いゔどっと

いゔどっとが1stアルバム「ニュアンス」をリリースした。

動画共有サイトを中心にカバー曲の歌唱動画を投稿し続けてきたいゔどっと。2019年8月に発表した初のオリジナル曲「余薫」を契機に自作曲を作り始め、ついには全曲オリジナル曲で構成された1stアルバム「ニュアンス」を完成させた。音楽ナタリー初登場となる今回のインタビューでは、いゔどっとの音楽的な背景を探りつつ、さまざまな解釈をはらんだ「ニュアンス」の制作秘話を聞いた。

取材・文 / 倉嶌孝彦

就職したけど、音楽の道へ

──いゔどっとさんが音楽に興味を持ったのはいつ頃なんでしょうか?

小学生のときに初めて親にCDを買ってもらったんですよ。邦ロック系のアルバム。それからいろんなバンドを聴くようになって、高校で初めてバンドを組みました。

──バンドではどのパートを?

ベースボーカルですね。バンドをやっていた叔父からベースをもらったんですよ。特に思い入れがあったわけではないんですけど、せっかくもらったからベースを担当しようと思って。ただボーカルは自分でやりたくて、率先して歌ってました。

──高校卒業以降、バンドの活動はどうなったんですか?

高校3年で解散して、そこからは音楽にまつわることを全部辞めちゃったんです。バンド活動だけじゃなくて、ネットでの活動も。2年くらい、いわゆる普通の大学生活を送っていました。それで、大学3年の春に「ひさしぶりに何かやろうかな」と思って始めたのが、歌唱動画の投稿だったんです。それがいゔどっととしての活動の始まりです。

──歌を本気でやっていこうと思ったのはいつ頃ですか?

それはわりと最近ですね。去年の夏くらいかな。大学を卒業して社会人になって、一度は普通に就職もしたんですよ。社会人として会社に勤めながら、音楽を本気でやるか、それとも趣味の範囲でやるかを天秤にかけて。それで「やっぱり音楽をやりたい」と思ったのが去年。なので仕事を辞めて、今はいゔどっととしての活動に専念しています。

動画は自分の手を離れていくもの

──いゔどっとさんの投稿動画をさかのぼってみると、2018年1月頃から投稿の頻度が上がるんですよね。この時期に何があったんでしょうか?

ちょうど大学3年の、就職活動が終わったタイミングですね。単純に時間が取れるようになったから、ちょっと歌う頻度を上げようかなと。

──その後、就職して社会人として働き始めても投稿頻度は落ちてないですね。

歌うことが習慣になっちゃったんです。そもそも歌うことも動画にしてインターネットで公開することも好きだったから、できることならこのペースを崩さないようにしようと思って現在まで続いています。

──いゔどっとさんの転機になったであろう動画が2018年3月に投稿された「flos」だと思います。

今でこそ900万回以上再生されて僕の代表カバーのように言われていますけど、「flos」は投稿した当初はそんなに注目されていなかったんです。

──「flos」が注目されるようになったきっかけは何かあったんですか?

なんでしょうね。自分ではよくわからないんですよ(笑)。僕、投稿したあとに再生数がどれくらいかどうかを全然気にしないんです。投稿した瞬間から、動画は自分の手を離れていったものだという感覚があって。ただ傍観するしかないというか。「再生数が伸びたらうれしい」くらいな感覚なので、「flos」が伸びた原因とかも把握していないんですよね。

──そうは言っても、ご自身にとっても大事な曲になったのでは?

そうですね。「flos」をきっかけに僕のことを知ってくれた人が本当に多くて。素敵な出会いをたくさん作ってくれたR Sound Designさんには本当に感謝しています。

表現に正解はなくていい

──昨年8月には初のオリジナル曲「余薫」が投稿されています。この曲はいゔどっとさん自身が作詞作曲を手がけていますが、もともと曲作りはしていたんですか?

曲作りをしたのは「余薫」が初めてです。カバーがいいとか悪いとかは思っていないんですけど、オリジナル曲を作れたらいいなというのは以前から考えていて。

──作曲はギターで?

そうですね。Amazonでアコースティックギターを買ったんです。本当に入門用で3000円ぐらいのギターで、大して弾けもしないのに楽器を触っているだけで楽しくて。アコギは高校時代からずっと弾き続けていたので、作曲も自然とギターでしていました。

──ずっとギターを弾いていたのに、弾き語りで動画を投稿するようなことはありませんでしたよね。

好きで弾いてはいますけど、決してうまいわけではないんですよ(笑)。楽しむために弾いていただけなので、誰かに見てもらいたいわけでもなかったし、ギターを武器にしようとかも考えてなくて。

──動画で投稿された「余薫」「累累」はどちらも春野さんが編曲を手がけています。

春野とは友達なんです。だから仕事の依頼というよりは相談に近い形で「こういう曲を作ってみたんだけど、アレンジしてくれないかな」って声をかけてみたら、快くOKしてくれて。どういうアレンジにするかは2人で相談して決めました。春野はピアノが得意なので、ギターで作った僕の曲をピアノやシンセのメロディでアレンジしてくれたんです。春野だったらどういう曲にしてくれるだろうとワクワクしていたので、完成形を聴いたときはうれしかったですね。

──歌詞は曲を作ったあとで付けているんですか? それとも曲を作る前に?

アルバムの中には詞先も曲先もあるんですが、自分の中でしっくりくる曲は詞を先に書いたものが多いですね。最初は詞先でしか曲を作れなかったから「余薫」は詞先ですね。「夜半の雨」はあとから詞を付けています。

──詞先で曲が生まれるというのは、おそらくいゔどっとさんには表現したいこと、書きたいことがあるからだと思うんです。それはどういうことだと自覚していますか?

アルバムタイトルの「ニュアンス」にも通じるんですが、僕の表現において正解はなくていいと思っているんです。リスナーがそれぞれ聴いたままに感じ取ってもらえることが正解であり、解釈も人それぞれでいいんじゃないかなって思ってて。「ニュアンス」という言葉は「微妙な差異」という意味と「言外に表された話し手の意図」という意味があって。アルバムを手に取って各々が違うことを想像して意見を交換し合い、さらに新しい解釈が生まれるようなことがあったらいいなと思っています。それは自分の軸で変わらない部分だなって思うので、1stアルバムのタイトルに「ニュアンス」と名付けました。