ナタリー PowerPush - ももいろクローバー
ファン待望の初期楽曲集ついに登場 過去と現在をつなぐ「ラフスタイル」
佐藤守道×宮井晶 インタビュー
新録音源「ラフスタイル for ももいろクローバーZ」のレコーディングは、スターダスト音楽出版に籍を置き、ももクロの楽曲面を担当している佐藤守道氏が初めてディレクターとして制作にかかわった。編曲のイメージや5人のパート分けなどは佐藤氏が中心となって考えたもので、今回の歌録りの現場でも氏がミキサー卓からメンバーに指示を送りつつ進行した。
同じくスターダスト音楽出版に所属し、今作に収められる初期音源の多くでディレクションを担当しているのが宮井晶氏。「ももクロの音楽」が生まれる瞬間を常に見守ってきた重要人物の1人だ。ここではこの2人に話を聞き、アルバム「入口のない出口」を紐解いていく。
“無印”時代のアーリーベスト
──「過去の未CD化音源のリリースを」という声は、これまでにもずっとファンの間で上がっていたと思うんですけど、今このタイミングになったのはなぜなんですか?
佐藤守道 ぶっちゃけると「そろそろ出したら?」ぐらいの軽いノリだったと思います(笑)。
宮井晶 でも今はこうして新譜もコンスタントに出ているし、気持ちとしては今の活動を応援したいから。今を生きてるアーティストなわけだから、当時の音源となるとやっぱ違うなという気持ちもあって。
──現在進行形のももクロが、後ろを振り返ることもないだろうと。
宮井 うんうん、そうなんですよ。まあ、どこかでまとめたいよねという話はずっとあったんですけど。
佐藤 タイミングですよね。ちょうど5周年の区切りという。
宮井 ホントはね、5月17日(結成記念日)に出そうって声もあったんですけど、俺らとしては最新アルバムの「5TH DIMENSION」(2013年4月10日発売)を応援したかったので、もう少し遅らせて。
──満を持してのアルバムリリースとなりましたが、選曲は少しファンの予想を超えるものでした。ライブですらほとんどやっていない曲もあれば、メジャー後の楽曲「走れ!」もあり、さらには現在の5人が歌う「ラフスタイル」の最新リアレンジバージョンと。
佐藤 「走れ!」の収録が発表された段階で「あれっ?」と思われた方も多いかもしれませんけど、インディーズ楽曲集というよりも「“無印”時代のアーリーベスト」というのがこのアルバムのコンセプトなんですよ。
「猫がボーカルの音楽はもうイヤだ」
──初期の楽曲がどのようにして作られたのか、音楽的な部分についてはやはり未知な部分が多いですよね。そこを一段深く掘り下げるためには宮井さんに話をお聞きしたいなと。そもそも宮井さんは何がきっかけでももいろクローバーに関わることになったんですか?
宮井 藤下(リョウジ / スターダストプロモーション専務。ももクロをはじめ私立恵比寿中学、チームしゃちほこら所属グループの生みの親)さんや川上(アキラ / ももクロのチーフマネージャー)は以前から所属タレントによる歌手活動を積極的にやってたんですよ。でも当時は借り物の曲が多くて。俺は当時、猫の音楽とか作ってたんだけど……。
──猫の音楽?
宮井 猫がボーカルの音楽(笑)。ちゃんとした人間の音楽も作りたいなと思ってたんだけど(笑)、女の子を集めてイベントをやるんだったら、オリジナルの曲を作ったらいいんじゃない?って言ってたの。それにピンときたのが川上で「だったら新しくグループを作るから、オリジナル曲でやってみようよ」って。
──それがももいろクローバーだったと。
宮井 川上の意図と俺の「猫がボーカルの音楽はもうイヤだ」という気持ちがたまたま合致して(笑)。それで本格的にオリジナル曲をいくつか作ってみようという話になったんだと思う。
──ももクロが結成された2008年の春というと、AKB48がまだメジャーデビュー2年足らずで、今のようにミリオンを連発するような熱気はまだなくて。アイドル文化そのものが今に比べると全然おとなしかったですよね。
宮井 ちょうどPerfumeがブレイクして盛り上がってた頃じゃないかな。
──あー、なるほど。そういう時代背景の中で、ももクロの音楽はどういう方向性で行こうと考えましたか?
