Homecomingsが新曲「Moon Shaped」を配信リリースした。
2012年に同じ大学に通う福富優樹(G)、畳野彩加(Vo, G)、石田成美(Dr)、福田穂那美(B)の4人で結成されたHomecomings。2月に京都・KBSホールで行われたライブイベント「Homecomings New Neighbors FOUR Won't You Be My Neighbor? February.10, 2024 at Kyoto KBS Hall」をもって、10年以上の月日をともにした石田がバンドから卒業することが発表されると、SNSではファンの悲しみつつも彼女の新たな門出を祝う温かなポストが多数見られた。
Homecomingsがそんな大きな変化を経て発表した「Moon Shaped」は、映画「三日月とネコ」の主題歌として書き下ろされた楽曲。石田と最後にレコーディングした1曲で、熊本地震をきっかけに出会った恋人でも家族でもない猫好き男女3人と愛猫ミカヅキの共同生活を描いた「三日月とネコ」に、優しく寄り添うようなミドルナンバーとなっている。
Homecomingsは石田の卒業とどう向き合い、その結果どのような気付きを得たのか。「Moon Shaped」の制作エピソードと合わせて話を聞いた。
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取材・文 / 下原研二撮影 / kokoro
石田成美の卒業で気付いたこと
──今年のトピックとして結成から10年以上の月日をともにした石田(成美 / Dr)さんの卒業は大きかったと思うのですが、振り返ってみていかがですか?(参照:Homecomings石田成美が卒業、今後の人生考え決断)
福富優樹(G) 去年の夏頃になる(石田)から卒業したいという話を受けて、半年くらい時間があったから自分たちらしく送り出そうと準備を進めていたんです。バンドからドラムが抜けるというのは音楽的にかなり大きなことではあるけど、そのときにHomecomingsとして何をするか? 大きな変化とどう向き合っていくか?というのをきちんと全員で考えることができた。それはバンドにとってすごく大切な時間だったと思います。
──その準備期間を経て、2月10日にKBSホールで京都の先輩くるりを迎えた石田さんの卒業ライブが行われました。そして翌11日にはMUSEでのアフターパーティに、“シークレットバンド”として4人で出演するという(参照:Homecomingsが地元京都でくるりと競演、卒業するドラム石田成美と過ごした日々は“誇り”)。
福田穂那美(B) 私はKBSでのライブが終わってもなるがいなくなる実感がなかったんですよ。くるりとのツーマンだし、会場はKBSだし、なるも卒業するし……だから次の日にアフターパーティをやれてよかった。そうじゃないと気持ちの整理がつかないまま終わっちゃったと思います。Homecomings初期のライブを振り返ると、夜中にやってる京都のMETROでのイベントに出演して、自分たちの出番が終わったら朝まで遊ぶという流れだったんです。そういうことをひさしぶりに京都でやれたことが、バンドにとって1つの区切りになった気がします。
福富 文化祭に向けて準備してるような感覚でした。アフターパーティをやるのかやらないのか、どんな内容のパーティにしようか、そういったことをバンドの形が変わるタイミングに全員で考えられるって幸福なことだと思うんです。面白く変わるというか、お祭りのような時間を作ってなるを送り出す。寂しいことではあったけど同時にすごく楽しかったです。
畳野彩加(Vo, G) 卒業のタイミングで全員が納得して「送り出すぞ」という気持ちでイベントを組むのって、バンドによっては難しいことだとあとになって気付いたんです。それに、自分がなるの卒業やバンドの変化をこんなにハッピーに受け入れられるとは思ってなかった。寂しい気持ちはあったけど、なるとは卒業後にも会ったりしていて。自分で言うのも変だけど、なかなか尊い関係だなと思います。
──本当に円満な卒業だったんですね。
畳野 お互いの気持ちを受け入れたり、支え合ったりしてきたことに気付けたから、今後も同じ関係性で付き合っていける未来が見える。それはなるの卒業がなかったら気付けなかったことかもしれないし、バンドの1つの大きな変化をすごく素敵な形で迎えることができたのかなと思います。
福富 Homecomingsは京都から東京に引っ越したり、メジャーデビューをしたり、英語詞がメインだったのを日本語詞にしたり、この数年で大きな変化を繰り返してきたと思うんですよ。僕たちは普段ラジオを通してファンとコミュニケーションを取りながら、ことあるごとに自分たちの言葉で説明することを意識しながら活動していて。そうやって関係性を築いてきたファンの人たちが、なるの卒業を含めてバンドの変化を優しく受け止めてくれたのはうれしかったですね。
今の自分たちが一番好き
──僕はKBSでのライブを現地で拝見していたのですが、初期曲を交えつつも基本的にはここ数年の楽曲をメインにしたステージで、皆さんの演奏から“今のHomecomingsを見せる”という意志を感じました。一方でアフターパーティでは懐かしい楽曲をたくさん演奏してましたけど、2日間のセットリストはどういうイメージで組んでいたんですか?
