HYDE「TAKING THEM DOWN」インタビュー|今こそ反撃の狼煙をあげるとき。獰猛な新曲が示すHYDEの現在地

「2022年後半はアメリカへの挑戦を再開させる予定です」。2022年初夏にインタビューをした際、今後の展望についてそう明言していたHYDE(参照:HYDE「HYDE 20th Anniversary ROENTGEN Concert 2021」インタビュー)。多くの人がその挑戦とは、ソロアーティストとしてのものだと思っていたのではないだろうか。

しかし彼は大方の予想を裏切り、YOSHIKI(X JAPAN)、SUGIZO(LUNA SEA、X JAPAN)、MIYAVIとTHE LAST ROCKSTARSを結成。国内外でライブを行い、新曲を世界に向けて発信するなど挑戦者としての姿をリスナーに印象付けた。そして各方面で話題を呼んだTHE LAST ROCKSTARSの活動がひと段落したタイミングで、HYDEは新曲「TAKING THEM DOWN」を発表。さらに新曲を携えて、ワンマンツアー「HYDE LIVE 2023」に乗り出す。前回のインタビューから約1年。HYDEの現在地はどこなのか? 一連の活動を振り返りながら掘り下げた。

取材・文 / 中野明子撮影 / 田中和子(CAPS)

ブラッシュアップ係としてのHYDE

2022年9月に氣志團主催の野外フェス「氣志團万博2022 ~房総魂~」でその年最後のステージを踏んでから約2カ月沈黙を守っていたHYDE。しかし、同年11月にYOSHIKI、SUGIZO、MIYAVIとの新バンド・THE LAST ROCKSTARSの結成を突如発表すると(参照:YOSHIKI×HYDE×SUGIZO×MIYAVIのバンド結成理由とは?世界に飛翔するTHE LAST ROCKSTARS会見)、年末には「第73回NHK紅白歌合戦」に出場し、今年に入ってからは東京、アメリカ・ニューヨークとロサンゼルスを巡る初ツアーを行うなど“新人バンド”として精力的な活動を展開した。L'Arc-en-Cielの結成から32年、ソロとしての活動歴が20年を超える彼は、新人としての日々から何を受け取ったのだろうか。

「僕はこれまで、ほかのアーティストがどんな形で制作を進めているのか、どうやってライブを企画しているのかほとんど知らなかったんです。だからTHE LAST ROCKSTARSで、X JAPANやLUNA SEA、MIYAVIが普段どうしているのかを知れたのはすごく面白かったし新鮮でした。『こう進めれば効率的なんだ』『YOSHIKIさんはこうやってるんだ』とか、音楽制作のほうでも勉強になる部分がありましたし、ライブの作り方とかそれ以外の仕事の進め方、考え方においても刺激を受けましたね。例えば、YOSHIKIさんはライブ当日にスタッフを含めた全員を集めてミーティングをするんです。リハーサルはどうだったのか、前日のライブではこういうことがあったから、今日はこうしようと顔を合わせて話し合う。僕の場合、ライブ前にそれぞれが反省点を挙げて共有することはしますけど、みんなで集まって話すことはなかったので新鮮でした。今後もこのメンバーだからこそできることもあるだろうし、THE LAST ROCKSTARSで得たものを別の場所でも生かせると実感してます。」

HYDE

コロナ禍の影響で続いていた行動制限が緩和され、国内でライブ会場での声出しが解禁されたのは今年3月のこと。THE LAST ROCKSTARSの初ツアー開催時は、マスク着用を前提に「隣の人と会話する程度の声量での歌唱や声援は問題ない」「出演者の登場や呼びかけ、コール&レスポンス、ファンサービス、演出効果などに対して、一時的に大きな声を出すことも制限しない」という通達がある状況だった(参照:THE LAST ROCKSTARSが新曲一部公開、ライブに向けYOSHIKI「歌う準備をしておくように!」)。一方でアメリカを含む海外ではマスクの着用も任意で、ライブハウスではコロナ禍前の光景が戻ってきていた。

「ツアーが始まったときは日本では声出しが全面的に解禁されていたわけではなかったので、中にはまだ感染を怖がってる人もいたと思います。ただ、お客さんの歌声を聴いたときに、コロナ禍前までは歓声や声が聞こえるのが普通だったんだなと改めて思い出して、どこか不思議な感じもしました。一方でアメリカ公演は規制が完全に解除されていたのもありますが、みんな野生的な感じで、すごく盛り上がって。アメリカのライブでシーンとしてたらちょっと心配になっちゃいますけどね(笑)。」

ソロ活動においては、すべてのクリエイティブに関わり、最終的には1人でジャッジを下す必要があるなど重責が伴う。しかし、バンドとなればその役割を分担できる部分もあることだろう。そこにおいてのHYDEの役割とは。

