Homecomingsは“隣人”として聴く人に寄り添う|メジャー2ndアルバムで歌う“生活と社会”

今年でデビュー10周年を迎えたHomecomingsが、メジャー2ndアルバム「New Neighbors」をリリースした。

昨年1月から季節ごとに配信シングルをリリースし、その間にツアーや対バンイベントをコンスタントに企画するなど精力的な活動を続けているHomecomings。約2年ぶりのオリジナルアルバムとなる「New Neighbors」には、テレビアニメ「君は放課後インソムニア」のエンディングテーマ「ラプス」や岸田繁(くるり)がストリングスおよびピアノのアレンジで参加した「光の庭と魚の夢」などのタイアップ曲に加え、バンドが掲げるステートメントを曲にした「US / アス」など全12曲が収録されている。

音楽ナタリーでは2年ぶりにメンバー全員にインタビュー。「New Neighbors」の制作エピソードや各楽曲に込めたこだわり、Homecomingsが社会性の伴った音楽を鳴らし続ける理由を聞いた。

取材・文 / 下原研二撮影 / 須田卓馬

10年間も友達でいられてよかった

──まずはデビュー10周年おめでとうございます。

福富優樹(G) ありがとうございます。ただ、10年続けることを目がけて活動してきたわけではないし、特に後半の3年間くらいはコロナ禍もあったので、「気付いたら10年経ってた」というのが正直な感想ですね。それでもメンバーと10年間も友達でいられているのは本当によかったです。

──以前インタビューさせていただいた際に、「スタジオ練習終わりにメンバーで喫茶店に行って3時間くらい話すこともある」とおっしゃってましたけど、10年経っても友達としての関係性は変わらないんですね。ケンカをしたり、顔を見るのもイヤだと思ったりすることはないんですか?

福富 それこそ10年もやっていると、自分たちが曲作りをするうえでどのやり方が一番ストレスなくやれるかわかってくるんですよ。昔は1曲作るとなったら4人でスタジオに入って、セッションしながらそれぞれの頭にある音像を言葉で伝え合っていて。でもその方法だとうまく伝わらないことに苛立つ瞬間もあったんですよね。今はLogicでデモを作ったり制作方法を変えたりすることで、そういったストレスは解消できているんです。いまだにセッションで曲作りをしていたらバンドは続いてなかったかもしれない。

福田穂那美(B) 確かに昔のままだともっと衝突していた可能性はあるよね。

Homecomings

Homecomings

──今はストレスのない関係性でバンドをやれていると。

福富 そうですね。結局バンドってそういう意識のすり合わせの作業が一番大変な気がするんですよ。頭の中に浮かんだイメージをほかのメンバーと共有して、それがなかなか伝わらないと「自分が4人いたらいいのに」とか考えてしまったり。

福田 あとはみんな丸くなったなと思いますね(笑)。

──皆さん、尖っていたんですか?

福田 若さという言葉でくくるのは違うかもしれないけど、やっぱり視野が狭かったし、その年齢なりの鋭さみたいなものがあったと思います。年齢を重ねて、メンバーやスタッフさんとの関わりが深くなっていく中で少しずつ視野が広くなってきた気がします。まだまだ見えてないこともあると思うけど、今が一番いい関係性だと思いますね。

福富 確かに「あの頃の4人の関係性がよかった」みたいなことは思わないよね。

福田 うん。トゲトゲしてた時代もあったし、戻りたくないかも(笑)。

“聴いてくれている人がいる”の向こう側に行けた気がした

──バンド結成から10年以上が経った今が一番いい関係性だと言えるのはすごいですよ。10年続けること自体が大変だと思いますし、周囲のバンドの解散も見てきたでしょうから。

福田 私たちも「今はスタジオに行きたくない」と思ってた時期もあるんですよ。

福富 2016年に2ndアルバム「SALE OF BROKEN DREAMS」を出したあと、大きなフェスにも呼んでもらえるようになって。それからはライブをたくさんやるタームに入って、「この勢いのまま作品も作ろう」という話になったんです。でも、平日はそれぞれ別の仕事をして、毎週末ライブが入っているというスケジュールはなかなか大変で。当時は25歳くらいでその年齢特有の憂鬱さや将来への不安も抱えていて、いろんな歯車が狂って、2017年はめちゃくちゃしんどかった。そのしんどい雰囲気のまま作ったのが「SYMPHONY」(2017年リリースのEP)で、これはよく話していることなんですけど、解散の話も出ていて、あの頃が一番ストレスを抱えていたかもしれない。

福田 あの頃のことを思い出すと、やっぱり余裕がないと何もうまくいかないんだなって感じます。

福富 解散の話題が出たときは「ちゃんと解散したいから2018年にアルバムを作って、年度末で解散しよう」みたいな話もしました。

──そこまで具体的なスケジュールも出ていたんですね。それでもバンドを続けたのには何か理由があったんですか?