福富 まず4人とも今の自分たちが一番好きなんですよ。だからKBSのほうはHomecomingsのベスト的な内容でいこうと思ってたのに、自然と新しい曲が多くなりました。無理に曲を振り分けようとは考えてなくて、あの時間の中で4人がやってきたことの一番カッコいい形を見せたかった。例えば「Shadow Boxer」は僕らとしては思いっ切りエモをやった曲なんですけど、飛び道具的なことではなくライブの中心に据えることができている感覚があったので、その感じをKBSで見せたかったというのもありますね。
──アフターパーティのほうはいかがでしょう?
福富 おふざけと言ったらあれですけど、肩肘張らずに楽しみたかったんです。そもそも卒業ライブの次の日に4人でライブするってご法度的なところもあるじゃないですか(笑)。さっきほな(福田)も話してたけど、僕たちはパーティで育ってきたバンドだから、「あの頃のHomecomingsをあえてやる」というのは意識してました。ただ、懐かしい曲を演奏するからといって過剰にエモーショナルになることもなくて、本当に面白がってやってるという感じで。
──ライブの様子をInstagramの配信で観ていたんですけど、そのパーティ感は画面越しからでも伝わってきました。
福富 たぶん、あの日は最近Homecomingsを好きになって遊びに来てくれた人もたくさんいたと思うんです。そういう人たちに僕たちが昔やってたパーティの空気感を伝えられたのならいいですよね。普通にライブハウスでやるワンマンだけだと伝わらない部分もあると思うんですよ。フロアで一緒に遊んだり、DJのときにはメンバーが歌ったりするんやとか(笑)。
新しい方向に行けてる証拠
──改めて振り返ると、Homecomingsにとって石田さんはどんなドラマーでしたか?
福富 僕と彩加さんは、大学に入ったその日に新歓ライブでなるちゃんがドラムを叩いてるのを見て「この人とバンドをやりたい」と思ったんですよ。独特なハネ感があるというか、出会った頃からドラムが上手でめちゃカッコいいイメージ。なんでもできるというよりは、なるという個性をしっかり持った表情豊かなドラマーだと思います。
畳野 一緒にバンドを始めてからいろんなリズムが叩けるようになったよね。
福富 僕が「次はこういう音楽をやりたい」と毎回毎回お願いしていて(笑)。ギターポップから始まったバンドが音楽の幅を広げていく中で、「これはやりたくない」と拒絶することなく一緒に楽しみながら挑戦してくれる人でした。
──福田さんは同じリズム隊としていかがですか?
福田 なるが卒業して初めて別のドラマーと一緒に演奏するようになったんですけど、なるはどんなジャンルでも表現豊かにドラムを叩く人だったんだなと気付かされました。なるとはずっと一緒だったから、ドラマーそれぞれにクセがあるという実感があまりなかったんですよね。なるの表現豊かなドラムに支えられて、私は自分の演奏に入り込むことができてたんやなって。
──ドラムはバンドのサウンドを構築するうえでかなり重要な役割だと思うのですが、石田さんが卒業してそのあたりの影響はいかがですか?
