11月9、10日に千葉・幕張メッセ国際展示場9~11ホールで行われた氣志團主催の音楽フェスティバル「氣志團万博2024 ~シン・キシダンバンパク~」。「氣志團万博」と言えば氣志團の地元、千葉・袖ケ浦海浜公園を舞台にした夏の終わりの恒例イベントというイメージが強いが、今年は開催時期を11月に、そして会場を幕張に移し、このフェスならではの魅力はそのままに新たなスタートを切った。
そういった新たな挑戦がありつつも、奇跡の連続によって大きな熱狂が巻き起こった「氣志團万博2024」の模様がWOWOWで独占放送・配信される。1月2日にDAY1公演、2月にDAY2公演の映像、そして3月には両日の舞台裏を収録した特番がWOWOWライブおよびオンデマンドで届けられる。これに合わせ、音楽ナタリーでは2回に分けて特集記事を展開する。この記事ではまずDAY1公演にフォーカス。毎回欠かさず「氣志團万博」に参加し、今年も2日間ともに現地でライブを鑑賞したライターのフジジュンが公演の見どころを紹介する。さらに出演アーティストたちに「あなたにとって『氣志團万博』とは?」という質問をぶつけ、それぞれからコメントを寄せてもらった。
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文 / フジジュン
会場が変わってもワクワク感は「氣志團万博」そのもの
「俺んとここないか?」と、氣志團が地元・千葉の袖ケ浦海浜公園を舞台に、野外フェス形式で「氣志團万博」をスタートさせたのが2012年9月。ジャンルや世代を超越した嘘みたいなラインナップ、異常なまでに行き届いた高いホスピタリティ、そして東京湾を一望できる絶好のロケーションと熱い地元愛で、全国に乱立するロックフェスとは明らかな一線を画す「氣志團万博」は、国内屈指の集客動員を誇る巨大フェスに成長した。季節柄、大型台風の影響を受けたり、2020年には新型コロナウイルスの影響でオンラインでの開催を余儀なくされたりと憂き目も見ながら、進化と成長を重ねていく。フェス形式になり10年目の2022年には、実に3年ぶりとなる有観客での開催を実現させ、豪華出演者と3日間にわたるお祭り騒ぎが繰り広げられた。
そんな「氣志團万博」が、主催者である氣志團の綾小路 翔による「生まれ変わります」という声明とともに、開催時期と開催場所の変更を発表したのが今年4月。11月に千葉・幕張メッセ国際展示場で「氣志團万博2024」が行われることがアナウンスされ、“シン・キシダンバンパク”という公演のサブタイトルがこれまでと異なる新たな歴史の始まりを想像させた。
この発表があったとき、どんな形であれ「氣志團万博」である限り、きっと内容やラインナップは最強だろう、行き届いたホスピタリティは変わらないだろうと、そんな絶対的な信頼と、今年は無事に開催されるんだという喜びを感じた。ただ、同時に「ああ、約束の場所で再び会うことは叶わないんだな」という寂しさがあったのも正直なところだ。しかし、いざ迎えた公演当日。幕張メッセに行ってみると、そんな寂しさを少しでも抱いたことがバカバカしくなるほど、会場を包むワクワク感や楽しい空気感は「氣志團万博」そのものだった。最強の豪華出演者たちのステージを思いっ切り堪能して、おいしいビールを飲んでフードを食べて、演者やオーディエンスの「氣志團万博」への愛をたくさん浴びて……2日間を満喫しての感想は「いつどこで開催しようと、『氣志團万博』は『氣志團万博』。やっぱり『氣志團万博』最高かよ!」という、単純明快かつ清々しいものだった。
そんな「氣志團万博2024 ~シン・キシダンバンパク~」の初日公演全アーティストのライブの模様が、1月2日にWOWOWにて計6時間にわたって独占放送・配信される。実際に会場にいた人はあの日目撃した多くの奇跡を映像で再確認してほしい。また、当日参戦できなかった人は、映像という媒体を超えて伝わるであろう「氣志團万博」のすさまじさに身震いしてほしい。
ここではWOWOWでの放送・配信をより楽しむため「氣志團万博2024」初日公演の見どころをダイジェストで紹介するが、あくまでガイドラインなので、この記事を読んだだけで映像を観た気にならず、ちゃんと自分の目で確かめるように。録画映像や配信を観る場合は早送り厳禁!