福富 その直後にチャットモンチーさんのトリビュートアルバム「CHATMONCHY Tribute ~My CHATMONCHY~」や、京都アニメーションさんの映画「リズと青い鳥」の主題歌のオファーをいただいたんですよ。そのほかにも同時期にラジオのレギュラー番組(2018年4月から2020年3月までα-STATIONで放送された「MOONRISE KINGDOM」)が決まったり、京都新聞の2018年度の年間キャラクターに選んでいただいたりして。自分たちがやってきたことにちゃんと意味があったと思えたというか。特に京都に関連する企業から声をかけてもらうことが多くて。聴いてくれる人がいて、リアクションが返ってきたというのを初めて実感した気がしました。

畳野彩加(Vo, G) 確かにそうだったかも。

畳野彩加(Vo, G)

畳野彩加(Vo, G)

福富 もちろん、それまでの活動で自分たちのファンがいるってことは理解していたけど、“聴いてくれている人がいる”ということのひとつ向こう側に行けた気がしたんです。例えば映画を作るとして「主題歌は誰にお願いしますか?」となったときに、僕たちを選んでくれたわけじゃないですか。自分たちも物作りをしているから、そのすごさみたいなのはわかるんですよね。それに当時は京都で活動をしていたので、京都新聞のキャラクターに選んでもらえたのは本当にうれしかった。そのうれしさでもって解散の危機を逃れたところはあります。

──僕は皆さんと同世代なんですけど、Homecomingsは若くして評価されたバンドというイメージがあったんです。それでもどこか満たされない気持ちがあったんですね。

福富 僕たちの少し上の世代のバンドにとって、メジャーデビューは重たいものだったと思うんです。でも僕らの同世代のバンドはわりとすぐにメジャーに行く流れがあって、そういう状況に少なからず焦りを感じていたのかもしれない。それに僕はタワーレコードで働いていたのもあって、数字を見る機会が多かったのもしんどくなった原因ですね。

音楽で未来にバトンを

──昨年の活動で言うと、配信シングル「アルペジオ」「i care」「Shadow Boxer」「光の庭と魚の夢」の4作を季節ごとにリリースしつつ、ツアーや対バンイベントをコンスタントに開催していました。楽曲制作とライブを並行して行う活動スケジュールはこれまでなかったと思いますが、振り返ってみていかがですか?

畳野 季節ごとにシングルを発表すること自体初めてやったし、新曲を出してわりとすぐにお客さんの前で演奏して、その反応をダイレクトに受け止めることができたのは新鮮でした。アルバムを作ってツアーを回るといういつもの流れより、お客さんが1曲1曲をしっかり聴いてくれている感じがしてうれしかった。

石田成美(Dr) いつもならライブを重ねることで曲が仕上がっていく感覚があったんですけど、去年はツアーの最初からちゃんと完成したものを届けられている実感がありました。

福富 やっぱり期限を設けてバーッとアルバムを作るのと、1曲ずつ強い曲を作るのでは全然違う作業なんですよ。今まではコンセプトを設けて作ることが多かったけど、「New Neighbors」は自分たちがそのときどきに表現したいテーマだったり、タイアップだったりに集中して1曲ずつ作ったんです。それは新鮮な体験だったし、Homecomingsとしては理想的な制作方法なんじゃないかなと思いました。過去曲で言うと「Songbirds」や「Cakes」もアルバムを意識せずに1曲に集中して作ったんですけど、そういう楽曲はライブのレパートリーに残るんですよね。

Homecomings

Homecomings

──ちなみに配信シングルの歌詞には共通して「花束」という言葉が出てきますけど、このモチーフにはどのようなメッセージが込められているのでしょうか?

福富 「未来を花束にして」という、女性に参政権がない時代に戦った人たちの映画があるんですけど、その作品で花束がモチーフとして使われているんです。僕たちは「今変化してほしい」という社会的なメッセージを楽曲に込めているけど、それと同時に未来にバトンを渡せたらいいなと思っていて。配信シングルの連続リリースでは、そのつながっていくバトンを花束に見立てているんです。