ナタリー PowerPush - 石崎ひゅーい

人に寄り添う歌を歌いたい 新人新鋭シンガーソングライター出現

亡くなった母にプレゼントして、喜んでほしい曲

──今回のデビューミニアルバムですが、リード曲「第三惑星交響曲」はどんな感情から生まれた曲なんでしょうか?

実は母が4年前くらいに死んだんですけど、最初は当時の感情を吐き出した、結構悲しい歌を書いてたんです。でもそれはちょっと違うなって思って、親父にも「そんな歌を歌っても母ちゃんは喜ばないよ」って言われたので、今の曲に書き替えました。

──具体的には、どんなふうに変えたんですか?

母が好きそうな曲を書いていきました。もちろん自分が好きな感じでもあるんですけど、この曲をプレゼントして、喜んでほしいなっていう気持ちで。

──心の奥の叫びというか、感情をむき出しにしたボーカルも胸にズシンと響きました。こういう歌のスタイルはバンド時代から?

わりと最初からですね。意識したわけじゃなく、自然とそういう歌い方になっていったのかな。

──歌を歌うときに大事にしていることは?

一番は何も考えないことですね。フラットな状態から歌い始めるのが僕には合ってるのかなって思います。

──例えば、同じ曲でもライブによって全然違ったりします?

違いますね。音が鳴ると気分が高揚して、頭の中がぐちゃぐちゃになっちゃって歌えないときもあるし。

──そういうときはどうするんですか?

「すいません」って感じで、座って歌ったりします(笑)。

歌で人を救おうとは思わない

──ミニアルバムの曲では、「3329人」と「人間図鑑」も印象的でした。まず「3329人」ですが、このタイトルの意味は?

去年、震災後の5月の自殺者数なんですけど、それをニュースで見たとき、前年よりかなり増えてるってことを知って。

──じゃあこの曲は、その報道を見たときの感情がモチーフになっている?

はい。

──歌詞はどんなふうに展開させていったんでしょう?

僕、歌で人を救おうとは思わないんですよ。それよりは「俺も一緒なんです」ってことを伝えたいというか、なんとなく人に寄り添う歌を歌っていければなって。この曲もそういう感じで作っていったと思います。

──「人間図鑑」は、いかがですか?

これも去年の震災後にできたんですけど、ここでもやっぱり「がんばれ!」みたいなことは言えなくて。そしたら、こういうちょっと暗い曲になっちゃった、みたいな(笑)。

──ひゅーいさんは茨城県出身ですし、震災後、何か精神的な変化はあったんですか?

みんなと同じように僕もすごく考えさせられたし、自分と向き合う中で少し弱っちゃった時期もありましたね。で、何を歌えばいいんだろう?って考えたときに、僕から出てきたのはこういう歌だったんですよね。

──歌い方も、「人間図鑑」はほかのナンバーと大きく違いますね。

いいですよねー、これ。僕も好きなんです。

──自分の歌をよく聴いたりするんですか?

はい。というか、自分の曲しかあまり聴かないかな。

──それはバンド時代からずっと?

そうですね。ナルシストなんでしょうね(笑)。

ライブは「桜井和寿+チバユウスケ+江頭2:50」

──ライブパフォーマンスについてもお聞きしたいのですが、基本はバックバンドがいて、ひゅーいさんは歌のみですか?

そうですね。たまにピアノやギターで弾き語りもやりますけど、僕はほとんど歌だけです。

──ギターやピアノを弾くソロアーティストはたくさんいますが、歌だけの男性ソロアーティストって最近あまりいなかったと思うんですよね。

なるほど。……僕、極力楽器を弾きたくないんですよ(笑)。

──素直ですね(笑)。でもその分、歌に全てのエネルギーを注いでいるのかなと。ライブを見た人がTwitterで「桜井和寿+チバユウスケ+江頭2:50」と書いたこともあったみたいですが。

それ、自分ではすごくわかりやすい例えだなって(笑)。

──江頭2:50さんっぽい、ちょっと挙動不審な動きもあるんですか?

自分ではカッコいいと思ってやってるんですけどね。……いや、どっちかというと、別に何も考えずやってるんだけど、それがダサいとは思ってないって感じかな。

──ステージは自分の全てを解放する場ですか?

はい。だからどうしてそういう動きになるのかは、自分でもわかりません(笑)。でもライブは好きですね。すごく好きです。

石崎ひゅーい(いしざきひゅーい)

1984年3月7日生まれ、茨城県水戸市出身の男性シンガーソングライター。風変わりな名前は本名。高校時代より音楽活動を開始し、高校卒業後に大学で結成したバンドにてオリジナル曲でのライブ活動を本格化させる。その後は音楽プロデューサーの須藤晃との出会いをきっかけにソロシンガーに転向し、精力的なライブ活動を展開。2012年4月から行われたRakeの全国ツアーでは12会場でオープニングアクトを務めた。自身の心情やエピソードを歌った、赤裸々な中に幻想的な表情を見せる歌詞、強い印象を与えるメロディライン、ダイナミックなライブパフォーマンスで、大きな注目を集めている。2012年7月、ミニアルバム「第三惑星交響曲」でメジャーデビューを果たす。