星野源|駆け抜けた10年の先で爆走する音楽への衝動

とにかくテンションの高い、今の状況をぶち壊すような曲を

──新曲「創造」には、フットワーク軽く作り上げたここ2年間の作品で見られる変化、アップデートが確実に反映されているように感じます。

そうですね。かなり反映されていると思います。今までにやったことのないやり方で、とにかくテンションの高い、今の状況をぶち壊すような曲が作りたかった。そんな中で、ギターではなくキーボードで曲を作るというのはこのコロナ禍の中で初めて挑戦したことだったので、未知の領域に踏み出しながらパワーを感じる曲を目指して作り始めました。

──普段ギターで作っている人がキーボードで曲作りをするというのは、作曲のルーティーンからも外れるというか、手グセからの解放などもあるのか、如実に新しくなっている感じがしますよね。

そこから脱したいという気持ちもあったし、作っていて楽しかったです。知識もないままがむしゃらに曲を作っていた頃の気持ちに戻れるというか。数年後にこの曲を聴き返したら「なんでここでこう行くの?」と首をかしげると思うんですけど、そこがいい(笑)。やっぱり曲を作っていると「ここに行きたい」という手グセがどうしてもあるんですよね。編曲は打ち込みをしながら時間をかけてやったので、一旦客観的に考えて構築し直すことができるというのも楽しかったです。

──新たな一歩となる新曲が、日本が誇る輸出品である「スーパーマリオブラザーズ」の35周年に合わせたタイアップソングだというのもなんだかいいですね。未知の領域を開拓し続けている任天堂イズムと重なるというか。リズムの緩急やサウンドオマージュにマリオならではの楽しさがあるし、歌詞には星野さんと任天堂に共通するイズムを感じます。

僕の中で漠然とイメージしていた今作りたい曲に、どうマリオのオマージュとして落とし込むかを考えました。マリオシリーズに出てくるSEやメロディをできるだけ組み込んで「マリオを感じられる曲」というのは意識しましたけど、歌詞に関しては、自分の物作りに対する思いを書きたかったんです。物作りをするうえで任天堂に影響を受けているところは大きいですし、いろんな人たちから影響を受けた自分なりの物作りの思想を歌詞に重ねていくというか。

──「創り出そうぜ」じゃなくて「何か創り出そうぜ」なのが星野さんらしいなと感じます。柔らかくくるんでガツンと殴るような。

「なんか」で始まる曲っていいなと思ったんですよ(笑)。メロディができてから歌詞を書いたので、歌ってみたらなんか口語的で気持ちいいなという。以前は「聴いただけで言葉が全部伝わるような歌詞にしたい」と思って作っていたんですけど、この曲では音は理屈抜きに聴いてて楽しく、歌詞は文字で読んだときにじっくり考察できるようにしたくて。多重に楽しんでもらえるように作りました。

──導入は英語詞から始まるので、そのまま洋楽と同じ感覚で聴けますね。

確かに。いつもは複雑にしすぎないようにリミッターをかけがちなんですけど、今回は好きなように好きに書いたって感じです。

星野源は“歌手”ではない?

──10年前は歌うことについて及び腰だったと先ほどおっしゃっていましたが、歌に対する意識は10年でどう変わりましたか? 歌のスキルが上がれば楽曲の幅も広がっていくでしょうし、だからこそ「POP VIRUS」のような表現力豊かなアルバムに到達できたと思うんです。

ありがとうございます。そう言ってもらえるとうれしいです。……自分では自分を「音楽を作る人」だと思っていて、「歌手」ではないんですけどね。歌を中心に全部を引っ張っていくのではなく、音楽の中に自分の歌がパーツとしてあるみたいな。

──なるほど。そこは今も変わらないんですね。

はい。歌うことは好きだけど、自分の音楽においてはマストではなくて。10年やってきた中で、歌でやれることの幅はちょっとずつ増えてきたと思いますし、今回もまたその幅が広がったと思います。「創造」は全体を通してリミッターを解除することが狙いだったので、カラオケで歌いやすいとか、そういうことは一切考えてないんです。

──ボーカリストへの要求はめちゃくちゃ厳しいですよね(笑)。作り手側の星野源にしてみれば、ボーカリスト星野源への要求の幅はかなり広がった?

そうですね。かなり広がったと思います。ただ、いまだに自信はないというか、「歌手」と呼ばれることは今も苦手ですね(笑)。

制作に対してのワクワク感が今はすごくあります

──2度目の緊急事態宣言が発出された今、2021年もまだまだエンタメの世界は苦境に立たされています。それでも新しい波は起き続けているし、決してマイナスなことばかりではないと思いますが、星野さんはこの状況をどう捉えていますか? 2021年現在の姿勢をお聞かせいただければと。

去年はコロナ禍で予定変更してしまったことが多くて、ほぼドラマ撮影ばかりの1年だったんですね。ドラマを撮って放映して、映画が公開されて宣伝して、またドラマを撮って……みたいな。その裏で少しずつ音楽を進めていた感じで。「創造」の制作期間も、本来だったらライブをやっていたかもしれなくて。ライブは体調管理がすごく大事なんですけど、楽曲制作は根詰めて作業するから、喉をやられたりとか体調を壊しやすいんですよ。

──ライブとレコーディング、平行しての両立はなかなか難しいですよね。

そうなんです。ライブができなかった分「創造」は制作に集中できて、2、3カ月かけてじっくりと1曲を作り上げていくのはすごく楽しかったんですよ。もちろんライブはやりたいんですけど、まあいつかできるようになるだろうという思いを込めて、今年はいろいろと制作をしていきたいと考えています。制作に対してのワクワク感が今はすごくありますね。1曲1曲を大事に、思いや工夫を詰め込んでリリースしていけたらいいなと思っています。

──それはこれまでの10年とは違う、新しいものになる予感がある?

そうですね。もちろん急にサルサに熱中し始めるということはないかもしれないけど(笑)、自分の音楽の中で未知のものを作り出していきたいなと思います。

星野源