ナタリー PowerPush - 石崎ひゅーい

恋とライブと孤独

石崎ひゅーいが、激しく燃える恋心をストレートに歌ったニューシングル「夜間飛行」を6月5日にリリースする。この曲は園子温が監督を務めていることでも話題のテレビドラマ「みんな!エスパーだよ!」のエンディング曲としてオンエア中。今まで以上にシンガーとしての存在を広く知らしめる歌になりそうだ。

また彼は、今年2月から5月にかけて全国47都道府県を回るツアー「全国!ひゅーい博覧会」を敢行。その名を全国のライブハウスに刻んできた。3カ月以上におよぶツアーで彼は何を得たのか。今回はこの新曲と彼のライブ観について、突っ込んだ話をしてもらった。

取材・文 / 青木優 撮影 / 竹中圭樹(D-CORD)

好きな女の子のことだけを考えて作った「夜間飛行」

──「夜間飛行」、すごくいい曲ですね。

石崎ひゅーい

はい。すげえいい曲です(笑)。

──自分で言ってますね(笑)。ドラマのエンディング曲ですが、これはどんな経緯で?

園監督が僕の前の音源を聴いてくれたみたいで、「(ドラマのエンディングは)ひゅーいくんが歌ってください」っていう話をしてくれて。園監督からは一言だけ「世界」っていうテーマをもらったんです。それで初めて書き下ろしをさせてもらいました。

──その「世界」という言葉はどういう思いで託されたんでしょうね。

「僕の世界」っていうことでよかったんだと解釈しています。この曲、作るのすごく早かったんですよ。マンガをもらって、それを読んだ瞬間にもうできた!みたいな(笑)。「世界」っていう言葉がそのときの自分のモードとすぐシンクロして。というのは、そのとき好きな女の子がいて、もうその子のことしか頭の中で考えられなかったんですよ。「世界」ってデカいから、いろいろなこと考えられるじゃないですか? 例えばネガティブなことだったら原発のこと、地震のこと、ミサイルのこと……いっぱいあるけど、そういうのはもう関係なくて。ただ好きな女の子のことしか頭の中に浮かばなかったんです。「世界ってなんだ? 世界は……あ、ダメだ(その子のことしか考えられない)!」みたいな感じで(笑)。だからワーッて書けちゃったというか。

──そこで好きな女の子にしか発想がいかないのはすごいですね(笑)。前回インタビューさせてもらったときは妄想で曲を作るモードでしたよね。この曲もそうなのかなと思ったんですけど。

石崎ひゅーい

違いますね。今回はもっとリアルな感情ですね。むしろ本当にリアルすぎて、これからも歌っていくのがつらいなと自分では思っていて。もし仮にすごく売れちゃったりしたら、ずっと歌い続けなくちゃいけないじゃないですか。

──どのへんが自分にとってリアルなんですか?

なんだろう……思いかな。本当にすべてがめちゃめちゃリアルな現実っていうか。だからものすごく恥ずかしいっていうか……(笑)。

──そのくらいその恋愛が、曲を書いた時点のひゅーいくんにとって、重要な問題だったんですか?

めちゃめちゃ重要でしたね。重要というか、もうそれしか考えられなくて、ほかのことはマジでどうでもいいと思ってましたね。「早くその子に会いたい!」という一心で。

園監督の作品の世界観と原作マンガに共鳴

──でも嘘偽りない感情を歌にするのがひゅーいくんだから、そういう自分に正直なところはひゅーいくんらしいなという気はしますね。歌の内容はマンガとリンクさせたんですか?

「マンガに近付けよう」とか「監督の意向をくんで」とか、そういうことはまったく考えなかったです。むしろ意識的に寄せないほうがいいかなと思ったくらい。でもインプットとして、園監督の映画は観ました。「気球クラブ、その後」とか「愛のむきだし」とか、あとは「ヒミズ」とか。園監督の作品って、真っ暗闇をすごいパワーで押し上げて作品にしてる印象を受けました。戦ってるイメージというか、たぶん現実的に戦わないと作品として世に出せないんだろうな、と。例えば(「ヒミズ」で)震災後の被災地の景色をそのまま使うなんて、どれだけ戦ったんだろう?と思うし。それってとってもロックじゃないですか? そういうところに勝手に共鳴させてもらいましたね。あと原作のマンガにも共感しました。「おっぱい、ちんちん、パンツ見たい」みたいな感じで、すごくくだらなくて(笑)。だから自然とリンクできましたね。書き下ろすときには超能力について考えてなかったけれど、書いたあと見てみると「夜空を飛ぶ」っていう部分がリンクしてるって気付きました。

──なるほど。「夜空を飛ぶ」というのはどういうところからイメージしたんですか?

石崎ひゅーい

僕、きっとすごくロマンチストなんですよ(笑)。テレポーテーションとかでサッと「来たよ」っていうよりも、夜空を飛んでいくほうが会いに行く感じがするじゃないですか? そのほうがロマンチックだなと思って、夜空を飛ぶっていうのを選びました。

──そうですか(笑)。歌詞の「300円で満たされるまずい安心」というのは?

これは本当は280円で牛丼の値段にしたかったんですけど、(歌詞が音符に)はまらなくて。それで300円にしました。安さの象徴ですね。

──それで「300円で満たされるまずい安心なんかよりも / 眠るんだ君の胸の中で」という歌詞になったわけですね。できあがりに関して、園監督だったり、番組の方だったりのリアクションはどうでした?

「この部分を直してください」と言われることもなく、一発OKだったから気に入ってくれたのかなと思います。いい番組といいスタッフさんに恵まれたんだなって。

──で、ひゅーいくんは第1話の番組のエンディングに登場してますね。

そうなんですよね(笑)。園監督は厳しい人だっていう噂を聞いていたので、「絶対怖え、ぶん殴られたりするのかな?」と思ってたんですけど、全然普通で(笑)。「ひゅーいくん座って」って言われて、「はい、歌って」って、それでサクッと終わっちゃいました。でも面白かったですね。

石崎ひゅーい(いしざきひゅーい)
石崎ひゅーい

1984年3月7日生まれ、茨城県水戸市出身の男性シンガーソングライター。風変わりな名前は本名で、高校時代より音楽活動を開始する。高校卒業後、大学で結成したバンドにてオリジナル曲でのライブ活動を本格化させる。その後は音楽プロデューサーの須藤晃との出会いをきっかけにソロシンガーに転向し、精力的なライブ活動を展開。2012年7月、ミニアルバム「第三惑星交響曲」でメジャーデビュー。11月には1stシングル「ファンタジックレディオ」と、初のライブDVD / Blu-ray「キミがいないLIVE」を同時リリースした。2013年2月から5月にかけて全国47都道府県ツアー「全国!ひゅーい博覧会」を開催。6月5日にはテレビ東京系ドラマ「みんな!エスパーだよ!」のエンディング曲「夜間飛行」をリリース。9月からは東名阪ワンマンツアーの開催も決定している。自身の心情やエピソードを歌った、赤裸々な中に幻想的な表情を見せる歌詞、強い印象を与えるメロディライン、ダイナミックなライブパフォーマンスで、大きな注目を集めている。