音楽ナタリー PowerPush - 石橋凌

“ネオレトロ”モードで体現した本当の音楽

まさしくこれが音楽

──続いて「駄馬のいななき」という新曲ですが、これまたキャッチーで楽しい曲調でありながらも、政界の“私欲の怪物”をさらっと批判している。

そう。そこが変わらない限り、変わらないんですよ、世の中は。しがらみの世界、アンフェアな世界が、連綿と続いていく。今の政治に顕著な「中身よりも形だよ」「質より量だよ」っていう価値観ですね。それが会社や学校、気が付けば僕がいる物作りの現場にまで入ってきてしまった。

──それに対して駄馬は駄馬なりにプライドを持っていななこうと。

この国で生きていくなら、中身のないサラブレッドよりも中身のある駄馬でいいじゃないかって思いがあってね。

──駄馬でかまわないけど、今に見てろよ!ってことですね。

石橋凌

そうそう。絶対みんな思ってると思うよ。どっかで見てろよと。前に勝ち組負け組っていう嫌な言葉が流行ったことがあったけど、そのときも思ったんですよ。何が勝ちで何が負けなんだって。なんなんだそれは!?ってね。いまだにそういう価値観で来ちゃってるところもあるでしょ? ちっとも変わらない。

──そういう価値観にノーを突きつけながらもユーモアがあるし、聴いてて楽しい気分になれる曲ですね。

うん。これはミキオくんにアレンジをお願いしたんですけど、サウンド的にはニューオーリンズの音楽のような土臭い音を目指してほしいと伝えて。

──ここでのミキオさんのピアノはDr. Johnに通じる感じがありますよね。

うん。で、まずミキオくんがそれをやってくれて、それから梅津さんのホーンのセクションのレコーディングの日にスタジオに行ったんですけど、もう一発でビシっと決めてくださって。すごいなと思いましたね。「まさしくこれが音楽ですね!」って、思わず僕は梅津さんに言ったんですよ。そしたら「これ、ものすごく好きな歌だから、自然に力が入っちゃったよ」って言ってくださった。うれしかったですね。

──イントロのホーンの音から華やかで引き込まれるし、歌部分も思わず一緒に口ずさみたくなる。

こういうものって実は1960年代や70年代にも日本にあったと思うんですよ。例えばクレージーキャッツの歌や青島幸男さんの作品にも辛らつな歌詞を楽しい音楽に乗せていたものがあった。そこで中村八大さんが豊かな音楽を作ってたり、永六輔さんが詞を書いたりしてね。やる側も聴く側も成熟してた時代だったわけです。そういうものに対する意識も僕の中にはありました。梅津さんは恐らくそこに共感したんだと思うんですけど。

30年歌い続けた歌

──なるほど。それからこのミニアルバムにはARB時代の楽曲で戦後の日本を歌った「AFTER'45」の英語詞バージョンも収められています。今回どうして英語で歌おうと?

1つには世界……特に英語圏ですけど、そこに向けて発信したいという気持ちがあったので。もう1つは、戦後70年ということで、日本はこういうふうに時を経て現在に至ったってことを正直に歌って伝えたかったんです。

──英語圏の人に聴かせる方法についてはどう考えてるんですか?

それは、1つはYouTube。

──要するに、海外の人に届くきっかけを作ったということですね。

はい。

──海外でライブをしたいという気持ちはありますか?

もちろん、やりたいですよ。やりたいけども、まずはこういう形で広めて行きたいという。

──それにしても、もう30年もこの歌を歌い続けてることになりますね。作ったときは、こういうふうに歩いていく歌になるとは……。

石橋凌

思ってなかったですね。ただ、作ったのは1985年ですからちょうどバブルで、そのときから危機感はあったんですよ。確実に中身のない日本になってきてるっていう。これじゃいけないだろうっていうね。敗戦を経て復興はしたけど、形だけの復興というか。1945年に第二次世界大戦が終わって、それから日本は高度経済成長やオリンピックを経たわけだけど、あのあと人はモノとかお金に走って精神的な豊かさを失ったわけじゃないですか。だから東日本大震災からの復興は、それをまた繰り返しちゃいけない。形だけの復興じゃいけないと思うんです。

──作った当時の思いにまた別の意味性が重なったことで今の時代に強く心に響く歌になっている。本当に一生歌っていく歌になりましたね。

はい。

ミニアルバム「Neo Retro Music」2015年1月28日発売 / 2160円 / avex trax / AVCD-93061 / Amazon.co.jp
「Neo Retro Music」
収録曲
  1. ヨロコビノウタを!
  2. Rock'n Rose
  3. 駄馬のいななき
  4. AFTER'45(英語ヴァージョン)
  5. Got My Mojo Working(ライブヴァージョン)
  6. Route 66(ライブヴァージョン)
石橋凌ワンマンソロLIVE「Neo Retro Music 2015」
  • 2015年2月21日(土)愛知県 THE BOTTOM LINE
  • 2015年2月27日(金)北海道 ジャスマックプラザ ザナドゥ
  • 2015年3月6日(金)大阪府 BIGCAT
  • 2015年3月7日(土)福岡県 DRUM LOGOS
  • 2015年3月20日(金)東京都 Zepp DiverCity TOKYO
石橋凌(イシバシリョウ)

石橋凌1956年生まれ福岡県出身のミュージシャン、俳優。1977年に結成され、数々のアーティストに影響を与えて2006年に解散したロックバンドARBのボーカリストとして知られる。また、1990年から現在まで並行して役者としての活動を行っている。2011年12月にアルバム「表現者」を発表して音楽活動を再開。その後ライブ活動も精力的に展開し、2013年3月には赤坂BLITZ公演の模様を中心としたライブDVD / Blu-ray「SHOUT of SOUL」を発表。2015年1月にミニアルバム「Neo Retro Music」をリリースした。俳優の活動としては、現在フジテレビ系ドラマ「ゴーストライター」に出演中。