気遣いやおもてなし精神が愛される理由の1つ
YASSAI STAGEとMOSSAI STAGEという2つのステージが用意された「氣志團万博2024」。内容が盛りだくさんすぎて開演時間が早い、というのは「氣志團万博」あるあるだが、9:45スタートというロックンロールするには少し早い時間からWELCOME ACTの暴動クラブがMOSSAI STAGEを熱気で包み込んだ。続いてメインステージのYASSAI STAGEにOPENING CEREMONY ACTとして登場したのは、通販CMでおなじみ夢グループの石田社長&保科有里。「社っ長! 安くしてぇ~♡」というお色気たっぷりに迫る保科に歓声が上がる中、2人はオリジナル曲で美声を披露して「氣志團万博2024」の開会を宣言した。
そして、いよいよ「氣志團万博2024」の本編がスタート。観客のテンションを引き上げるオープニング映像が流れたのち、特攻隊長として登場したのは総大将の氣志團だ。フェスの主催バンドがトップバッターで登場して場の空気を作るという、通常ならあり得ないことを当たり前にできてしまうのが氣志團のすごさで、そういった気遣いやおもてなし精神が「氣志團万博」が愛される理由の1つだろう。綾小路がバイクにまたがって登場し、叶 亜樹良(Dr)のドラムビートにエンジン音を重ねるカッコよすぎるオープニングから「俺達には土曜日しかない」へとなだれ込んでライブがスタート。「男帝-Dandy-」で始まるメドレーも駆使し、短い持ち時間ながら、熱く激しく硬派でポップでダンサブルでキュートな氣志團の魅力てんこ盛りのステージが繰り広げられる。特攻服姿がよく似合っていた友情出演の7ORDERもライブに華を添え、にぎやかに「氣志團万博2024」本編の幕が開けた。
毎公演を追い続けているとより楽しめるストーリー性
「超全方位、世界照準っ!」という煽りVTRが始まるや否や(綾小路が各アーティストへの愛を語るハイクオリティな煽りVも「氣志團万博」の魅力だ)、フロアの爆アガりっぷりに「世界照準の彼女らにMOSSAI STAGEは狭すぎるのでは!?」と感じさせた超ときめき♡宣伝部。彼女たちはオーバーキルなかわいさを振りまき、今年大きな“バズ”を生み出した「最上級にかわいいの!」で全観客を撃沈させる。YASSAI STAGEのMY FIRST STORYのライブではこの日のタイムテーブルを見て「もしや?」と思ったが、同日出演のHYDEがステージに降臨。Hiro(Vo)との豪華ツインボーカルで「無幻」を披露し、オーディエンスを大熱狂させた。
BiSH時代から「氣志團万博」と縁深いアユニ・Dは、PEDROのベースボーカルとして、ギターの田渕ひさ子(ex. NUMBER GIRL、toddle、bloodthirsty butchers、KERA & Broken Flowers)、ドラムのゆーまお(ヒトリエ)という強力なメンバーとともに「氣志團万博」に再上陸。「ラブリーベイビー」で始まり、浪漫と衝動のオルタナティブロックで観る者の心をぶっ刺した。ついに「氣志團万博」にカチコミをかけてきたツッパリ総本家、T.C.R.横浜銀蝿R.S.は「ツッパリHigh School Rock' n Roll(登校編)」「男の勲章」と伝家の宝刀を容赦なく振りかざす。バリバリのロックンロールと巧みなステージ運びに昭和を知らない世代も爆アガりだ。
Chilli Beans.の出番になると、彼女たちのライブを初めて観たであろう観客がポップでキュートでハイセンスなステージにどんどん惹かれていくのがわかる。綾小路が「知ってるとか知らないとか、先入観を一発でふっ飛ばす、ライブが超強いバンドを集めるのが『氣志團万博』」と語るのも大納得で、読者にもChilli Beans.の楽曲「lemonade」の甘酸っぱさをぜひ堪能してほしい。毎回「氣志團万博」に気合十分で臨むHYDEはステージに巨大なピラミッド型の演説台を持ち込むと、「HONEY」「GLAMOROUS SKY」、そして「氣志團万博」でおなじみとなっているももクロ「ココ☆ナツ」のカバーを惜しみなく披露し、ワンマンライブさながらの圧倒的なステージングで超満員のオーディエンスを魅了。