いゔどっと|「伝わらなくていい」彩り豊かなアルバムで表す独創性

おもちゃ箱みたいなアルバム

──1stアルバムを作るに当たって、まずどんな作品にしようと考えましたか?

とにかくいろんな曲を詰め込もうと思いました。1曲目から最後までの流れとかはあまり考えず、脈略はなくていい。その代わり、どこから聴いても楽しめるような作品にしたかった。なんていうか、自分の好きなものを詰め込んだ“おもちゃ箱みたいなアルバム”にしたかったんですよね。

──その脈略のなさは参加クリエイターの多彩さからも伺えます。

そうですね。もちろん自分が好きなクリエイターの方々にお声がけさせていただいたんですが、普段からお世話になっているとか、どの界隈にいるからとかは一切考えず、自分の新しい引き出しを開けてくれそうな人にお願いしました。各クリエイターさんには大きなテーマを決めて曲のオーダーをお願いしたんです。

──例えばどういうテーマですか?

Sori Sawadaさんにお願いした「赤色と水色」だったら「失恋」「遠距離恋愛」とか。コレサワさんの「やっぱり」は「変に僕に合わせようとせず、コレサワさんらしい、女性らしい曲をお願いします」とオーダーしました。それぞれテーマを伝えて曲を書いてもらったんですが、振り返ってみるといわゆるポップで前向きな曲が全然ないことに気付いたんです。わかってはいましたけど、「あ、やっぱり自分の性分というのはこうなんだな」と思いました(笑)。

──ボカロPだけじゃなく、コレサワさんのようなシンガーソングライターの方にも曲提供をオーダーしているのが新鮮でした。

純粋に自分が好きなアーティストさんに相談をしたらこうなったという感じです。せっかくアルバムを作るのであればいろんなことに挑戦してみたかったし、本当はないはずの垣根を勝手に作っているような気がして。コレサワさんだけではなく、maeshima soshiさんのようにヒップホップのシーンで活動している方にも曲を書いてもらえましたし、本当にどの曲も個性があって僕だけのおもちゃ箱ができたと思います。

──「flos」の制作者であるR Sound Designさんの提供曲「水槽」の話も聞かせてください。いゔどっとさんの代表曲と呼ばれる「flos」のタッグでオリジナル曲を作るわけですから、それなりにプレッシャーもあったのではないですか?

やっぱりリスナーの方の期待感が違うと思うので、少なからずプレッシャーはあったと思います。「水槽」という曲自体「flos」を意識してもらったもので、「flos」に近いけど似て非なるもの。聴けば聴くほど好きになってくれると思います。

粗削りでも作りたいものを

──おもちゃ箱で例えるならば、syudouさんの提供曲「着火」はアルバムの中の“刺激物”みたいな存在ですよね。

syudouさんとは普段から仲良くさせていただいているのもあって、オーダーも自由に「ワルっぽい感じで」というテーマを投げていたんです。まさかここまで存在感のある曲が届くとは思っていなくて。syudouさんの人となりが出ているようで、衝撃的でした。

──「着火」では、歌い方も明確にちょっとがなるような歌い方をしているのが印象的でした。

自分のスタイルを定着させたくないから、意図的にいろんな歌い方をするようにしています。たくさん曲を作曲したりレコーディングしたりしていると、どうしても自分の傾向が偏ってきちゃうんですよね。自ら書いた作品でいうと、初めて「余薫」を作ったあと、アルバムにも収録されている「エニ」という曲を書いたんですが、作りながら自分の幅が狭くなっているような錯覚に陥っちゃって。そこからは意図的に自分にないエッセンスを入れるように切り替えて、「夜半の雨」や「アカトキツユ」のような曲が完成したんです。振り返ってみると、アルバムの中でもいろんな曲が作れたなと思って一定以上満足していますし、まだまだ作ったことのないジャンルの曲にも手を出してみたいですね。

──なるほど。お話を伺う前は、もっと音楽の好みがハッキリしているアーティストだと思っていました。

もちろん音楽の好みはあるんですが、どのジャンルも、なんでも聴きますね。とにかくいろんな曲を作りたいし、歌いたいんです。特に今回は「こういう曲なら人気が出そう」とか「今の流行を取り入れて」とか、そういうことをまったく考えずにアルバムを作ってみたんです。1stアルバムだし、まずは自分が作りたいものを作ろうというのが目的だったので。粗削りかもしれないけど、2020年時点でのいゔどっとというアーティストの集大成的な作品にしたいと思って作りました。

魔王なので子分を作ってみた

いゔどっと「ニュアンス」通常盤ジャケット

──アルバムのアートワークも、先ほど話していた「各々が違うことを想像」できるようなイラストになっていますね。

はい。見る角度によって右を向いている顔にも見えるし、正面を向いている顔にも見える。人によっては顔以外のものが浮かび上がるかもしれませんし、そういう“騙し絵”的な要素を入れてみました。ロゴは自分で作ったんですよ。あくまでアートワークは絵が主役なので、文字として主張が強すぎるようなものは避けたいなと思って、平仮名、カタカナ、英字といろいろ検討した結果、カタカナにしたんです。

Twitterで公開されているマンガのイラスト。

──ちょっと話は逸れてしまいますが、Twitterではご自身のマンガを公開していますよね?

マンガの絵はイラストレーターさんにお願いしているんですが、キャラクターの設定とか、話の原作は全部自分で考えています。僕、周りの人に「魔王」と呼ばれるときがあって。我が強すぎて、周囲をいろいろ振り回すからだと思うんですけど(笑)。

──マンガには魔王とその子分たちが描かれています。

魔王と呼ばれるのであれば、子分たちを作ろうと思って。マンガの主人公はその子分たちなんですよ。僕がキャラクターを作って、それをマンガ化したら面白いかなと。短期間の連載としてTwitterに載せていたんです。マンガの世界ではありますが、自分の思い通りに動く子分たちを活躍させることができて、曲作りとはまた違った充実感がありました。