ももいろクローバーZのリーダー・百田夏菜子の1stソロアルバム「ビタミンB」がリリースされた。
「ビタミンB」というタイトルは、過去にももクロのレギュラー番組内で行われたクイズ企画にて、「にゅーとんが りんごで発見 ◯◯」という問題に対し、百田が「引力」ではなく「ビタミンB」と自信満々に答えたシーンが由来。リンゴが頬に直撃しているにもかかわらず、満面の笑顔を浮かべている百田の姿を捉えたジャケット写真も相まって、アルバムのタイトルが発表されたときはモノノフ(ももクロファンの呼称)の間で大きな話題になった。
これまで大半のソロ曲を自身で作詞し、さらにはライブでピアノの弾き語りを披露するなど、自ら生み出す言葉と音で丁寧にソロでの音楽活動を進めてきた百田。コミカルな装いでありながら、これまでの人生観が反映された初のソロアルバムを、彼女はどのような思いを持って完成させたのだろうか?
取材・文 / 近藤隼人撮影 / YOSHIHITO KOBAスタイリスト / 関志保美ヘアメイク / 横山藍(KIND)
ピアノと出会ったことで絡まっていた糸がほどけていった
──百田さんのソロでの音楽活動が本格的に始まったのは、2021年10月に開催された初のソロコンサートがきっかけだと思いますが(参照:ももクロ百田夏菜子が初のソロコン開催、2日間の“シンデレラタイム”で見せた多彩な表現力 / 百田夏菜子「Talk With Me ~シンデレラタイム~」インタビュー)、そのときのMCでは「今後の予定とか、新たに発表できることは何もないんですけど」と話していました。しかし、クリスマスコンサートや30歳のバースデーライブの開催、EPのリリースと続き、ついに1stアルバムが完成しました。いざ始めてみたら、ソロでの音楽活動が思っていた以上に楽しかった?
そうですね。ほかのメンバーがわりと早くからソロ活動をやっていて。例えば(高城)れにちゃんはソロコンを開催し始めてからもう10年になるんですよね。そんな中、私はソロコンを初開催するまでにかなり時間がかかりました。自分1人でステージに立つことがまったく想像ができなくて……自信がなかったし、私にできることはすべてグループの活動でできているという認識で、ソロで表現できることの引き出しがなかったんです。でも「すくってごらん」(2021年公開)という映画でピアノに出会ってその意識が変わりました。
──百田さんはその「すくってごらん」でヒロインを演じ、ピアノの弾き語りのシーンを撮影するために猛特訓をしたんですよね。
はい。そこから、ずっと苦手だった歌に対する意識も変わりました。歌うことに関しては、昔から何度もつまずいて、転んで、立ち止まって、また振り出しに戻って……何も成長できずにもがいているような感覚があったんですけど、ピアノという楽器と出会ってからは点と点がつながったというか。自分に何ができてないかということを、理屈としてピアノに教えてもらったんです。コロナ禍にピアノを猛練習し、楽器の仕組みについても学んでいくうちにすごく楽しくなって。そこから「私がソロでライブをやるなら」と想像するようになりました。実際に初めてのソロコンでもピアノの弾き語りを披露しましたし、自分ができることを少しずつ見つけていった感じです。
──ソロでの音楽活動に対して、やりたい / やりたくないという基準ではなく、やる意味があるかどうかという考え方をしていたんですね。
やっぱり、ももクロ4人のパワーを1人で出すことは無理なんですよ。だからグループでの活動とは違うもの、グループではできないようなアプローチの仕方を見つけないと……と思っていました。グループで活動しているときの私、そうじゃないときの普段の私、どっちも本当の私だけど、ももクロの中にいるときのほうが強い自分でいられるというか、気合いの入れ方が違うんです。本来は「やらなくてもいいことは、できればやらないで生きていきたい」「そんなポジティブにはいられないよ」みたいな自分もいるんですよ。だから、ソロでは自分のそういう面も素直に包み隠さず歌詞にしたり、ライブ中のMCで自然体のままトークをしたりしていて。
──過去に開催されたソロコンサート「Talk With Me」は、ビジュアルこそスタイリッシュで大人びたものでしたが、そのタイトルには「お客さんと1対1で話しているような距離感で私を感じてもらいたい」という意味を込めていたんですよね。実際、ライブ中のMCは見ていて安心するような非常に緩やかな空気感でした。
グループとして活動しているときのように強くはいられないんですよ。だからこそ、自分ならではの色、ソロならではの色がちょっとずつできてきました。ソロコンサートではステージに立つとき、ほとんど緊張しないんですよ。逆にももクロのライブは今でもすごく緊張する。いい意味でプレッシャーが大きい場所だから。ソロコンだと自分らしさが出せるので、お客さんにはそういうところも楽しんでいただけているのかなと思います。
──ピアノを演奏するときも、ソロコンではそんなに緊張しない?
