ナタリー PowerPush - 石崎ひゅーい
恋とライブと孤独
カッコつけてるけどダサい人になりたい
──じゃあパフォーマンスをしていて「こういうふうにできたらいいな」って思う具体的なアーティストはいますか?
最終的な話をするとトム・ウェイツみたいになりたいんですよ。音楽性うんぬんじゃなく、一瞬歌っただけで「あ、この人、こういう人生歩んできたんだ」って、その人の背景がわかるような。それってすごいじゃないですか?
──それはすごいですよね。生き様が歌に出てる感じ?
そうそう。日本で言ったらSIONさんとか。まあ今の僕は、ああいう感じにはなれないのはわかってるけど、そういうところを目指したいと思っていて。あとはずっと人間臭い人でいたいと思ってます。カッコつけるんだけど、どこかダサいっていう。
──ダサさが見えちゃうような?
うん。昔の80年代90年代とかの日本のアーティストって人間臭さがあると思うんですよ。今は時代的にそういうのが薄れていってると思うんです。みんな感じてないのかな? 聴いてる人たちは。
──まあ昔のことは知らないっていう若い子は多いでしょうね。それは例えばどういう人だったりします?
玉置(浩二)さんや尾崎(豊)さんとか。チャゲアス(CHAGE and ASKA)や小室哲哉さんのTM NETWORKもそうだし……。
──人間臭いですね、みんな。
みんな人間臭くて、ちょっぴりダサくて……っていうのが共通してると思うんですよ。それは本人たちもわかってると思うんですよね。
──感情が流れ出るのを抑えない、自分の人間性をぶちまけてるような?
そういう人たちが多くて、そういう歌が素直に受け入れられていた気がしていて。カルチャーやアイコンが流行るんじゃなくて、ちゃんとその人間が流行る、みたいな。そのほうが面白いし、経済とかもよくなるんじゃないかと思うんですけど。
──経済ですか?
経済じゃないけど、自殺する人が減ったりしていい世の中になるんじゃないかな、と思ったり。なんとなくですけどね。
──それはひゅーいくんの素直な気持ちなんでしょうね。特にインターネットの時代になってからは、なるべく角が立たないような表現が増えましたよね。昔はわりと無法地帯だったから、人間味がついこぼれるようなことが多かったでしょうし。
そうなんですよ。そういうのを肌で感じるんですよね。音楽だけじゃなくて、なんとなく世間的にも。夜中ひっそり、お母さんとお父さんに隠れて「ギルガメッシュないと」(1990年代に放送されていたテレビの深夜番組)を観るとか、そういうのがたぶん大事なんだと思うんですよ。
──ネットですぐわかっちゃうとかじゃなくて。
うん。どんどんつまらなくなって外に出なくなってますよね。
──でもひゅーいくんも、わりと外に出ないほうだって言ってましたよね?
そうなんですよ。僕も時代に流されてる奴なんです(笑)。だからこそ感じるっていうか。違和感はずっとあります。
──違和感を感じていて、人間臭さがにじみ出るような音楽を作りたいんですよね。じゃあ「夜間飛行」でリアルな恋愛をそのまま歌ってしまって、「わー、どうしよう!?」と思ってるのは正しいのかも(笑)。
正しいか。あはは(笑)。でもちょっと恥ずかしいっていう……(笑)。
ツアーを通して変わったライブへのスタンス
──じゃあ話を戻しますけど、ひゅーいくんにとってライブとはなんでしょうか?
なんだろう……。人に会いに行く場所なのかな。いや、違うな……わかんないですね。今は戦いの場所みたいな感じになっちゃってるかも。戦うフィールドみたいな。
──自分自身と、っていうことなんですか? 戦う相手っていうのは。
いや……ツアーをやっていて、ずっと見えない何かと戦ってる感じがしてたんですよね。それは敵じゃないんですけど。いや、でも違うな。ライブってなんだろう……。わからないからライブをやってるのかなとも思いますね。
──なるほど。じゃあもう楽しいだけのものじゃないっていうことですね。それはこの50本をやり終えてから思ったことですか?
ものすごく思いました。今までまったくそんなこと思ってなかったのに。
──じゃあ今後ちょっと変わっていくんですかね?
変わるかもしれないですね。めちゃめちゃパンクになっちゃうかもしれない。
──パンク? どういう点がですか?
いや、もうエモーションが増して、吐き出し感が増幅するというか。
──なるほどね。で、吐き出し切って気持ちいい感じなんですか?
……寂しい。すげえ寂しいです。
──でも、それを追求していかなきゃいけないわけですね。それはアーティストとして前進したからじゃないですか? きっと成長してるということですよ。
そうかもしれないですね。だったらよかったです。
──そして全都道府県でのライブが全部ワンマンでやれて、みんながひゅーいくんだけを観に来るような状況になったら、また違いますよね。
それはヤバイっすよね(笑)。そのために今回は種蒔きに行ったようなもんですからね。がんばります!
収録曲
- 夜間飛行
- 1983バックパッカーズ
石崎ひゅーい(いしざきひゅーい)
1984年3月7日生まれ、茨城県水戸市出身の男性シンガーソングライター。風変わりな名前は本名で、高校時代より音楽活動を開始する。高校卒業後、大学で結成したバンドにてオリジナル曲でのライブ活動を本格化させる。その後は音楽プロデューサーの須藤晃との出会いをきっかけにソロシンガーに転向し、精力的なライブ活動を展開。2012年7月、ミニアルバム「第三惑星交響曲」でメジャーデビュー。11月には1stシングル「ファンタジックレディオ」と、初のライブDVD / Blu-ray「キミがいないLIVE」を同時リリースした。2013年2月から5月にかけて全国47都道府県ツアー「全国!ひゅーい博覧会」を開催。6月5日にはテレビ東京系ドラマ「みんな!エスパーだよ!」のエンディング曲「夜間飛行」をリリース。9月からは東名阪ワンマンツアーの開催も決定している。自身の心情やエピソードを歌った、赤裸々な中に幻想的な表情を見せる歌詞、強い印象を与えるメロディライン、ダイナミックなライブパフォーマンスで、大きな注目を集めている。