた「土の国から」の歌詞はとても面白いですよね。

寺口 こういう世界観の歌詞を書くのは初めてかもしれないです。シチュエーションや人物が決まっている歌詞って、俺たちは少ないんですよ。

──物語的ですよね。この歌詞を読んで、寺口さんが昔からお好きだったという筋肉少女帯を思い出したんです。大槻ケンヂさんの文学的な歌詞の質感に通じているなって。

福島 それ、俺も思いました。

寺口 言われてみれば確かにそうかも。「土の国から」は1行目の「はいどうもこんにちは」がまず決まったんです。家のソファーに寝転がりながら書いたんですけど、せっかくパンチのあるオケだし、いつもと違うことをしなきゃいけないっていう衝動に駆られて。それでファンタジーじゃないけど、なんだか不思議な感じになりました。歌詞ができあがったとき、このアルバムで自分が書いた曲の中で一番興奮したかもしれない。「俺、こんなの書けんだ!」って。歌詞を書くというより、コラムを書いているような感覚でしたね。

福島 俺の勝手な解釈としては、土の中にいる微生物が主人公なのかなと。人も死んだら微生物に分解されちゃうくせに、生きている間は土の中の生き物をバカにしている。「結局、お前らもそいつらに飲み込まれんだぞ」って(笑)。そんな歌詞なのかなと思っていました。めっちゃいいなって。

寺口 これ、家に帰る小学生に話しかけている羽のない虫が主人公なんだけど、「結局おまえらが帰るのは家じゃなくて、土だよ」と言ってるっていう(笑)。メッセージソングです。

──この曲には世間や世界を斜めの角度から見えている感じがありますよね。その目線には皮肉や苛立ちや怒りも含まれていると思う。「PASSION」なんかもそうですけど、こういう視点は寺口さんの中から自然と出てくるものなんですかね。

寺口 カッコつけでもなんでもなく、本当に「マジョリティにはなれない」という感覚があるんです。物事に対して「角度つけて見てやろう」と思っているわけじゃないんですけどね……。むしろ「角度をつけてやろう」って癖が昔からついちゃっているのかな。ちょっと違うとこから見なきゃいけない、みたいな。物事をまっすぐ見ることのできない人間になってしまったんです。それはもはや、やりたくてやっているのか、反射的にやってしまっているのかもわからなくて。それで苦しむのも自分だし。「もっとまっすぐ言えればよかった」とか、「もっと素直に物事を見たほうが絶対に幸せなんだろうな」と思うこともあるんですよね。だからこそ、「ありがとう」と伝えるのにも、難しさを感じたりします。

みんながカッコよくなれるアンセムを

寺口 「song for you」は自分ではすごくいい曲だと思っているんですけど、恥ずかしさとの闘いの中で生まれたんです。だって「どんな思いも僕たちは歌にしてきた」とか「this is song for you」なんて歌詞、超まっすぐじゃないですか。でも、歌の中だからギリセーフというか。むしろ、こういう歌詞をちゃんと歌えるようになりたいんですよね。

──歌えるようになりたいから、歌ってみる。

寺口 うん。もう日和る年齢でもないから。それに自分から挑戦しないと、ずっとやらないままになっちゃうなと思って。

寺口宣明(Vo, G)

寺口宣明(Vo, G)

──シングルとしてリリースされた「FACTION」や「BOW WOW」は、今のIvyが歌う希望の歌として、ものすごくリアルな楽曲だと思うんです。「絵空事じゃなく希望を歌うにはどうするべきか?」ということに向き合っている印象を受けたし、素手で希望をつかんでいる曲になっている。

寺口 「素手でつかんでいる」って、すごいしっくりくる表現だな。

──きれいごとを言うつもりはないけど、きれいごとを言うための覚悟をしっかりと握っている。そういう曲たちだと思いました。これが今のIvyなんだなとすごく感じます。この「FACTION」や「BOW WOW」が生まれた原動力ってどんな部分にあったんだと思いますか?

福島 「FACTION」に関して言えば、「Inside = RED」を出した後の最初のシングルだったので、あのミニアルバムにあった力強さ、ヒリついたバンド感を残しつつ、どうやってアンセムみたいな曲を作るのかっていうことを、ノブとかなりディスカッションしたんですよね。この曲だけで2カ月くらいかけて、イントロだけで5パターンくらい考えたんです。

──「アンセムを作ろう」という思いがあったんですね。

寺口 歌っているときに、みんながカッコよくなれるアンセムが欲しかったんですよ。楽しくなれるアンセムじゃなくて、全員が主役になれる瞬間があるようなアンセム。ライブをたくさんしてた時期に作っていたから、その中で芽生えた気持ちだったのかな。血が湧いてくるようなもの、俺たちのライブを観た人が一緒に叫べるもの。静かな場所でウワーっと叫ぶことはできないけど、町中が大パニックになっている中でならできるじゃないですか。僕らの音楽でそういう状況を作ってあげたら、みんな心の内にあるものを叫べるんじゃないかと思ったんです。