いや、ピアノの弾き語りに関しては今も口から心臓が飛び出そうになります(笑)。
──そうなんですね(笑)。ももクロのメンバーがライブで楽器を弾く場面があると、無事に成功するかどうか観ている側もドキドキすることが多いですが、百田さんのピアノ演奏に関しては1つの表現のスタイルとしてライブの中に馴染み、確立された印象があります。
えー! 本当ですか? ピアノはピアノで壁にぶつかるんですけど、音楽に直接触れるというか、ドレミファソラシドとダイレクトに向き合うことになるじゃないですか。先ほども話したように、それまで絡まっていた糸が少しずつほどけいくような感覚があって。今まで歌についてどれだけやってもできなかったこと、教えてもらっても理解できなかったことが、国語的な感覚ではく、数学的に答えとして目の前に出てきたので、音楽の世界にすごく入っていきやすかった。それは自分にとって本当に大きなことでした。ピアノが歌とつながる瞬間があって、今も歌についてわからないことが出てきたらピアノと向き合っています。歌もピアノもダンスも、私よりうまい人は世の中にたくさんいるわけで、自分にできること、自分らしい表現ってなんだろうと考えたりもするんですけど、“自分の呼吸で音を出す”ということが私自身の色になっていくんだなと知りました。
10年前の珍回答をアルバムタイトルにした理由
──ではここからアルバムの話を。百田さんの1stソロアルバムがリリースされると聞いたとき、ソロコンサート「Talk With Me」のビジュアルのイメージなどもあり、おしゃれで大人びたアートワークやタイトルを勝手に想像していたのですが、その予想は面白い方向に裏切られました。10年前の自身の珍回答「ビタミンB」を、記念すべき初ソロアルバムのタイトルに持ってこようと思ったのはなぜでしょう?
このアルバムには私が今までソロコンサートで歌ってきた、自分で作詞をした曲が収録されていて。普段作詞をするときは、自分が人生の中で出会ってきた感情や言葉を詞に入れたりしているので、私の人生観が詰まった作品になるなと、制作が始まる前から思っていたんですね。そんなアルバムのタイトルをどうしようかと考えて、改めて自分の人生を振り返ってみると、楽しかったこと、うれしかったこと、幸せだったこと……苦しかったこと、悔しかったこと、悲しかったこと、本当にいろんなものと出会って、いろんなものを引き寄せてきたなと感じました。そしてライブにはいつも、モノノフ(ももクロファンの呼称)の皆さんが赤いTシャツ姿で来てくれる。そういう“引き寄せ”というものをアルバムのテーマにしたいなと思ったんです。引き寄せ、つまりは引力。その1つのワードが出てきたときに「ちょっと待てよ、引力ということは……」と。
──そこで「ビタミンB」というワードが連想された(笑)。
はい。「モノノフさんも“引力”という言葉を聞いたらビタミンBのことが思い浮かぶと思います」とアルバムの打ち合わせで話したら、制作のスタッフの皆さんが一瞬「……」みたいな(笑)。「どういうことでしょうか?」というリアクションだったんですけど、前に番組でこういうことがあって、その出来事をモノノフの皆さんが今も楽しんでくれているんですと説明して。私にとっては引力と言えばビタミンBで、それはきっとモノノフさんにとっても同じだと思うんです。それにビタミンBって摂取したら元気になるものじゃないですか。アルバムを聴いて元気になってほしいという思いも込めて、このタイトルにしました。ただ、番組でのエピソードがかなり昔のことなので、アルバムのタイトルを聞いてみんなどんなリアクションをするだろうと、けっこうドキドキしていました。当時のことを知らない人は「どういうこと?」って思うだろうし。でもいざ発表したら、モノノフさんがたくさん盛り上がってくれてすごくうれしかったです。
