HYDE「HYDE 20th Anniversary ROENTGEN Concert 2021」インタビュー|“静”を極めた2021年にHYDEは何を手にしたのか?

コロナ禍真っ只中の2021年、HYDEがソロ活動において極めたのは“静”の一面を打ち出した歌とステージだった。

昨年はL'Arc-en-Cielのライブを含め51公演を行い、ライブアーティストとしての存在感を改めてファンに印象付けたHYDE。彼はソロ20周年という節目を、「ANTI WIRE」というアコースティックライブツアーに始まり、1stアルバム「ROENTGEN」の再現ツアー、2日間にわたる平安神宮公演、そして幕張および故郷和歌山での「黑ミサ」という3タイプのオーケストラコンサートで彩った。

トピックに満ちた1年を経て、このたび平安神宮公演の2日目と、「ROENTGEN」再現ツアーより神奈川・パシフィコ横浜 国立大ホール公演の模様を収録した映像作品が「HYDE 20th Anniversary ROENTGEN Concert 2021」としてリリースされた。さまざまな制約を守りながらも、自身の武器の1つである歌をじっくり聴かせるステージというコロナ禍において最適解とも言える手法を見出し、コンサートをコンスタントに開催したHYDEは自身の2021年の活動をどのように評しているのか。さまざまな質問を通して掘り下げた。

取材・文 / 中野明子撮影 / Kazuko Tanaka(CAPS)

ひさしぶりに暴れるのは楽しい

──現在行われている対バンツアー「RUMBLE FISH」、どの公演も充実していることがSNSなどを通して伝わってきます。

「RUMBLE FISH」は1公演1公演に意味があるというか、すごく勉強になってますね。相手のいいところを吸収して、それをステージで見せられるし、来てくれたファンがその“ドラマ”を楽しんでいる気がします。ただ単に2組のアーティストがライブをするだけではなくて、セッションもすることでお互いに相乗効果がある。

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──私は初日の東京公演(参照:HYDEが牙を剥き出す“闘魚”に変貌、待望のライブハウスツアー初日でロットンと熾烈な直接対決)と、福岡公演(参照:HYDEが“後輩”THE ORAL CIGARETTESとタイマン、互いへの愛とリスペクトにあふれた福岡公演)を拝見したんですが、アーティスト同士はもちろん、双方のファンがリスペクトしあっている雰囲気を感じました。例えばTwitterで競演相手のファンがHYDEさんについて言及していたり、逆にHYDEさんのファンが対バン相手のステージについて語っていたり。観ている側も対バンの醍醐味を感じています。いわゆるロックモードのHYDEさんが有観客で全国ツアーをするのは約3年ぶりになるかと思いますが、ステージに立っている身としてはどうですか?

ひさしぶりに暴れるのは楽しいですね。じっとしているのはしばらくいいかなという感じ(笑)。

──こちらも水を得た魚のように暴れるHYDEさんの姿を楽しんでおります。が、このタイミングで映像化されたのは、現在のモードとは真逆の内容です。2021年に行われたソロコンサートは、総じてオーケストラとの共演を軸とした“静”のモードで。中でも平安神宮公演は、特別感のあるものでした。「ROENTGEN」ツアーとも「黑ミサ」とも異なる趣旨の内容でしたが、平安神宮でコンサートをすることになったきっかけを改めてお伺いできますか?

以前から「神社でコンサートをしませんか」と何度かお話をいただいていたんですけど、僕自身はそんなに乗り気じゃなくて。当時はロックスタイルのライブをしていたので、ロックなライブと神社の雰囲気は合わないし、イチから準備しないといけないので大変そうだなと思ってたんです。ただ2021年はオーケストラ編成での「ROENTGEN」の再現ツアーをすることになったので、この形で神社を舞台にコンサートをするのは素敵だなと思って。それまではそういった場所で自分がコンサートをするイメージが湧かなくて、例えばアコースティックスタイルにするにしてもどんな形がいいのか悩んでいたんです。でも、オーケストラならピッタリだなと思ってやることにしました。だけど、いざやるとなったらツアーの内容をそのまま持っていくのは違うと思ったんです。やるからにはセットリストもその雰囲気に合ったものにしたいし、平安神宮に合う衣装を用意したいし、オーケストラをどうステージに配置するかも考えたいし……オーケストラコンサートだけどツアーとは異なる、平安神宮ならではの特別な公演として作っていきました。

