HYDE「6or9」インタビュー|唯一無比のエンタテインメントを極め続ける求道者

2018年6月にシングル「WHO'S GONNA SAVE US」でソロ活動を本格的に再始動させたHYDE。それから今日に至るまで、彼は楽曲のリリース、さまざまな形態でのライブ、さらにはYOSHIKI、SUGIZO、MIYAVIと結成したTHE LAST ROCKSTARSとしての活動と、まさに八面六臂の活躍を見せてきた。

そんなHYDEが2023年におけるライブ活動の集大成とも言える公演を、千葉・幕張メッセ 幕張イベントホールで9月9日と10日に行う。このライブを前に、音楽ナタリーではHYDE本人にインタビュー。6月から行われているツアーの感触、配信リリースされたばかりの新曲「6or9」、後輩アーティストたちとの交友などについて聞いた。

取材・文 / 中野明子撮影 / 田中和子[CAPS]

自信があるならやっちゃえばいい

──今は全国ツアーの最終公演「HYDE LIVE 2023 Presented by Rakuten NFT」を控えていらっしゃる状況ですが、ここまでのツアーの感触はいかがですか?

やっとコロナ禍の前の感じに戻ったなと思うと同時に、お客さんの盛り上がりが激しいですね。3年間溜め込んだ思いを発散してるのか、みんな前よりアグレッシブになってない?みたいな(笑)。ツアーが始まる前は、ほかのアーティストがインタビューで「声出し解禁になったけどお客さんがビビってるのか、歓声があまり聞こえない」と話しているのを読んで、僕のライブでも最初はそうかなと思ってたんですよね。でも、いざツアー初日を迎えたらお客さんがものすごい声量で歌ってくれたので感動しました。

──私はツアー初日を取材したんですが(参照:「帰ってきた気がする」HYDE、3年半ぶり声出し解禁ライブで大歓声浴びながら絶唱)、序盤から盛大なシンガロングが起きて熱狂的でした。ツアー前のインタビューでは「100%のHYDEを見せる」と宣言されていましたが、手応えも感じていますか?

はい。これ以上激しいライブをやったら、お客さんが潰れちゃうレベルなので、怪我をしないためにもちょうどいい感じかな。

──今回のツアーでは2階席のお客さんの撮影をOKにしたり、SNSでの反響を受けてInstagramで公演全編の模様を何回も生配信したり、ライブ写真も随時新しいものを公開したり、いろんな形でライブの魅力を発信されていますよね。そもそもHYDEさんのような大御所の方が、お客さんの撮影を全面的にOKとするのは珍しい気がします。

海外では、お客さんの撮影がNGというライブはほとんどないんですよね。だから海外でライブをするときは撮影を取り締まりようがなくて。日本は基本的にライブ中の撮影はダメというのが常識になってるけど、それがプラスなのかマイナスなのか考えたときに、自分としてはどうだろうと。その結果、今の時代はSNSで拡散されるのが一番のプロモーションになると思うので、僕はライブに自信があるからOKにしちゃえばいいかなって思うようになったんです。インスタライブでの配信も自信があるならむしろプラスにしか働かないだろうし。

HYDE

──それにしてもライブ全編配信は太っ腹すぎませんか?

確かに1、2曲配信するのがスタンダードな感じだけど、数分程度のインスタライブって見逃すことが多くないですか?

──多いですね。観始めたらすぐ終わっちゃったみたいな。

時間が長いほうがいろんな人が観てくれるし、絶好のプロモーションになると思ってからは積極的にライブ全編を配信するようになりましたね。僕にはコアなファンが多いので、ありがたいことにその子たちだけでライブのチケットはある程度売れる状態だけど、ファン以外にプロモーションができないのはアーティストとしてよくないなと。それを考えるとSNSでの発信は効果的なんです。だから逆になんでみんなやらないんだろう? そんなにライブに自信ないのかなって思っちゃう(笑)。

──コア層向けに活動していても十分だけど、それに甘んじてはアーティストとして成長できないという。

そうですね。僕みたいに長年活動しているアーティストは特に、そういった危機感や意識が大事だと思ってます。SNSに上がっているライブ映像や写真を観てそれだけで満足する人もいるだろうけど、それを見て1人でも「HYDEのライブに行ってみたい」と思わせることができたら僕にとっては勝ちなんです。だから積極的にそういう“技”は使っていきたいなと。

サービスではなくサプライズ

──今回のツアーではこれまで以上にお客さんとのコミュニケーションを取られているなと思うんです。積極的にフロアに降りたり、客席の間でパフォーマンスをしたり……それによって物理的な面でも精神的な面でも距離感が近くなっているというか。

うーん、僕自身は距離が近付いたという感じはしないんですよね。お客さんとの精神的な距離はある程度ないとナメられると思ってて、ライブが始まると攻撃態勢になるんです。僕はお客さんからナメられるようなアーティストにはなりたくなくて。もちろんライブを楽しんでもらいたいので、緊張をほぐすような行動や発言もするんだけど、ナメられたり、馴れ合うためじゃない。あくまでもライブを盛り上げるため。お客さんの近くに行くという行為は、僕にとってサービスではなくてサプライズなんです。アーティストとして「HYDEってこんなことするんだ!」と驚かせたい。