──百田さんのいわゆる“おバカキャラ”な一面は初期からの大きな魅力で、モノノフの方々から愛されてきました。これまでいろいろな言い間違えや珍回答があった中、「ビタミンB」はその代表作ですよね。
代表作!(笑) 当時の失態を取り戻そうとしているわけではないんですけど、10年前の出来事をこのタイミングで回収できてよかったです。
──自身の珍回答を恥ずかしい過去、黒歴史と捉えてるのではなく、10年経って自ら掘り返していくマインドが素晴らしいです。
本当は恥ずかしい部分なんですよ(笑)。でも、モノノフさんが私の不得意な部分も含めて楽しんでくださることによって、それがチャームポイントになっていくこともたくさんあるんです。だから「ビタミンB」についても堂々と打ち出していこうと。
綾小路 翔による楽曲提供のきっかけは、「ヤンキーになってみたい」
──ここからはアルバム「ビタミンB」収録の新曲について聞かせてください。まずはアルバムの1曲目を飾る「惚れたが勝ちのI LOVE YOU」について。この曲はももクロとゆかりの深い氣志團の綾小路 翔さんが作詞作曲を手がけたことが何よりのトピックですが、どういう経緯で楽曲提供が決まったんですか?
アルバムのジャケットは私の頬にリンゴがぶつかっているビジュアルになっているんですけど、「リンゴがぶつかったことで新しいドラマが生まれる。自分自身とは違うヒーローになれる」という裏の設定があって。その発想からソロツアーのフライヤーなどに使っている、もう1つのビジュアルが生まれました。リンゴがぶつかったことで何に変身するか、例えばそれは動物とかでもいいかもしれないし、スタッフさんといろいろな案を話し合ったんですけど、クールで強めの感じのビジュアルにしたらアルバムのジャケットと対照的になって面白いんじゃないかという話になり、サングラスをかけたイケイケなビジュアルになりました。あと、「ヤンキーになってみたい」ということを私が打ち合わせで言ったんですよ。ヤンキーって強さと同時に仲間を大事にする優しさや男気を持っていて、それでいてちょっとバカな部分もあるというイメージで。そういうヒーローになりたいと思ってこのビジュアルを撮っていたんですけど、そのときに翔さんのことが思い浮かびまして。翔さんに曲を書いてもらえたらアルバムがすごく盛り上がるだろうなと思い、お願いしてみたら引き受けてくださいました。
──ビジュアル先行で曲が作られたんですね。
はい。翔さんにはこのビジュアルを見てもらったうえで曲を書いていただいて。そしたら最高の楽曲が届きました。「氣志團万博」に出演したときに氣志團さんの曲をカバーさせてもらったり、逆に氣志團さんが「ももいろ歌合戦」に出てももクロの楽曲をカバーしてくださったり、今までそういうつながりはあったんですけど、楽曲提供はこれが初めてで。10年以上お世話になってるお兄ちゃんのような存在の方に曲を書いていただけることがすごくうれしかったです。オファーさせていただくときに「氣志團さんのこういう楽曲のようなイメージで」とお伝えしたところ、翔さんは「元気でパワフルな曲を書こうと思ったら、なぜかわからないけど昭和路線のほうにいってしまいました。でも、これを百田さんが歌ってる姿を想像したらすごくカッコよかったので、いかがかなと思いました」みたいなコメントとセットで曲を送ってくださって。そのコメントの最後に「イメージと違いましたらすぐに全部書き直しますので」と翔さんらしい言葉も書いてあったんですけど、私としては最初に曲を聴いたときから「これを歌いたい!」と思いました。
──「惚れたが勝ちのI LOVE YOU」はタイトル、歌詞、曲調すべてにおいて翔さん節全開の楽曲ですよね。
そうですね。翔さんの提供曲であることが、最初の音が始まった瞬間からわかります。ライブでこの曲を歌うのが楽しみです。
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「ビタミンB」が曲になって「私自身が一番驚いています」