宮井 それはあんまり具体的に考えてなかったですね。
──2008年末にイベント限定で発売されたオムニバス「3-B Jr.ぷちアルバム」には、ももいろクローバー名義の「あの空へ向かって」「ラフスタイル」「MILKY WAY」が入っているほか、メンバ一が参加したユニット曲も入っていました。ユニット曲ではR&B風の曲もありましたよね。
宮井 メンバーもあのときは固定じゃなかったし、とにかくいい曲をやろうと考えてただけで。試運転みたいな状態ですよね。曲を作ったものの、出す先がなかったんですよ。制作費はかかるんだけど「お前これどうすんの?」みたいな。出口もないまま(笑)。そのわりには一線級の作家に曲をお願いしたので、作ってるほうはすごく満足感があったんですよ。
“絶対”売れないって何回言われたか
──そんな状況の中、ももいろクローバーはただの育成の場には収まらないほどに活性化しましたよね。どこかで「これは行ける」というタイミングがあったんですか?
宮井 佐々木(彩夏)が加入したあとしばらくして「あの空へ向かって」を録り直したんですよね、確か。そのタイミングで「あれっ」と思ったところはあったんじゃないかな。ちょうどその時期に、事務所の人間みんなでAKB48の劇場を観に行って火がついたんだよね。それで「アキバでやろう」って言い出したんですよ。やってみたらいきなり300人とか観客が集まって。
──そのあたりの“伝説”は川上マネージャーやメンバーからもお話が挙がることがあるんですが、音楽制作チームはどのように見てたんでしょうか。
宮井 「ももいろパンチ」の前まではホント五里霧中ですよ。でもマジメな話、メンバーに天性の何かを感じてたんですよね。これはいつか売れると。会社の事業としてはまったくの赤字なんだけど……そこは川上のすごいところで「これは何を言われてもやるんだよ」って。「あの空」「ラフスタイル」「MILKY WAY」とやって、その次を作ろうと20曲ぐらい集めたんですよ。その中で満場一致で「コレだ!」だったのが「ももパン」で。この曲は回収の見込みがなくてもシングルを作ろうということになって、しかもPVまで作って(笑)。俺はEARTH, WIND & FIREが大好きなんですよ。バカバカしいけどエネルギーがあって、カッコいいじゃないですか。ももクロちゃんたちも、エネルギーの伝わり方がすごくて。今みたいなことになるとは思ってなかったけど、伝わる人には確実に伝わるだろうなという自信はありましたね。歌がうまいわけじゃないんだけど、素直にエネルギーが伝わる感じ。
──わかります。言葉にならないエネルギーみたいなものがまず飛び込んでくるんですよね。それでアテられたような状態になってしまうという。
佐藤 それは今も根幹にあるところかもしれないですね。もっと歌がうまかったり踊りがきれいだったりする人たちはたくさんいるけど、伝えること、伝わるものが、特に彼女たちは突出してあると思いますね。
宮井 うん。そこは当時から変わってないと思いますね。昔は川上アキラマジックかなと思ってたんだけど、ちょっと違いますね。本人たちの、策略とかを超えた何か。しかも見てると元気になるじゃないですか。謎のパワーをもらえるというか。俺も根拠なく「売れる、売れる」って言ってたんですよ。マジで。やめろやめろって声も周りにはいっぱいあったんだけど。「絶対売れないから」って……“絶対”って何回言われたか(笑)。
- インディーズベストアルバム「入口のない出口」 / 2013年6月5日発売 / SDR
- 初回限定盤A [CD+Blu-ray] / 3990円 / SDMC-0105B
- 初回限定盤B [CD+DVD] / 3500円 / SDMC-0105D
- 通常盤 [CD] / 2800円 / SDMC-0105
収録曲
- あの空へ向かって
- MILKY WAY
- ラフスタイル
- ももいろパンチ
- だいすき!!
- Dream Wave
- Hello…goodbye
- 気分はSuper Girl
- 最強パレパレード(ももクロver.)
- 未来へススメ!
- ツヨクツヨク
- words of the mind -brandnew journey-
- Believe
- 走れ!
- きみゆき
- ラフスタイル for ももいろクローバーZ
- あの空へ向かって(Z ver.)
ももいろクローバー
スターダストプロモーション所属タレント育成の場として、2008年5月17日に結成されたアイドルグループ。「週末ヒロイン」「いま、会えるアイドル」というキャッチフレーズのもと全国津々浦々でライブ活動を行い、2009年7月には1stシングル「ももいろパンチ」をリリース。この時期に百田夏菜子、早見あかり、佐々木彩夏、玉井詩織、有安杏果、高城れにの6人が揃う。同年11月に2ndシングル「未来へススメ!」を発表し、2010年5月にはシングル「行くぜっ!怪盗少女」でメジャーデビューを果たす。同年12月には初のホールワンマン「ももいろクリスマス in 日本青年館~脱皮:DAPPI~」を大成功に収めるも、2011年1月に早見あかりがグループを脱退することを発表。同年4月10日の東京・中野サンプラザ公演「4.10中野サンプラザ大会 ももクロ春の一大事~眩しさの中に君がいた~」が早見のラストステージとなり、ライブ終了直後に「ももいろクローバー」から「ももいろクローバーZ」へと改名した。