「銃の部品」「DOGLAND」といったライブ定番曲で抜群の演奏力を見せ、MOSSAI STAGEにて観客の度肝を抜いたPEOPLE1には「すぐに、こんな近い距離で観れないビッグアーティストになってしまうだろうな」というありがたささえ感じた。ちなみに「氣志團万博2024」初日の個人的ベストアクトは、T.C.R.横浜銀蝿R.S.、PEOPLE 1、氷川きよし。あまりにジャンル不問すぎるが、そんな振り幅あるアーティストのライブを同会場で1日で観れてしまうのが「氣志團万博」の醍醐味だ。
氷川の殺人的歌唱力のすごさは、初登場となった「氣志團万博2022」で観たときによくわかっていたつもりだった。しかし、凛々しい和装で登場するいなや「白雲の城」でしっかりと演歌を聴かせた今回のステージは、“kiina”として出演した前回とはまったくアプローチが異なり、このライブに懸ける120%の本気度が伝わってきた。驚愕の美声と表現力で魅せたQueen「ボヘミアン・ラプソディ」の日本語カバーの素晴らしさは短い言葉で伝えきれないので、ぜひ映像で確認してほしい。過去の出演時より、ステージに角材を持って来たことをイジられ続け、“氣志團警察”との攻防という物語を背負って登場したROTTENGRAFFTYは、ヤンチャさ全開のステージでフロアをぶっ掻き回して夏フェス無双ぶりを見せつけるも、「金色グラフティー」で超絶な盛り上がりを見せたところで“氣志團警察”にあえなく御用。前回とまったく異なる演出でステージに挑んだ氷川や、過去出演時の出来事を知っているとなお面白いROTTENGRAFFTYをはじめ、毎公演を追い続けているとより楽しめるストーリー性も「氣志團万博」の大きな魅力の1つだ。
単純明快かつ清々しい気持ちで正月を過ごそう
“全員優勝”を掲げ、超満員の観客の心を熱くさせたサンボマスター。「Future is Yours」や「できっこないを やらなくちゃ」で渾身の歌と演奏が届けられると、オーディエンスの中には涙する人も。そのステージは“圧巻”のひと言だった。時代がサンボマスターを求めていることがよくわかったし、デビュー20年を超えてまったくブレることなく、再び大きな波を起こしている彼らには尊敬しかない。「また新たに出ましたよね、香ばしい人たちが」と綾小路が語る、初登場の-真天地開闢集団-ジグザグは「氣志團万博」の異世界スター枠。命様(Vo)がマイクを装備したキックボードでパラリラと登場し、「きちゅねのよめいり」でライブが始まるとMOSSAI STAGEが一瞬で彼らの世界観に包まれた。思いのままに掛け声や振付で息を合わせるオーディエンスは完全に彼らの術中。新たなスターの登場は「氣志團万博」の新たな物語の始まりも予感させた。
そして、初日の大トリを務めたのは、11年連続出演の「氣志團万博」皆勤賞ながら、今回が初のトリとなったももいろクローバーZ。「ももクロ万博」と呼ぶほど「氣志團万博」に強い思い入れを持つ彼女たちは、毎回スペシャルなステージを見せてくれる。着物風の和テイストな衣装に法被を羽織って登場し、氣志團「スウィンギン・ニッポン」のカバーで口火を切った今回のライブは、和装と笑顔がよく似合うお祭り騒ぎのとにかく楽しいステージ。彼女たちは終盤に「行くぜっ!怪盗少女 -ZZ ver.」を披露して最大級の盛り上がりを生み出すと、百田夏菜子がピアニカで奏でる「One Night Carnival」をバックに氣志團への感謝とリスペクトの気持ちを伝える。そして「彼らじゃなきゃ、百戦錬磨のツワモノどものトリは務まらん!」と氣志團を呼び込み、「喧嘩上等」でコラボを果たして初日公演をフィナーレへ導いた。
開催声明で「奇跡は待つものじゃねぇ、起こすものだ」と綾小路が記していた通り、嘘みたいな出演者たちが巻き起こす、ここでしか見られない奇跡の連続だった「氣志團万博2024」初日。このすさまじすぎる1日に勝るとも劣らない2日目がまだ控えていることも驚愕だが、まずは初日の映像をたっぷり堪能し、僕が感じたのと同じような単純明快かつ清々しい気持ちで正月を過ごしてほしい。