「まばたき」制作秘話
──アルバムの終盤に収録されている「まばたき」の作曲は石田さんです。この曲はドラムとピアノのシンプルな演奏から始まって、後半にいくにつれて豊かになっていくアンサンブルが素敵でした。
石田 まさに曲が進むにつれて視界が開けていくイメージで作ったんです。昔好きで聴いていたサカナクションとか、その頃自分が聴いていた音楽の要素を詰め込もうと思って。
福富 実は「まばたき」のほかに、ナルちゃんが作った曲でアルバムに入れる予定のものがあったんですよ。その曲はサビだけできている状態で、ナルちゃんが後半を作ってくるという話になっていて。僕はその時点で歌詞をすべて書き終わっていたんです。それでしばらくしたらナルちゃんから「できました」とデータが送られてきて、そのファイルを開いたら「まばたき」のデモが入ってた(笑)。
石田 ごめん(笑)。
福富 「まばたき」がアルバム制作の最後に書いた曲になるんですけど、全体を俯瞰して足りないピースを埋めるというより、単体でいい曲にしようと思って歌詞を書きました。あと完全にネタバレなんですけど、ちょうど「ケイコ 目を澄ませて」を観たんですよ。
──「目を澄ませば」という歌詞が出てくるので、何かしらイメージしたのかなと気になっていました。
福富 映画がとんでもなくよくて、観た帰りにファミレスに寄って骨組みとなる歌詞をバーッと書いちゃいました。結果としてすごくいい曲になったと思うから、ナルちゃんが全然違う曲を送ってきてくれてよかった。
──ちなみに、石田さんはなぜもう1曲書いてきたんですか?
畳野 確かに(笑)。それもレコーディングの2週間くらい前だったよね。全員が衝撃を受けてた。
石田 アルバムを作るうえでのノルマじゃないけど、任せてもらっている感じがしたので、1曲はどうしても完成させたかったんです。でも、1曲目のほうは編曲にもう少し時間をかけたくて、妥協するのはイヤだったので、急遽デモのストックから1曲選んでアレンジすることにしました。
──なるほど。でも、お話を聞いていると結果的にいい方向に転びましたね。ちなみに完成していないほうの楽曲は今後発表する予定はあるんですか?
石田 そうですね。しっかり完成させていつか発表したいです。
個人的な感情を出してもいいんじゃないか
──「euphoria / ユーフォリア」はいかがでしょう? この曲は「US / アス」ツアーの最終公演だとオープニングで演奏していましたよね。
福富 「New Neighbors」は自分たちのルーツであったり、自分たちが今表現したいことを全部詰め込みたいと思って制作したんですけど、「euphoria / ユーフォリア」だけ僕の個人的なことをつづった歌詞になっていて。この曲を書いたのはちょうど落ち込んでいた時期でもあって、そのときの感情が素直に出すぎてる。でも、今回のアルバムならそれを出してもいいかなと思えたんです。
──それはなぜですか?
福富 2016年にリリースした「HURTS」以降、自分の個人的な感情をあまり書いてこなかったことに気付いたんですよ。例えば「WHALE LIVING」や「Moving Days」は、フィクションの物語を考えて、そのストーリーの場面場面を切り取って歌詞を書いていたんです。今回のアルバムはそういう作り方をしていないから、自分の内省的な部分が出た曲が入っていてもいいなと思ったし、むしろ入れるべきなんじゃないかとも思って。
──個人的なことを楽曲にする際に気を付けたことはありますか?
福富 うーん……それがちゃんといい表現になっていればいいかなって。ただ、ルサンチマン的な表現には絶対にならないよう意識しました。落ち込んでる気持ちをそのまま書きつつ希望のあるものにする。もちろん「責任を持っていいものに仕上げる」という前提ありきですが。「euphoria / ユーフォリア」はそれをちゃんとクリアしたから、アルバムに入れることができたんだと思います。
──畳野さんはこの歌詞に曲を付けていくうえで、普段と違うアプローチを試したりはしました?
畳野 何か特別なことをやったとかはないですね。ただ「euphoria / ユーフォリア」はサビが強い曲だから、歌をどうするかは悩みました。歌詞がきれいに美しく伝えられるようにメロディを組み替える作業は時間がかかりましたね。去年ツアーを回ってみて感じたことなんですけど、新しい曲、特に「Shadow Boxer」なんかはライブで演奏したときに体に浸透していく感覚があったんです。自分の感情をしっかり曲に乗せることができたというか、思い切り表現することができた。なので「euphoria / ユーフォリア」も感情を乗せられる曲、ライブで思いっ切り表現できる曲というのを意識しました。
自分の生活と社会をきちんと描きたかった
──アルバムのラストを飾るのは「Elephant」です。この曲には「ふと見上げた西日の向こう テレビのなかの街がこわれている」「誰もいない廊下 風向きはどう? なんとなく見上げた西日はさみしい」といったフレーズが出てきますけど、これはロシアによるウクライナ侵攻について歌っているんですか?
