音楽ナタリー PowerPush - 堀江由衣

ほっちゃんが作り上げた“世界の果て”の庭

ほっちゃん作品を形作る清竜人&大川茂伸サウンド

──全体像を定めた上で、楽曲のセレクトはどのように?

曲に関してはわりと単純に好きなものだけを集めた感じなんですよ。むしろそのあとのアレンジ作業ですね、こだわったのは。「いつもだったらこうするけど、今回はこうしてみよう」とイメージを寄せていって。ライブを意識して選んだ曲もあるんですけど、曲がライブのネタバレになってるんじゃないかなというのもあったり(笑)。

──全体的な設計図で言うと、清竜人という新しい作家との出会いで生まれた世界観を軸にしつつも、以前から堀江さんの音楽を手がけている大川茂伸さんの作・編曲が“堀江由衣のアルバム”のイメージを固めているような印象がありました。アルバムの導入として重要な「プロローグ~edge of the unknown~」の作・編曲も大川さんですし。

そうですね。大川さんはいろんな音楽が作れる方だと思うんですけど、私が好きなあの感じ、みたいなものを言葉なくして作っていただけるのですごく助かりますね、やっぱり。困ったときの大川さんみたいな。

──プロローグを経て最初に「The♡World's♡End」が置かれているのは、やはりこの曲が本作の重要な鍵になっているからなのかなと。

はい。インパクトも強いし、プロローグを明けての1曲目としては一番ふさわしいかなって。この2曲で「このアルバムはこういう作品です!」というのをはっきり出して。

──3曲目の「Stand Up!」は再び大川さんの作・編曲ですが、これは堀江さんの作品にしばしば出てくる1960~70年代ソフトロック直系のきらびやかなポップスで。

こういうきらびやかでいろんな音が入っている曲が大好きで。この曲はスマホゲーム「白猫プロジェクト」の主題歌ということで、ファンタジーっぽい設定にしたいというのが第一にあったんです。ファンタジーなんだけど、ゲームの世界と離れたところでも共感できるようなものにしたいと作詞のあさのますみさんにもお願いして。すごく気に入っているのでPVも撮りました。

「なんで曲名に♡が付くんですか?」

──4曲目の「Happy End」はアルバム用に書き下ろされた新曲ですね。

このへんにかわいくてにぎやかな楽曲があったらいいなと思って。実はミス・モノクローム用に書いてくださった曲なんですよ。打ち合わせのときに聴いて「これ、私が欲しいです」って言って(笑)。

──こんないい曲はミス・モノクロームにはあげられない(笑)。

モノクロームから奪い取った曲で(笑)。だから本来はもっと機械的な感じだったんですけど、私用に少し作り替えてもらって。

──「Sweet & Sweet CHERRY」は「Golden Time」のカップリングで、当時のインタビューでは女子大生が聴きそうな“着うたディーヴァ”を意識したとおっしゃってましたが(参照:堀江由衣「Golden Time」インタビュー)、アルバムの流れとしてはしっくりなじんでいますね。

ですね。もう少し浮くかなと思ってたんですけど、意外とすんなりなじんでくれました。

──そして次の清竜人さんの書き下ろし曲「ミステリー…」は場面が大きく転換するような印象で。清さんはシングル2曲に書き下ろし2曲と、すっかりチーム堀江の重要なブレーンの1人になりましたよね。

グループ活動(清 竜人25)も始められて、すごくお忙しそうだから申し訳ないなと思っちゃうんですけど、毎回素敵な曲を書いてくださって。ライブでこういう場面で使いたいんです、というお願いをしたら「これネタバレになっちゃう」みたいな(笑)。なのであまり具体的なお話はできませんけど……。

──3月のライブでは大きな役割を持つ曲になりそうだと。清さんとのコラボは2011年2月発売のシングル「インモラリスト」から続いていますが、清さんの持つちょっとアブノーマルな世界観が、堀江さんの作品として成立して、しかもここまで重要なポジションになるというのは予想外でしたね。

堀江由衣

前にもお話したと思いますけど、「インモラリスト」のデモをいただいたときに「私がやりたかったことを理解してくれる人がいた」って思ったんですね。こういうことがやりたいんだけど、伝え方がわからない……みたいなのがあって。私から何か説明したわけじゃないのに、一方的に理解してくれたというか。

──そこから清さんの既発曲「半永久的に愛してよ♡」へと続きますが、この曲は改めて、清さんの中でもとびきりポップな要素が全面に出た楽曲だなと。

とびきり乙女チックな曲で、すっかり人気の曲になりました。なんでこんなに女子の気持ちがわかるんだろう。清さんの頭の中には乙女が住んでるんだなあって思いますね。

──乙女の感性を彼がどこで養ってきたのか気になりますよね。なぜこういう歌詞にしたのかという具体的な話はなかったんですか?

具体的な話を聞いたことはないですけど、「なんで曲名に♡が付くんですか?」とは聞いたことがあります(笑)。

──どういう回答でした?