「THE LAST ROCKSTARSにおいては、僕はブラッシュアップ係だと思ってやりました。それぞれが考えたアレンジやメロディ、歌詞をブラッシュアップしていく。メンバーそれぞれ忙しいので、楽曲制作に限らず、映像面やライブでもその役割を担っていると思います。」

置かれている状況や人生観を反映した「TAKING THEM DOWN」

THE LAST ROCKSTARSの初ツアーを終えたあと、HYDEがワンマンツアー「HYDE LIVE 2023」を開催することを発表したのが今年3月。そしてファンがツアー開幕を待ち侘びる中、新曲「TAKING THEM DOWN」のリリースがアナウンスされた。「TAKING THEM DOWN」は、サミーの遊技機「P真・北斗無双 第4章」のタイアップ曲で、クレジットにはhico、Aliというお馴染みのクリエイター、HYDEバンドの一員としても活躍するラウドロックバンドMAKE MY DAYのJulianが名を連ねる。

「『TAKING THEM DOWN』は、Julianが『HYDEさんに曲を書きました』と2021年に原型となる曲を持ってきてくれて。それをAliとhicoを交えてああだこうだ言いながら制作していきました。自分が歌ううえでキャッチーであることは常に大切にしてるんだけど、Julianが作ってきたデモはちょっとヘヴィメタル色が強かったので、シンセ系の音を入れたり、hicoにメロを加えてもらったり、それぞれのよさを持ち寄って作り上げましたね。なぜか僕に『この曲を歌ってほしい』と言ってきてくれるのは、メタル系の人が多いんです(笑)。僕が歌うことでメタルシーン以外から見られるだろうし、バンドではできないアプローチができるというのが面白いのかな? Julianの場合は自分のバンドもやってるから、僕としてはそっちに負けたくないという気持ちもありました。僕もいい曲じゃないと採用したくないから、一緒にブラッシュアップしていったし、お互いにいい刺激になったと思います。」

「P真・北斗無双」シリーズに楽曲を提供するのは、VAMPS時代から始まり、HYDEとしては2020年3月リリースの「INTERPLAY」に続き2回目。「INTERPLAY」は令和という時代の幕開けと、HYDE自身が新しいフェーズに突入したことを歌った、煌びやかなシンセサイザーの音が耳に残るナンバーだった。この曲も十分に攻撃性の高い曲だったが、新曲「TAKING THEM DOWN」にはそれをも上回る猛々しさがほとばしっている。HYDEの特徴である艶やかでありながら獣のように獰猛なボーカル、脳髄を刺激するハイボルテージなサウンド──聴く者をどこまでも高揚させていく1曲に仕上がった。

「『P真・北斗無双 第4章』サイドから『こういう曲にしてほしい』というオファーは特になくて、自由だったんです。でも、『INTERPLAY』に続いてのタイアップであることを踏まえて、パチンコに合う景気がいい曲にしたいなとは思いましたね。パチンコって基本的に“負け”からスタートするでしょ? プレイしていく中で、どんどん玉が減っていくわけで。それでも、いつか盛り返せる可能性を秘めている。そういうことをイメージしながら『追撃』とか『反撃マイターン』といった言葉を盛り込んでいきました。」

2021年に制作が始まったという「TAKING THEM DOWN」だが、歌詞に連なる言葉は2023年の世情とシンクロする一面を持つ。エンタテインメントが息を吹き返し、再び活発になるタイミングで世界に対して改めて存在感を示し、“反撃”をしていくという意志だ。同時にHYDEが攻撃の手を緩めることなく、これからも1人の挑戦者として活動を続けていくことも示唆しているよう。

「もちろんタイアップのために書いた曲ではあるけど、自分の置かれている状況とか人生観も反映されているので、ダブルミーニングを含んでますね。作り始めたときはパンデミックの真っ最中で大変な時期だったけど、いつかファンと一緒にこの状況に反撃できるタイミングがきてほしいと願ってました。この曲はライブでも盛り上がるんじゃないかな。最初にJulianからデモが届いたときに、直感的に『FXXX』って叫びたいと思ったんです。それが作詞のとっかかりで。合唱で始まって、ジャンプして、お客さんと一緒に叫んで、ヘッドバンキングをする……その光景を思い浮かべながら曲を作りました。」

HYDE

2018年にソロとしての活動を本格的に再開してからのHYDEの作品は、ラウドロックを軸とした目まぐるしい展開の楽曲が多くを占める。血湧き肉躍るような熱量の高い音像が特徴で、3分台の楽曲が大半。「TAKING THEM DOWN」は3分を切る短さでありながら、聴き終えたときに満足感が残る濃密なサウンドメイクが魅力だ。

「自分が作る曲については、基本的に3分半を目指してますね。無駄に長くすることもしたくないし、かと言って短すぎるのも好きじゃない。僕としては、今やってる音楽性がテンポ感なども含めて3分くらいがちょうどいい。今のアメリカの音楽の主流が3分前後なので、それに慣れてしまったかな。」

次のページ »
100%のHYDEを見せる