Homecomingsが配信シングル「アルペジオ」をリリースした。
2021年5月にポニーキャニオン内のレーベル・IRORI Recordsからアルバム「Moving Days」をリリースしてメジャーデビューを果たしたホムカミ。バンドにとって8カ月ぶりとなる新作「アルペジオ」は、広瀬アリスが主演を務めるドラマ「失恋めし」の主題歌として書き下ろされた1曲だ。聞き手に寄り添うような畳野彩加(Vo, G)の澄んだ歌声と、さわやかなバンドサウンドがマッチしたギターポップに仕上がっている。
音楽ナタリーではバンドのソングライティングを担う畳野と福富優樹(G)の2人にインタビュー。「アルペジオ」の制作秘話はもちろん、メジャーデビュー以降の活動、創作におけるアティテュードについて話を聞いた。
取材・文 / 下原研二撮影 / 小財美香子
メジャーデビュー後の活動
──2021年はメジャーデビューというバンドにとって大きな変化がありましたが、振り返ってみてどんな1年でしたか?
福富優樹(G) コロナ禍の中でのメジャーデビューなのでお祭りみたいな華やかさはなかったけど、その分作品作りに集中できたし、自分たちの表現と向き合えた1年だったのかなと思います。ラジオにリモート出演する機会が多かったり、いつもと違う形でのプロモーションにはなったけど、逆にバンドに関わっている人の多さを実感できたというか。「ありがたいな」という気持ちがずっと続いていて、自分たちのことはもちろん、サポートしてくれている人たちのことも含めいろいろと見つめ直す期間になりました。
畳野彩加(Vo, G) うん。いつもだったらアルバムを出して1年くらいは次のことに頭が回らないんですけど、コロナで外に出る機会も減ったし、「次の作品はどうしようか」とじっくり考えることができました。本来ならもっといろんな場所でライブができたんだろうなという寂しさはありますけど、曲作りに集中できたし、これはこれでよかったのかなって思います。
──コロナ禍で活動は制限されたけども、思うようにいかない1年ではなかったと。
福富 もちろん、夏のイベントが中止になったりしたのは悲しかったですけどね。物作りというものに向き合えたような気がするし、12月にやったクリスマスライブも細かい部分まで作り込めたのでよかったかなと思います。
──活動のフィールドがメジャーに移ったことでプロモーションの規模自体もこれまでより広がったと思うんですけど、新しいリスナーに自分たちの音楽が届いている実感はありました?
福富 ライブは感染症対策で集客を制限していたこともあって現場での新しい出会いは少なかったけど、いろんなラジオ番組に呼んでいただいて今まで会ったことのないDJの方とお話したり、SNSを通して初めて僕たちの音楽を聴いたという人を見かけたりする機会は多かったですね。あと、いろんなラジオ局で「Here」をパワープレイに選んでもらったり、新宿をボーッと歩いていたら街頭ビジョンにラジオのオンエアチャートが表示されていて、BTSやKing Gnuを抑えてHomecomingsが1位だったんですよ。それを見たときはすごくうれしかったし、今までよりも広い範囲に僕らの音楽が届いているんだなって。
畳野 レーベルがプロモーションに力を入れてくれているのも実感しました。
凝らないって感覚がわからない
──先ほど軽く話に出ましたけど、12月のクリスマスライブ「Garden With A Holy Light」は皆さんの演奏はもちろん、ステージの装飾も凝っていてよかったですよね(参照:Homecomings、変化と優しさに向き合った2021年を締めくくるクリスマスライブ)。
福富 2020年のクリスマスライブはホールだったので舞台で使うような壁と窓を用意していただいたんですけど、今回はライブハウスということもあってそこまでの作り込みはできないから、照明でかわいい感じにできたらいいねとスタッフさんと話していて。O-EASTにサブステージがあったことを思い出して「どうせだったら部屋みたいな空間を作って、そこで彩加さんが1曲演奏したら面白いかも」というところから始まって、細かい部分を詰めていった感じですね。
──では、あのセットは皆さんからの発案だったんですね。
畳野 夢を見たんですよ。
──夢?