──平安神宮公演は2日間でしたが、初日と2日目では内容が異なりましたね。初日は豪雨に見舞われ、セットリストの変更も余儀なくされるなどシビアな部分もありました(参照:HYDE、雅で静謐なパフォーマンスを捧げた初の平安神宮公演)。

僕はこれまで晴れ男だとさんざん言われてきたんですけど、たまに外れることがあって。平安神宮公演の初日は天気予報がもともとあまりよくなくて、前日のリハーサルも夕立に見舞われてほとんどできなくて。初日は開場時間くらいから雨が降ってきたんですけど、天気のことは無視して準備するようにしてました。

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──あえて意識しないようにしていた?

気にしてもテンションが下がるだけだから。でも開演時間になっても全然降り止まないし、雷雨みたいな状態だし……本当にせっかく来てくれたファンの子がかわいそうで。僕自身は濡れようが、何しようがステージを降りればすぐシャワーを浴びれるし、大したことはないんです。でも、ずぶ濡れになって待ってくれているお客さんにはなかなか酷で、見ていてキツかったですね。しかも終演時間が20:30と決まっていて、1分でも延びたらダメという状況だったので、披露する曲を削っていくしかなくて。

──そのヒリヒリとした状況は、豪華BOX盤に収録されているドキュメンタリー映像で確かめることができます。

神社を訪れたときに雨が降ると歓迎されているという話も聞いたので、ある意味ではよかったのかもしれないけどね。

──それで当初はMCをする予定がなかったにもかかわらず、「雨の中ごめんね……おしゃれしてきてくれたのにね」と労わる言葉が思わず出たんですね。ただ、雨の中でのパフォーマンスはとてもドラマチックで、印象深いものがありました。雨の初日と晴れの2日目を合わせて1つの公演というか。

映像で観る分には感動的だと思いますよ。特にバラードを歌うときに雨は似合うんですよね。ひょっとしたら映像化のために雨を降らせてくれたのかなって思うくらい(笑)。

終わったあとに湧き起こったのは感謝の思いだけ

──その平安神宮公演における特別な演出と言うと、石笛奏者・横澤和也さんの演奏、雅楽との共演、能楽師・茂山逸平さんのパフォーマンスなどが挙げられると思います。30年以上にわたるHYDEさんのキャリアの中でも、和のエンタテインメントとのコラボレーションはチャレンジングなことだったのでは?

そうですね。雅楽とのコラボについては、公演の何カ月も前からアレンジャーとデモを作って、専門家も交えてやりとりを重ねて完成させたんですけど、これがまた素晴らしくて。オーケストラと雅楽という和洋折衷な融合だけど、音像を含めて独特の説得力が生まれたと思います。

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──神社という場所は足を踏み入れるだけで空気が変わるというか、神聖さを感じる場ですよね。そういった場所に設けられたステージに立ったとき、どんな感情が湧きましたか?

2日とも「この瞬間を楽しもう」と思いました。初日はちょっと「雨が止んでくれますように」と神様にお願いしながら歌ってましたけど。平安神宮のステージは本殿を背にしながら歌うスタイルで、こちらはやらせていただいている立場なので何があっても不平を言ってはいけない。むしろ感謝の気持ちで歌ってました。終わったあとも湧き起こったのは、神様に対して感謝の思いだけでした。所詮僕らは地上で生かされているのであって、何かを望むのもおこがましいというか。降りかかるいろんな状況を受け入れて、どう対処していくか。そういうことを考えていくべきだ、ということを改めて思い知らされた感じがしますね。