福富 そうですね。「WHALE LIVING」と「Moving Days」も生活を細かく描くことで社会とのつながりを持たせていたので、「New Neighbors」でも2023年に出るアルバムとして時代のドキュメント性をしっかりと残したかったんです。ただ、その部分の歌詞を入れるかはかなり迷いました。なくても楽曲として成立するし、戦争というテーマありきで歌詞を書き始めたわけでもなかったので。でも戦争が起きてから約1年が経って、その距離感みたいなものは歌にするべきなんじゃないかって。
──なるほど。
福富 言葉で説明するのは難しいけど、それがよくも悪くも自分たちが暮らしているムードでもある気がするんです。「テレビの向こう側で起こってること」というふうになってしまう感じというか。去年の今頃はもっとリアルで切迫した感覚をみんなが持っていたと思うんですけど、それが当たり前になって生活の中で薄まってきてる。それを細かく描くというより、戦争が日常の中にポンとあるっていう状況を歌にしたかった。僕たちは日々の生活の中で感じる社会への違和感や憤りを過去のアルバムでも表現していて、今回の「New Neighbors」がコンセプトがないアルバムだとしても1曲1曲には社会的なメッセージがこもっているんです。「Shadow Boxer」にしても「i care」にしても、僕は今の時代のドキュメントになり得ていると思う。だから「Elephant」でも自分の生活と社会みたいなものをちゃんと描きたいと思って、悩みながら歌詞に組み込んだという感じですね。
小さな光としての音楽を
──近年のHomecomingsは社会性の伴った作品を意識的に発表していると思うのですが、上から下に向けてメッセージを押し付けるのではなく、今回のアルバムタイトルのように隣人としての立ち位置から横の連帯を呼びかけているように感じるんです。そういったメッセージの届け方は意識していたりしますか?
福富 自分たちの音楽が結果として救いになったらいいなとは思うけど、「救ってあげたい」みたいな感覚はないんですよ。共依存的な関係でもなくて、絶妙な距離で連帯するというのが理想で、特に「i care」はその距離感をそのまま歌にしたイメージなんです。見守り合っているというか、ケアし合っている関係性がいいなって。ただ、それをバンドという存在がどう体現するべきか悩んでいるところもあります。ライブはどうしてもステージが高い場所にあるから、バンド対オーディエンスみたいな世界になるし、一方的に僕らが与える形になりがちじゃないですか。だからHomecomingsはそうじゃない何かを探しているところで。音楽って最悪必要のないものかもしれないけど、音楽だからこそ伝えられることもあると思うんですよ。例えば音楽を聴けなくなったとしても、好きな音楽は頭の中に残っていたりしますよね。僕らは音楽を大きな光と捉えて共依存し合うのではなくて、小さな光としての音楽を届けられたらなと思っています。
──アルバムのリリース後すぐに全国ツアーが始まりますけど、その後の展開は何か決まっているんですか?
福富 春のツアーはアルバムのレコ発なので、それが終わったら年末に向けて周年っぽい企画もやれたらいいですよね。それに、曲のアイデアがたくさん溜まっているので、配信でポンポン出したいなと。僕らは「バンドとしてこうなりたい」みたいなのがなく今まで活動してきたので、ここから5年後に向けてとか、そういうのも全然なくて(笑)。とにかくいい曲をたくさん作っていけたらいいなと思っています。
ツアー / イベント情報
Your Friendly Neighborhood Homecomings
- 2023年4月22日(土)大阪府 246ライブハウスGABU
- 2023年4月23日(日)愛知県 CLUB UPSET
- 2023年4月28日(金)東京都 LIQUIDROOM
- 2023年6月10日(土)宮城県 enn 2nd
- 2023年6月11日(日)北海道 SPiCE
- 2023年6月15日(木)福岡県 THE Voodoo Lounge
- 2023年6月17日(土)石川県 金沢GOLD CREEK
- 2023年6月18日(日)京都府 KYOTO MUSE
COLORING BOOK Vol.2 ~New Neighborsの世界~
2023年4月28日(金)~5月1日(月)東京都 KATA
OPEN 13:00 / CLOSE 20:00
新作アルバム『New Neighbors』発売に併せて、東京・恵比寿KATAで展示イベント「COLORING BOOK」を開催! - Homecomings
プロフィール
Homecomings(ホームカミングス)
福富優樹(G)、畳野彩加(Vo, G)、石田成美(Dr)、福田穂那美(B)からなる4人組バンド。2012年京都精華大学在学中に結成され、2014年に1stアルバム「Somehow,Somewhere」、2016年に2ndアルバム「SALE OF BROKEN DREAMS」、2018年に3rdアルバム「WHALE LIVING」をリリースした。台湾やイギリスなどでの海外ツアーや、4度にわたる「FUJI ROCK FESTIVAL」への出演などライブ活動も精力的に展開。2017年にはイラストレーターのサヌキナオヤと共同で、映画と音楽のイベント「New Neighbors」もスタートさせた。また2019年には活動拠点を京都から東京に移し、2021年5月にはポニーキャニオン内のレーベル・IRORI Recordsからアルバム「Moving Days」をリリースしてメジャーデビュー。2022年4月から2023年1月にかけて、配信シングル「アルペジオ」「i care」「Shadow Boxer」「光の庭と魚の夢」をリリースした。2023年4月にメジャー2ndアルバム「New Neighbors」を発表。全国8カ所を回るツアー「Your Friendly Neighborhood Homecomings」を開催する。
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衣装協力
畳野彩加(Vo, G)
ニットトップス / 35200円(OLD FOLK HOUSE)
パンツ / 46200円(YOKE)
サンダル / 46200円(BEAUTIFUL SHOES)
その他 / スタイリスト私物
福富優樹(G)
トップス / 55000円(JOHN SMEDLEY)
パンツ / 36300円(JOHN SMEDLEY)
ブーツ / 25300円(Clarks Originals)
その他 / スタイリスト私物
福田穂那美(B)
ニット / 41800円(08sircus)
スカート / 48400円(08sircus)
ピアス / 各9350円(MIRAH)
その他 / スタイリスト私物
石田成美(Dr)
ジャケット / 69300円(blurhms)
スカート / 37400円(blurhms)
リング / 19800円(MIRAH)
その他 / スタイリスト私物