畳野 たぶんステージに立つ人にとってはあるあるだと思うんですけど、ライブする夢をたまに見るんです。そのときはスタンドライトがたくさん並んでいるステージで歌っている夢を見て、次の日にクリスマスライブの打ち合わせがあったからその話をボソッとしたら採用してくれて(笑)。
福富 僕以外の3人が同じ夢を見たらしくて……。
畳野 見てない、見てないですよ。何その意味わからない嘘(笑)。
──(笑)。Homecomingsはライブのステージもそうですけど、作品のパッケージも凝ってますよね。メジャーデビューアルバム「Moving Days」は、“引っ越し”という作品のテーマに合わせて歌詞カード1枚ずつに部屋の間取りのイラストが描かれていたり、初回盤はダンボールのスリーブ付きとなっていたりしました。そういうパッケージの作り込みにはもともと思い入れがあるんですか?
福富 うーん、逆に、音楽以外の部分には凝らないって感覚がわからないんですよ。初めてミニアルバムや7inchを出した頃から「パッケージはこういうふうにしたい」みたいなこだわりがあって。サヌキナオヤさん(京都出身のイラストレーター / マンガ家)と出会ってからよりそういう部分も作り込むようになりました。例えばCDを出すとして、盤面やケースの表裏、側面とか遊べる部分がたくさんあるじゃないですか。せっかくリリースするんだから面白いものを作りたいというか、単純に「こだわらないほうが変」と思っちゃうんですよね。曲作りの最中はアートワークはぼんやりとしか考えてないけど、いい曲ができたらパッケージも自然といいものにしたくなる。
──なるほど。
福富 僕は小さい頃、音楽よりも先に小説を好きになったんです。星新一のショートショートをよく読んでいて、その影響で自作の小説を書いたりもしていました。小さい頃から興味を持ったものは自分でも作ってみたい欲求があって、今はそれをやりたいだけやってる感覚なんです。昔から空想癖があって、そこに好きな映画やレコードからの影響が積み重なって「こういうのがあったらいいな」というアイデアが自然と湧いてくるんですよ。シングルやアルバムのパッケージはそのアイデアを試す場所だと思っているから、そういう音楽以外のクリエイティブの部分を考えるのも楽しいんです。
──畳野さんはいかがですか?
畳野 Homecomingsはメンバー4人ともが物に対しての思い入れが強い気がします。今となっては「こだわっている」という感覚がないくらい自然なことというか、完成品は絶対に自分たちが好きなものじゃないと納得できない(笑)。
福富 アルバムのジャケットとかは僕がアイデアを出すことが多いけど、グッズは彩加さんがメインで担当しているんです。物販もアーティストによってはスタッフさんに投げてる人もいるけど、僕たちの場合は「こういうものを作りたいから、デザインはこの人にお願いしたい」みたいなやり取りを彩加さんが直接したりしていて。
畳野 「今年はパーカーが欲しいな」「小物を作りたいな」とか、自分が欲しいものしか作ってないから、それはそれでどうなんだ?という気もするんですけどね。でも、そこは人に任せたくないんです。
福富 彩加さんとは高校1年の頃から一緒だけど、球技大会のTシャツとか作ってたよね?
畳野 Tシャツ、好評だったんですよ(笑)。当時はなんの知識もないから、すべてのデザインを手描きで起こしたりして。大変だったけど楽しかったし、その頃の経験が少し今に生きてるのかも。
──ホムカミは音楽以外のクリエイティブを手間だと感じてないところがいいですよね。
畳野 うん、楽しいです。
福富 サヌキさんみたいな一緒に物作りができるパートナーがいるのも強みですね。
畳野 グッズはいつも高森崇史さん、NOIちゃんというデザイナー陣にお願いしているんですけど、完成したものを見ると「わかってくれてるな」って思うんですよ。言葉で伝えてない部分も私の要望を汲み取ってデザインに落とし込んでくれていて、そういうのを見るとつながっている感じがするというか。グッズの制作はそれが毎回楽しいし、うれしくなります。
──音楽以外のクリエイティブ面でもチーム作りができているんですね。
福富 それはシャムキャッツの存在がデカいなって思います。彼らはCDのジャケットにしてもグッズにしても、とてもこだわって作っていたから。Homecomingsの物作りの姿勢は、そういう好きで憧れていたバンドから受けた影響が大きいのかも。
次のページ »
「Moving Days」でやってないことをやりたかった