福田 自分たちでも無意識にお互いのクセを受け入れながら演奏していたと思うんですよ。ずっと一緒にやってるPAさんともこの間、なるとやってるときのクセはまだ残ってるよねという話をして。
福富 うん。それは楽譜に表せない部分で、後ノリなところとかハネ感のちょっとしたことやと思うんですけど、それがまだ残ってる。それは違う人と一緒に演奏してみて初めて見えてくるもので。
畳野 私はそれがめっちゃ面白いと思います。10年以上一緒にいる3人の中に、別の人が入って違和感なく混じり合うのって最初は難しいですよね。私たちが今話している感覚はサポートメンバーがいるバンドすべてに当てはまると思っていて、それはきっと新しい方向に行けてる証拠やし、そういう気付きはオモロいなって。
ユナと礒本雄太、それぞれのグルーヴを楽しみたい
──サポートドラマーとして3月のライブから元CHAIのユナさん、Laura day romanceの礒本雄太さんがバンドに参加していますが、お二人とはもともとどんな関係だったんですか?
福富 いそやん(磯本)とは友達で、なるの卒業の話が出る前から「もし手伝えることがあれば言ってください」とずっと言ってくれていたんです。それで何か一緒にやれたら面白んじゃないかと思って声をかけました。
畳野 私はCHAIのマナカナとよく遊んでいたからユナの話は聞いていたし、遊びに行った先でたまにユナと会って乾杯することもあったんです。それにホムカミとCHAIで競演したこともあったから、CHAIの4人とは昔から友達のような感覚がありました。それでサポートドラマーを探しているときに「ユナはサポートとかやるのかな?」って話になって。
福富 そのタイミングではCHAIの活動が終了することは知らなくて、ユナに声をかけてみたら「やりたい」と言ってくれたんです。
──ユナさんと磯本さんはタイプの異なるドラマーですけど、このお二人に声をかけたのには何か理由があったんですか?
福富 まず、新しいメンバーを入れるという発想は最初からなかったんですよ。それこそ、くるりのようにいろんなドラマーを迎えて、それぞれのグルーヴが生まれるようなスタイルを作れたらいいなと思っていて。だから一緒にやるなら全然違うドラムを楽しみたいというのはありました。
──なるほど。
福富 2人には「なるはこうしていたから、こう叩いてほしい」みたいなことは一切言ってないんです。それぞれのホムカミっぽいノリが生まれたら面白いし、なるとのグルーヴはいつかまた一緒にやるときに鳴らせたらいいなと思っていて。とりあえず今は変化を楽しみながら進んでいる感じですね。
畳野 磯本くんとユナでそれぞれ感じるグルーヴがバラバラなのが楽しいんですよね。私たちの曲もいろんなタイプの曲があるから「この人はこの曲が合うから一緒にやってみよう」みたいな考え方もできるし。
福富 それぞれキャラクターがあるから、サポートドラマーによってセットリストが全然違うみたいなことになっていったら面白いですよね。
──福田さんはお二人のドラムをどのように見ていますか?
福田 ユナのドラムには推進力があって、バンドに勢いをつけてくれるんです。キラキラしているというか、同じ曲でもHomecomingsの新しい表情を引き出してくれる。いそやんのドラムはどちらかと言うとなるに近い感じがしていて、寄り添って叩いてくれるから、私も安心してベースを弾けてるところはありますね。
──ちなみに今後のレコーディングにお二人は参加するんですか?
福富 来月から始まるレコーディングには参加してもらう予定です。基本的にはこれまで通り、Homecomingsの3人がある程度打ち込みでデモを作って、スタジオで合わせながら細かいところを調整していく感じになると思います。
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4人でレコーディングした最後の曲