Homecomingsは“隣人”として聴く人に寄り添う|メジャー2ndアルバムで歌う“生活と社会” (2/3)

Homecomingsのステートメントとなった「US / アス」

──ここからはアルバムについて聞かせてください。昨年末の東名阪ツアーと同様のタイトルが付いた「US / アス」は、「ひとりでもふたりでもないよ」「ぼくらはたまたまうつくしい」といった歌詞や、曲の途中に入る英語の語りの訳を読む限り、今のHomecomingsが掲げるステートメントのように受け取れました。

Homecomings「US / アス」歌詞抜粋

Neither alone nor just the two of us.
We will continue to be allies.
It doesn't matter if it's a small light for you.
We, will continue to be allies.

(ひとりではないけれど二人でもない。
ただ、私達はallyでありつづけます。
あなたにとってそれが小さな光でもかまいません
ただ、わたしたちはallyでありつづけます)

福富 まさに「US / アス」は、Homecomingsのステートメントを楽曲として提示したくて作りました。英語の詞は僕が以前書いてあったもので、「US / アス」ツアーのグッズにもメッセージとして入れていて。楽曲にするにあたって英語を直したので細かい文章は変わってるんですけど、日本語訳は同じになっています。バンドの10周年というのは意識していたので、「US / アス」にはバンドの節目に自分たちが伝えたいこと、表明したいことをギュッと詰め込みたかった。わかりやすく言うとアンセムを作りたかったんです。

──なるほど。アンセムと言ってもバンドの得意なことをただなぞるのではなく、ダンスミュージックというか、Homecomingsにとって新機軸的なサウンドを取り入れてますよね。

畳野 いつも私とトミー(福富)でどういう曲にしていくか話し合うんですけど、その中で「ダンスミュージック」というキーワードが出てきたんです。それは私たちの世代にとっての“あの頃聴いてたダンスミュージック”というか、スーパーカーの作品やくるりの「ワールズエンド・スーパーノヴァ」からヒントをもらって、自分たちなりに消化しようと。私たちはアルバムごとに毎回新しい挑戦というか、これまでやってこなかった要素を入れていて。ダンスミュージックはやってこなかったけど、自分たちのルーツにはあるので、アイデアとして面白いなと思ったんです。

福富 スーパーカーが活躍したり、「ワールズエンド・スーパーノヴァ」がリリースされたのは僕らが小学生の頃なので、全然リアルタイムで聴いてたわけではないんですよ。だから最初はHomecomingsを組んだ頃に流行っていた、2010年代のエレクトロとギターポップが合わさった洋楽をイメージしていて。あの頃はライブとDJのイベントがたくさんあって、僕らはそういうのによく出演していたんです。その現場でみんなが7inchでかけていたダンスミュージックっぽいインディーポップを意識しつつ、自分たちのルーツにあるスーパーカーやくるりの要素を入れることにしたんです。

Homecomings

Homecomings

──リズム隊のお二人は「US / アス」のデモを聴いたときいかがでした?

福田 不思議とスッと入ってきて、なおかつ新しい感覚がありました。最初に聴かせてもらったときから間奏部分は今と同じなんですけど、めっちゃいいなって。バンドにとって大切な曲になっていくだろうな、とデモを聴いた時点で思いました。

石田 四つ打ちのドラムは前回のアルバムに入っている「Here」でやっているんですけど、「US / アス」はまた少し違うんですよね。四つ打ちなんだけど裏ノリになっていて、好きだけどやったことなかったから難しかったです(笑)。

──アンセムを目指して作った楽曲で新しいことにトライしてるってなんだかいいですね。

石田 そうですね。今までの自分の中にあるものを出していくのではなく、サウンド面でも技術面でも新しいことに挑戦しながら代表曲になりうるような曲が作れたのはすごくいい経験になりました。

「光の庭と魚の夢」には岸田繁、松井泉の力が必要だった

──「光の庭と魚の夢」は、ストリングスとピアノのサウンドアレンジでくるりの岸田繁さん、パーカッションでYOUR SONG IS GOODのサポートメンバーである松井泉さんが参加しています。この人選はどのように決めたんですか?

福富 まずこの曲はKIRINJIのような“J-POPではないんだけどポップス的なサウンド”をイメージしていて。それでデモを作って、ナルちゃん(石田)に簡単なストリングスを打ち込みで入れてもらったらすごくよくなったんですよ。「ストリングスを入れたいけど、自分たちでどこまでできるだろう?」と考えつつ、昔だったら無理して自分らでやってたと思うんですけど、今は4人だけで作らんくてもいいなという意識になっていて。誰にお願いするか考えてたら、自然と岸田さんと松井さんの名前が挙がったんです。候補がたくさんいたわけではなく、ピンポイントでお二人にお願いしたいなって。

──石田さんは、ご自身の打ち込んだ音が岸田さんの手によって今の形になる過程を見ていかがでした?

石田 私だけの範囲に収まっていたものがすごく大きく広がったなと思いました。音色はイメージしたそのままで、フレーズの端々に岸田さん節が効いていて本当に感動しました(笑)。

──Homecomingsでは基本的に作詞を福富さん、作曲を畳野さんが担当していますが、本作には福田さんと石田さんがそれぞれ作曲でクレジットされている楽曲が収録されていますよね。まずは福田さんが手がけた「Drowse」についてお聞きしたいんですけど、この曲はどのように作っていったんですか?

福田 「Drowse」は2020年にリリースしたボックスセット「STAIRS」に入っていたCD-Rの収録曲が種になっているんです。ただ、最初はリズムとかもまったく入っていない状態だったので、ナルちゃんに打ち込みをお願いして、福富くんからリファレンスとして送ってもらった音源を聴きながらイメージを膨らませていきました。

福田穂那美(B)

福田穂那美(B)

福富 僕は少し前からエモラップ的なトラップが好きで、自分たちの作品でも合いそうな楽曲があれば取り入れたいと思っていたんです。で、「Drowse」の原型となったインスト曲のフレーズは合いそうやなと思って、そこにナルちゃんが作ったトラップのビートを乗せたらハマった。これをどう発展させようかと思ったときに、「今のトラップやエモラップの感じはどこから来てるんやろ?」といろいろさかのぼって考えてみたら、ジェイムス・ブレイクの存在もデカイけど、The Postal Serviceにたどり着いたんです。彼らはエレクトロニカとトラップっぽいビートに、インディーロックが混ざったようなアルバムを出していて参考になりそうだなと思ったんです。「Drowse」ではそういうのをヒントにして最初はトラップで始まるけど、後半でテンポが倍になるという展開にしました。