──あくまでエンタテインメントとしての演出であると。

だからツアーをやりながら、ちょっと馴れ馴れしくしすぎたかなと思ったら変えるようにしてます。ここ最近のライブでの行動を見て、ファンへのサービスが増えたという印象を持たれるかもしれないけど、僕的にはバランスを取るようにしてますね。「あ、これはナメられてるな」と感じたら、厳しい態度を取ることもある。フロアに降りたときに、お客さんのことを制御できるようにすることもアーティストの力量だと思うんです。

──今の話を聞いて、The BONEZのJESSE(Vo, G)さんがおっしゃっていたことを思い出しました。The BONEZはライブにおいて「誰も置いていかない」というスタンスを掲げていて、モッシュやダイブのカルチャーを理解できない人たちに理解してもらえるようにMCをしているそうなんです。さらにダイブをするうえでのマナー、しない人たちに対する配慮や気遣いについても常日頃お客さんと話しているとおっしゃっていました。同時に、アーティストが人の上に立つにはちゃんとしたスキルとルールがあるということも言及されていて、演者には演者としての責任があると(参照:The BONEZ特集)。

その通りですよね。僕は「態度を見ていればわかるでしょ?」と思って、以前はあまり注意事項は言ってなかった。でも、ライブで危険な状況を生むわけにはいかないから、お互いのことを守るには、僕もきちんと言葉で伝えなくちゃいけないなと感じてます。

装飾品は増えても、中身が劣ってたら意味がない

──去年のツアーから披露されてきた「6or9」が、満を持してツアーファイナル前にリリースされます。この曲はTHE LAST ROCKSTARSでも演奏されていて、まさにライブで温められてきたと言える1曲です。

確かに。「6or9」はコール&レスポンスを軸にした曲なので、声出しがOKになる今回のツアーが始まるまで本当の完成形が見えなかったんです。ライブで盛り上がるだろうなと思って作っても、実際お客さんの前で演奏したら反応があまりよくなかったということもあるので、作ってるときは賭けの部分もあるし。

──今のようにコール&レスポンスが可能になってからと、それができなかったときとで曲の印象は変わりましたか?

もちろん。ライブのいい起爆剤になってますね。極端な話、演奏がなくても成立するような曲だし。

──と言うと?

コール&レスポンスだけでも曲が成立するということ。今、ライブ会場での入待ち出待ちを会場によってはOKにしているんだけど、僕がそこでワンフレーズ歌っただけでも、ファンの子が返してくれて、アカペラでも曲が成り立つんです。

──ファンにすっかり浸透しているわけですね。この曲はhicoさん、AliさんというHYDEさんの作品ではおなじみのお二人に加え、乃木坂46やAKB48の楽曲も手がけているAPAZZIさんもクレジットされていますが、いつ頃から制作に着手されたんですか?

実はVAMPSとして活動していた2017年くらい、「UNDERWORLD」(2017年4月リリースのアルバム)を出した頃からこの曲の原型はあって。そのときにAPAZZIさんとプリプロをして作った曲で、ライブでめっちゃ盛り上がるんじゃないかなと思ってたんだけど、そのときはあまりスタッフの反応がよくなかったので寝かせていたんです。でも、自分としては自信があったので、数年経ってからサビのアレンジをして周りに聴かせてみたらすごく反響があって。一昨年くらいからhicoにも入ってもらって、今のHYDEバンドに合うようなアレンジにしていった感じですね。

HYDE

──今回のリリースのためのレコーディングはいつされたんですか?

歌自体はちょうどツアーが始まる前くらいかな。よくある話なんですけど、まだ歌詞も固まってないような初期のデモ音源やプリプロの音のほうが勢いがあることが多いんです。歌詞が付くと大人しくなっちゃうんですよ。だから、レコーディングでは初期衝動を忘れないように意識しています。デモ音源の自分の歌を真似するというか。例えば、何かのタイミングで古い音源を聴いたときに、昔のほうがカッコいいと思ったら、そこを意識して修正したりもするし。ライブも含めて「今のほうがいい」と勝手に思い込んじゃってるからよくないんだよね。

──そういったエピソードはいろんなアーティストの方が話されていますね。レコーディングは過去の自分と対峙する作業だと。HYDEさんが昔の自分に勝つコツはありますか?

おごらないことかな。装飾品は増えても、中身が劣ってたら意味がないというか。例えば歳をとってアクセサリーを着け始めたら見た目はおしゃれになるけど、肉体的に衰えていたら、トータルで考えたら前のほうがカッコいいということもあるし。キャリアを重ねればその分テクニックは増えるけど、衝動が抜けてしまったりするから、そうならないように気を付けてますね。