「いや、かわいいから」って(笑)。なんてことない理由なんですよね、いつも。

──でもどこまで本心か読めない人でもありますよね。

そうですねー。狙っておっしゃってるのかそうじゃないのかわかんないんですよ。

そのうちこの曲で剣を持つことになると思いますけど

──ディープな竜人ワールドが2曲続いたあとは、すごく軽やかな「ほんのちょっと」と。

イギリスというよりはちょっとフランスっぽいなというイメージだったので、川田(瑠夏)さんには「もう少しイギリスっぽくお願いします」ってわけのわからない発注をして(笑)。

──はじけるようなポップスだけど、アルバム全体を支配する空気になじんでるなと感じたのは、そのさじ加減のおかげなんですね。ちょっと国を移動してくださいという(笑)。

ユーロスターに乗ってくださいって(笑)。川田さんは曲ももちろん好きなんですけど、「デモに入ってる川田さんの歌声が好き」って理由でつい選んじゃうところがありますね。

──この曲があるからこそ、「Sweet & Sweet CHERRY」と同じく女子大生をイメージしたシングル曲「Golden Time」もしっかりなじんでる感じはありますね。

そうなんですよねー。「Golden Time」はどうしても浮いちゃうだろうなーと思ってたんですけど、曲順を決めるときに役に立ってくれたというか。後半の勢いを引っ張ってくれる立ち位置になってくれて。

──次の「この場所で」は堀江さんが声優として参加しているOVA「みツわの」の主題歌ですね。

堀江由衣

この曲は録ったのがけっこう前なんですけど、改めて聴いてみたらめっちゃいい曲で。「ちょっと私すごくいいこと言ってる!」みたいな(笑)。不器用なりにがんばんなきゃ!って励まされちゃいました。私の1stアルバム(2000年12月発売「水たまりに映るセカイ」)に「I wish」という曲があって、それがすごく前向きな曲で人気も高いんですけど、「この場所で」も同じように好きになってもらえる曲かなって。

──「innocent note」には初めて編曲で浅野尚志さんが参加されていますね。いかにもライブでバトルシーンが展開されそうな楽曲ですけど。

戦いそうですよね(笑)。でも今回のライブはバトルはしません! でもいずれ……今はバトル曲が「ヒカリ」と「インモラリスト」ぐらいしかないので、「いずれこの曲で戦えるといいよね」という話は確かにしました。そのうちこの曲で剣を持つことになると思いますけど(笑)。今回は学園モノだから剣を持つのはちょっとなあって。剣から離れるのを前提に作っているので。

──ライブで剣を持つのが前提になってるのもよくわかんないですけど(笑)、曲調としてはかなりハードで。

いつもアルバムの選曲をするときは、全体の流れをイメージでノートに書き出すんです。「速い / 明るい」「ゆっくり / さみしい」みたいなすごーくざっくりしたものを(笑)。今回もノートに書いてたら「『速い / 暗い』が少ないね」って話になって。特に初回限定盤BLUEのほうの、トゲトゲした建物と写っていたりするのでちょっと強そうなイメージがあるマイナーの曲があってもいいよね、と思って選んだのがこの曲です。

ニューアルバム「ワールドエンドの庭」2015年1月7日発売 / スターチャイルド
初回限定盤RED [CD+写真集] 3086円 / KICS-93122 / Amazon.co.jp
初回限定盤BLUE [CD+写真集] 3086円 / KICS-93123 / Amazon.co.jp
通常盤 [CD] 3086円 / KICS-3122 / Amazon.co.jp
収録曲
  1. プロローグ~edge of the unknown~
    [作詞:山崎寛子 / 作曲・編曲:大川茂伸]
  2. The♡World's♡End
    [作詞・作曲・編曲:清竜人]
  3. Stand Up!
    [作詞:あさのますみ / 作曲・編曲:大川茂伸]
  4. Happy End
    [作詞:川田瑠夏 / 作曲・編曲:Tak Miyazawa]
  5. Sweet & Sweet CHERRY
    [作詞:YUKAKO / 作曲・編曲:Kohei by SIMONSAYZ / ストリングスアレンジ:長谷川智樹]
  6. ミステリー…
    [作詞・作曲・編曲:清竜人]
  7. 半永久的に愛してよ♡
    [作詞・作曲・編曲:清竜人]
  8. ほんのちょっと
    [作詞・作曲・編曲:川田瑠夏]
  9. Golden Time
    [作詞:吉田詩織 / 作曲・編曲:Kohei by SIMONSAYZ]
  10. この場所で
    [作詞:吉田詩織 / 作曲:SHIKI / 編曲:大川茂伸]
  11. innocent note
    [作詞・作曲:宮崎まゆ / 編曲:浅野尚志]
  12. Girl Friend
    [作詞・作曲・編曲:清竜人]
  13. Garden
    [作詞・作曲・編曲:山崎寛子]
堀江由衣をめぐる冒険V~狙われた学園祭~
  • RED DAY
    2015年3月7日(土)東京・国立代々木競技場第一体育館
    OPEN 16:00 / START 17:00
  • BLUE DAY
    2015年3月8日(日)東京・国立代々木競技場第一体育館
    OPEN 16:00 / START 17:00
堀江由衣(ホリエユイ)

東京都出身の声優アーティスト。1997年に声優としてのキャリアをスタートさせた後、1998年に歌手デビュー。「ほっちゃん」の愛称で親しまれ、永遠の少女然とした自身のキャラクターと重なるオリジナル音楽作品をコンスタントに発表している。アニメやゲームのキャラクターソングも数多く手がけ、2005~2007年には声優ユニット「Aice5」としても活躍。2009年9月には声優として歴代4人目となる日本武道館公演を2日間にわたって行い、大成功に収めた。2012年9月には初のベストアルバム「BEST ALBUM」を発表。2015年1月には通算9枚目となるオリジナルアルバム「ワールドエンドの庭」をリリースし、3月には東京・国立代々木競技場第一体育館にて2DAYSライブ「堀江由衣をめぐる冒険V~狙われた学園祭~」を行う。