「大丈夫だからね」と言える自分でありたい
──生田さんはこの曲をレコーディングするにあたって、どういったことをイメージしましたか?
生田 “空間”をイメージすることはすごく意識しました。「玄関を閉めて1人になったな」とか。「ここは1人で歌ってるけど、この部分は聴いてくれてる人に語りかけているのかな」と想像したり。
──「語りかけている」部分だと、2番のサビ前に「『大丈夫だからね』」というカギカッコ付きのフレーズが出てきますね。
生田 歌詞の最初のほうの「だからね」は、自分に言い聞かせるというか、自分の心を探っていくようなイメージなんですけど、後半に出てくる「だからね」は、相手に向けて「『大丈夫だからね』」と励ますフレーズに変化していて、グッときます。
柳沢 昨日の夜にまた音源を聴いていたんですけど、1曲の中で歌がどんどん柔らかくなっていってるように感じて。オケとの兼ね合いもあると思うけど、最初のほうは緊張感があるというか、ちょっとシリアスな歌声になってる。だけど、歌詞と連動するように、後半にかけて歌が開いていってるように聞こえたんですよね。今いくちゃんが言ってくれたように、最初のほうのフレーズは内に向いていて、鍵を締めた部屋の中にいるイメージで書きました。だけど2番のAメロの「希望みたいなものを届けたい 届けられる人でありたい」とかは、「どんなに自分の気持ちが沈んでいるときでも、誰かの前に立つんだったら1人くらい笑顔にしたい」という気持ちがどこかにあるんじゃないかなと思って書いたフレーズで。曲が進むにつれて、いくちゃんしか知らない部屋の中の自分と、俺たちが見ているいくちゃんがクロスしていく感じになったらいいなと考えていたんです。だから、内に向いてるだけじゃなく、外に矢印を向けて曲が終わっているのは、いくちゃんの歌の技量と、自然と意識が“人”に向いているからなんじゃないかなと感じました。
生田 歌ってるときに考えてたことがすごく伝わってる! 怖いくらいです。
柳沢 これだけしゃべって「うーん」と言われても、それはそれで赤っ恥をかくだけだから困るけど(笑)。
生田 矢印は本当に意識した部分なんですよ。2番は“人”の存在をイメージして歌っていて。強がっている感じでもなく、「大丈夫だからね」と言える自分でありたいという意識で歌っていたので、それをキャッチしてもらえたのはありがたいです。
末永く続けたいな、という思いが根本にある
──EPには生田さんの自作曲「Laundry」「No one compares」「I’m gonna beat you!!」も収録されています。柳沢さんはすでに聴かれましたか?
柳沢 はい。最初の打ち合わせの前に、去年の国際フォーラムのライブ映像を観させてもらったんですよ(参照:生田絵梨花が自作のオリジナル曲を3曲披露 ユーミン、椎名林檎、IVE、ミセスらの名曲もカバー)。この3曲はライブでも披露されていたので、完成したEPの音源を聴く前から知っていました。面白いなと思ったのは、曲の主人公の人格みたいなものが曲によってけっこう違うんですよね。
生田 ホントですか(笑)。
柳沢 「Laundry」はジャジーで、ピアノが主体となっているところがいくちゃんっぽい。映像の印象もあるかもしれないけど、楽しそうに弾いてる感じがあるよね。「I’m gonna beat you!!」は歌詞が少女的というか、やんちゃ感がある。かと思ったら「No one compares」では、まだ知られていない、いくちゃんの心の奥底にある思いが歌われていて。
生田 統一できる技量がないというのもあるのかもしれないですけど(笑)。ただ、リリースを目的に作り始めたわけではなく、「ライブで聴いてもらえる曲を作りたい」という思いが最初にあったので、いろんな曲調の楽曲ができたらいいなとは思っていました。あとは歌詞から作るのか、曲調から考えて言葉をはめていくのかというところでも、曲の雰囲気が変わってくるのかなって。
──基本的にはどういう作り方をしてるんですか?
生田 使いたい言葉、フレーズが思い浮かんだら、そこに歌のメロディとピアノ伴奏を付けていく感じですね。
柳沢 使いたいフレーズから入るその作り方、すごくいいと思う。俺もそんな感じでやってるな。例えば「だからね」だと、「大丈夫」という言葉をどこかに入れたいなと思って、そこから作っていったから。ビーバーにおいても、言いたいことがないと曲ができない。
生田 じゃあ伝えたいメッセージが最初にあって、そこから作っていくんですね。
柳沢 そう。「何を歌にしたいかな?」と考えてる時間がすごく多いかな。そんなに自分が思うことは日々コロコロ変わらないし。
生田 私はバーッと作れるときと、すっからかんのときがあるんですよ。ムラがあるというか。柳沢さんはこれだけ曲を作っていたら、「自分が伝えたいことって何?」という状態になったりしないんですか?
