音楽ナタリー PowerPush - 石橋凌

“ネオレトロ”モードで体現した本当の音楽

この国はどうしたって変わらない

──収録曲のタイトルじゃないですけど、今作はまさしく“喜びの音楽”がここで鳴っているんだなと思いました。

ああ、そう思ってもらえたならよかったですね。ただ1曲目の「ヨロコビノウタを!」というのは、歌詞的には開き直りの歌なんですよ。

──あ、確かにそうですね。こんな時代なので本当は嘆きたいところだけど、開き直ってサイコー!と言い合いながら前を向いて生きていこうというような。

わかったんですよ。この国は変わらないんだということがハッキリとね。今まで僕はさんざん嘆いたり怒ったりするような歌を歌ってきたけど、この国はどうしたって変わらないんだなと思った。でもそこで捨て鉢になるんじゃなくて、前向きに生きてる人たちといくらかでも出会って生きていくしかないんだなと。

──先ほど凌さん自身も言ってましたけど、バンド時代だったらここで歌詞とサウンドの両方で怒りや嘆きを歌にしてきた。でも今はこういう豊かで楽しいメロディに乗せて“ヨロコビノウタ”を表現する。そこがかつてと一番変わったところだなと思います。

石橋凌

そうですね。それはやっぱり自分自身がいろんなことを経てきて到達できたところなんでしょうけど。それと繰り返しになるけど、本当に僕は以前、この国は変わるかもしれないって期待を持っていたんですよ。でも変わらないんだとハッキリしたとき、もう昔のようにいちいちいきり立って音楽をやるのはバカらしいと思ったんですよね。

──なるほど。

もっとハッキリ言うと、やっぱり政治が絶対的に悪いと思うんですよ。僕はもちろん選挙も行きますけど、もう期待できないと思っているところもある。となると、自分のやれることをやるしかないわけですよね。で、僕は表現者なので、俳優としてそういうことを訴えていける作品があればやりたいし、また少しでも人の力になれるような音楽もやっていきたい。戦後、美空ひばりさんの歌を聴いてみんなが自分を鼓舞したわけだけど、僕もそういう歌を作れればと思うし、そういうものが書ければそれは本当に意味のあることだと思うし。

──力になる音楽。元気が出る音楽。

うん。曲を聴いて、また明日から仕事をがんばろうと思ってもらえれば、もう十分やる意味がある。ライブもまさにそう。だって今、人が発散できる場所って少ないでしょ? これだけストレスの多い国で生活してて、それを発散しないでいるから、つまようじ少年みたいな歪んだ事件が起こるわけで。だからやっぱりライブっていう発散する場所が必要なんですよ。

──この「ヨロコビノウタを!」はまさにみんなで楽しく発散できる、お祭り感のある曲ですね。アレンジ的にはアイリッシュっぽいフィーリングもあって。

うん。The Poguesが好きだし、ああいったアイリッシュの音楽を聴くと気持ち的にもアッパーになれる。ドラムの池畑くんは以前アイルランドに留学してたこともあるらしくてね。彼の話を聞くと僕もいつか行ってみたいと思ったりするんです。やっぱり音楽が生活に根付いていて、生活の中から音楽が生まれてくるようなのがいいなと思って。

実は大事なことを歌っている“いい曲”

──2曲目の「Rock’n Rose」は、社会情勢への問題提起という含みを持たせながらもストーリーテリング的な手法で歌詞が書かれていて、その上サウンドもジャジーな雰囲気であることから、聴いていてどこか映画を観ているような感覚が得られる。映像喚起力の強い曲だなと。そのへんは意識してのことですか?

石橋凌

そうです。まず流れてきたときに、いい感じの曲だなと思ってもらいたい。それでよく聴いてみると、実は大事なことを歌っているっていう。つまり歌詞を届けるための手法として、こういうサウンド、こういうメロディがいいと思ったんです。

──凌さんは梅津さんたちと“石橋凌JAZZY SOUL”というバンドのライブもやられてましたが、この曲はその流れも汲んだものとも言えそうですね。

単純にジャズであるとかジャジーなものというのが好きなんですね。で、この曲に関して言うと、僕はジャンゴ・ラインハルトのインストゥルメンタルが好きで、一彦くんにアレンジをお願いしたときに言ったんです。「ジャンゴとか、あの時代のヨーロッパジャズふうにアレンジしてほしい」と。

ミニアルバム「Neo Retro Music」2015年1月28日発売 / 2160円 / avex trax / AVCD-93061 / Amazon.co.jp
「Neo Retro Music」
収録曲
  1. ヨロコビノウタを!
  2. Rock'n Rose
  3. 駄馬のいななき
  4. AFTER'45(英語ヴァージョン)
  5. Got My Mojo Working(ライブヴァージョン)
  6. Route 66(ライブヴァージョン)
石橋凌ワンマンソロLIVE「Neo Retro Music 2015」
  • 2015年2月21日(土)愛知県 THE BOTTOM LINE
  • 2015年2月27日(金)北海道 ジャスマックプラザ ザナドゥ
  • 2015年3月6日(金)大阪府 BIGCAT
  • 2015年3月7日(土)福岡県 DRUM LOGOS
  • 2015年3月20日(金)東京都 Zepp DiverCity TOKYO
石橋凌(イシバシリョウ)

石橋凌1956年生まれ福岡県出身のミュージシャン、俳優。1977年に結成され、数々のアーティストに影響を与えて2006年に解散したロックバンドARBのボーカリストとして知られる。また、1990年から現在まで並行して役者としての活動を行っている。2011年12月にアルバム「表現者」を発表して音楽活動を再開。その後ライブ活動も精力的に展開し、2013年3月には赤坂BLITZ公演の模様を中心としたライブDVD / Blu-ray「SHOUT of SOUL」を発表。2015年1月にミニアルバム「Neo Retro Music」をリリースした。俳優の活動としては、現在フジテレビ系ドラマ「ゴーストライター」に出演中。