柳沢 そういうこともあるけど、最近はそこに対してポジティブに思えるようになってきた気がする。歳を重ねて、いいことも嫌なことも含めて経験が増えると、同じ物事に対する見え方が少しずつ変化していくものだなと感じるから。昔とはちょっと違った視点で物事を考えられたりする。とはいえ、曲を書いてるときは全然余裕ないけどね(笑)。何も思いつかなくて、すっからかんの状態もよくわかる。
生田 しかも柳沢さんの場合、タイアップの曲を書くことも多いですもんね。
柳沢 その作品とまったく関係ないことはもちろん歌えないからね。でも、そうやって夜中に考えてしんどくなってるときに、結局行き着くところは日々いくちゃんが考えているようなことにきっと近い。もし俺がスタッフさんもいない環境で1人で勝手に活動してるだけなら、いつだって辞められるし、もっと適当でいいのかもしれないけど、そんなことをしたら自分自身に納得がいかないし、何よりそばにいる人をがっかりさせたくない。そういう気持ちが年々強くなってきてる気がする。“人”がいなかったら、そんなに落ち込みもしないんじゃないかな。やっぱりそういうところに、いくちゃんと自分に近い感覚があるなと、曲を作りながら思った。
──生田さんは俳優、声優と幅広く活動されていますが、その中でソロでの音楽活動というのはどういう位置付けなんでしょうか?
生田 うーん……ピアノと歌を小さい頃からやってきて、それを末永く続けたいなという思いが根本にあって。自分で曲を作り始めるようになってからは、「自分はどんな人間なんだろう? 本当はどう感じているんだろう?」と模索してる感じがあります。かつ、自分のことだけを考えて勝手に作っているわけじゃなくて、何かしら誰かに引っかかったらいいなとか、届いたらいいなとイメージしながらやっていて。今はそういう状態で、自分にとって音楽が何なのか、まだ今はわからないというか、探している途中ですね。
柳沢 「だからね」に関しては、ピアノを弾かずに歌うんだよね?
生田 そうです。唯一弾かない曲なんですよ。
柳沢 「ピアノを弾かない曲でもいいです」って最初に言っていたよね。だから、ライブでどういうパフォーマンスになるんだろうって気になる。
生田 私はまだピアノでしか曲が作れなくて、いつも結果的にピアノ弾き語りの曲になるので、せっかく提供してもらうならバンドアレンジの曲がいいなと思ってたんです。
──いつかステージでのお二人のコラボも観てみたいですね。
生田 えー! よろしいんですか?
柳沢 ギター弾くくらいしかできないけど(笑)。
生田 うわー、そんな機会があったら最高ですね!
プロフィール
生田絵梨花(イクタエリカ)
2011年に乃木坂46の1期生オーディションに合格。中心メンバーとして活躍したのち、2021年末にグループを卒業する。卒業後は俳優として「ロミオ&ジュリエット」「レ・ミゼラブル」といったミュージカルをはじめ、テレビドラマや映画に出演。2023年12月より上映されたディズニー100周年記念作品「ウィッシュ」で主人公アーシャの日本版声優を務めた。4歳からピアノを習っており、音楽への探求心も高く、コロナ禍のステイホーム期間に独学で作詞作曲を始めた。2022年夏と冬にZepp会場でソロライブを開催。2023年秋にはソロツアー「Erika Ikuta Autumn Live Tour 2023 TOUR」を行った。2024年4月にソニー・ミュージックレーベルズより自作曲も収録した1st EP「capriccioso」をリリースする。
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SUPER BEAVER(スーパービーバー)
渋谷龍太(Vo)、柳沢亮太(G)、上杉研太(B)、藤原“35才”広明(Dr)の4人によって2005年に東京で結成されたロックバンド。映画「東京リベンジャーズ」「水上のフライト」やドラマ「マルス-ゼロの革命-」「あのときキスしておけば」、アニメ「僕のヒーローアカデミア」「ハイキュー!! TO THE TOP」などさまざまな作品にテーマソングを提供している。年間を通して精力的にライブ活動を行っており、2023年7月に山梨・富士急ハイランド・コニファーフォレストでキャリア史上最大キャパシティの野外ワンマンライブ「都会のラクダSP ~ 真夏のフジQ、ラクダにっぽんいち ~」を開催。同年9月よりホールとアリーナを回るロングツアー「都会のラクダ TOUR 2023-2024 ~ 駱駝革命21 ~」を行い、2024年2月にアルバム「音楽」を発表した。6月より野外ツアー、10月から日本武道館2DAYSを含むホールツアーを行う。
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